47 持つべきものは優秀な兄
休みが終わり、皆続々と学園へ戻ってくる。
変わっていないものもいれば、2ヶ月の間で色々と進展したもの、久しぶりに家族と会えまた離れることへの寂しさを抱いているものも大勢いた。
そんな中でも最も変わらない日常だったと言える私。いや、それでは語弊が生まれてしまう。変化が大きすぎた長期休みではあったが、周りからしてみれば特に実家にも帰っていなければ旅行にも行っていないため、休みに何をしているのかと問われる人種だなと思っただけだ。
そしてそんなくだらない話は本当にどうでもいい。問題なのは今日から行われる冬祭の準備である。
冬祭。それは学年、位の高さを問わずウィステリア学園で行われる祭。
毎年秋の収穫が無事終わったことへの喜びと、厳しい冬を頑張って乗り切ろーって言うのが主な趣旨。でも何分私達は学生であるためそんなの関係なしのただのお祭りだ。
毎年生徒会が何かしらの催しを考えるんだけど、今年は何になるのだろうか。その年の生徒会の味が出ると言われているけれど、いかんせん生徒会長がアル兄様であるため、全く想像がつかない。でもたぶんこういうのは全部リディ侯爵子息様がするんだろうな。
あとこの冬祭の最終日に来年の生徒会の投票がある。生徒会は学年関係なしに選ばれるが、来年はきっとヴィラクス様だろう。王太子さしおいて上になる方がそれこそ怖くて次の日から学校へいけなくなる。
もちろん投票で選ばれてるんだから自信を持っていいよって話なんだけどこう、、うまくいかないよね。
前世までは今年の生徒会長はルドフィル・リディ様、来年から4年生まではヴィラクス殿下が。そして私が副生徒会長だったが、3年時から票が移り変わりマリアナ子爵令嬢に副生徒会長の座を奪われる。そして私は恥をかく。
というのが一連の流れだが、要するに私がはじめから副生徒会長になんてなれなければいい話だ。
1,2回目の人生は多少、いやだいぶ目立とうと頑張ってたから仕方ないかもしれないけど、3回目の人生からは私は極力目立たぬように、みんなに認知されないようにひっそりと生きていたはずだ。が、やはり副生徒会長になってしまっている。運命の強制力か何かは知らないけれど、ここまで来ると目立たない作戦はほぼ不可能。
ならば賄賂を持ってアル兄様のところに行くしかない。
◇◇◇
「お忙しいところすみません。生徒会の件なのですが、どうしてもその、、生徒会役員になるのが嫌なのです。どうにかできませんか、アル兄様……?」
何卒、と前にヨイからもらったあおい宝石を差し出す。
自分で言っててなんて自意識過剰で恥ずかしいとも思うがもうこれに関しては仕方がない。多少の犠牲も必要だ。
「……ちょっと話の内容がよく見えないんだけど、どういうこと?」
「その、、自意識過剰な発言をしているのは重々承知の上なのですが、私は公爵令嬢です。それに来年はヴィラクス殿下に続いて次に位が高くなります。すると必然的に私が生徒会役員に選ばれるでしょう。ですが私はそれをなんとかして回避したいのです」
まあ落ち着きなよと温かい紅茶を入れてくれる。落ち着いて入るのだが、なんせ私と一応ラナンスキュラ家の名誉に関わることなので落ち着いてばかりでもいられない。
「そうだね……。イリスが生徒会役員になるのは自然な流れだね。でもどうしてそんなにもなりたくないんだい? 生徒会役員になれば名誉はもちろん、卒業後は貴族社会を生きていくうえで安泰だろう。逆に公爵令嬢であるがなれなかったとうう外聞のほうがイリスにとっては辛いと思うが」
確かにそれを言われるとそうなのだが、はじめから入らないのと後から席を奪われる後を天秤にかけたら後から席を奪われる方が何倍も恥である。ある程度辱めに対する耐性は持っていても出来れば避けて通りたい道だ。
「……なら、兄様は生徒会長になりたかったですか?」
はっとしたようにアル兄様がこちらを見つめる。
「名誉が得られるからと、兄様は喜んで生徒会長になりましたか?」
少し時間をおき、アル兄様が答える。
「…………確かに、僕は生徒会長という仕事が煩わしくて仕方がなかった。名誉や恥など知ったことではない。……そうか、イリスも同じ気持ちなんだね」
全く持って同じ気持ちではないが、たぶんアル兄様にはこっちのほうが伝わってくれると思った。
正直言って理由は何でもいいのだ。私が生徒会役員、副会長にならなさえすれば。
「わかった。出来るだけ僕の方でも工夫してみるよ」
「ありがとうございます!!」
あまりに嬉しさにアル兄様に飛びつく。
なんてできた人間だ。なんてできた兄なんだ。
嬉しすぎて涙が止まらなさそう。
「……あまり期待しないでね。これに関しては僕が手を付けられる範囲は決まっているから」
「いえ、それでも構いません。本当にありがとうございました。冬祭の生徒会の出し物もがんばってください!」
そう私は言葉を残し、生徒会室を立ち除いた。




