2-13 お嬢様は神鳥の上から使命を叫ぶ
「はーーーい、注目! 今からとっても大事な事を言いますよ。よく聞いてね」
大人からこどもまで、みんなに伝わる様に、わかりやすい言葉を選ぶ。
「みなさーーん、私はナルニエント公爵令嬢のジェシカです。ナルニエント公爵令嬢の、ジ・ェ・シ・カ! そう私は以前にも神鳥から神託を受けました。今日、新しい神託を受けたので、使命を果たしに出発します。ヨーロピアン国を、みなさんを守るために、私は動きまーーす」
みんなが、私に注目しているのを感じながら、一人ひとりに話しかけるつもりで声を出す。
「もう一度言います、私はナルニエント公爵令嬢のジェシカ。神託を受け、神鳥と共に使命を果たしに出発します。みなさん、このことを、どうか多くの人に知らせて下さい。神鳥は、私達と共にあります! だから、安心してねーー!!」
思いっきり笑顔で、腹から声をだしながら、大きく手を振る。
数秒の沈黙の後、あちこちから歓声が沸きあがった。
「神鳥様、バンザーイ! ジェシカお嬢さま、バンザーイ!!」
「キャーー!! ヨーロピアン国に幸あれ!!」
「ジェシカお嬢だーー!! ジェシカお嬢が神鳥様に乗っているぞーー」
「ナルニエント公爵令嬢、宜しくお願いしまーーす!」
民からの声は聞こえるが、城から、つまり貴族からは反応はない。まあ、想定の範囲内。
(お兄様、フランツ王子、黙って行っちゃうの許してね。でもまあ、こちらは選択の余地なしな状況だし、モハード先生がなんとかしてくれるでしょう)
「オッケー、チカちゃん。場所をかえるわね。あと4,5回繰り返してから出発しましょう」
「え、4,5回ですか? 大声だすって、けっこう疲れるんですけど」
「ちょっと、チカちゃん? 神鳥のお告げを受けて、使命を果たしに行く人が、これ位の事で泣き言言わないの」
「ああ、はい、そうですねえ……」
「チカ、すまない。オレは役立たずだな」
「そんなことないよ、ライガ。ライガは側にいてくれるだけで、じゅうぶん役にたってるんだから」
「あらあら、仲良しなのね。羨ましい。私も新しいダーリンがほしいわ」
などと、空の上では比較的に和やかな雰囲気で過ごしながら、私はこの大声でのPR活動に努めたのだった。
とは言え、後からモハード先生に聞いたところによると、城内はまあまあな騒ぎになっていたそうなんだけど……。
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「もう一度言います、私はナルニエント公爵令嬢のジェシカ。神託を受け、神鳥と共に使命を果たしに出発します。みなさん、このことを、どうか多くの人に知らせて下さい。神鳥は、私達と共にあります! だから、安心してねーー!!」
ジェシカ嬢の、令嬢としては考えられないくらい太く、大きな声が城外から響きわたる。
フランツはこの状況に唖然とした。女性がこれほど大声をだせるとは。
しかも、彼女は神鳥に乗っているのだ。
過去の文献から、人が神鳥に乗る、等という記載はみたことがない。
どういう事だ?
シャムスヌール大帝国の王族がジェシカ嬢に求婚にきたかと思えば、彼女は実は専任剣士と結婚していたと言う。そして、神鳥がやってきたと外をみると、なぜかジェシカ嬢がその神鳥の背から、新たな神託を受け使命を果たしに行くと雄たけびを上げていた。
何が起こっているのだ?
父王や兄達、そして戻って来たヌンジュラの顔をみても、誰もが目を見開き、驚愕の表情を浮かべている。
勿論、能面を貼り付ける術に長けた彼らの顔は、表面上はいつもとさほどかわらない。
しかし、彼らの放つ言葉から、フランツにはその異常な心のざわつきが理解できた。
「何事なのか、誰かわかるものはおらぬのか?」
国王の問いに、答えられるものはいない。
ジェシカの兄のアーシアは真っ青な顔で、食い入るようにただ神鳥を見つめている。
他の貴族達、そして城内で働く者みなが、一種の放心状態だ。
思わず口をつく言葉の端々に、人々の不安と驚きの色がにじむ。
「いや、まさか……」
「なぜ……どうなっているのか……」
「公爵令嬢が、またもや……」
「ほほほ……、これはこれは」
ふと、この場に似つかわしくない水色と黄色の言葉の方をみると、ある老人の存在に気づいた。
あれは、確か以前にヨーロピアン公国でみかけた者ではなかったか。
視線に気づいた男は、フランツに顔を向け、楽し気な笑みを浮かべた。
フランツは、自分の肩の力が、フッと抜けるのを感じた。
なるほど、ジェシカ嬢のまわりでは、事件が起こり得る。
彼女の元には、非凡な者が集まる。
これ位で驚いていては、彼女の側にはいられないのだ。
友として、王族の一員として。
彼女を信じ、彼女が動きやすいようにサポートする。
それが自分の役割なのだろうと瞬時に理解した。
フランツは、肚に力をいれ、落ち着いた声を発した。
「どうやら、ジェシカ嬢がまたもや、ヨーロピアン国の為に活躍してくれそうです。彼女は、過去にもこの国の為に奔走してくれました。今回も、きっと使命を果たしてくれるでしょう」
「……フランツ、そなたはジェシカ嬢の、その使命とやらを知っているのか?」
父王の問いに、フランツは微笑みながら答える。
「いえ、全く。しかし、私は彼女が、この国を愛している事を理解しています。彼女の突飛な行いは、民を守る為のもの。それさえわかっていれば、なんら問題はございません。我々は、のんびりと彼女の持ち帰る成果を、ここで待つだけでよいのです」
その力強い言葉、声の張り、そして穏やかな表情で。
父王をはじめ、その場にいた者全員の不安を、フランツは軽やかに祓った。




