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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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命の重み 5

 燃え盛る炎を思わせる翼を羽ばたかせて、ゆったりと降下してくる影が一つ。

 距離があるうちは小さく見えていたそれは、近付くにつれて大きくなり、すぐに数倍にまで膨れ上がっていく。


 最近、何度か遭遇してるワイバーンってやつだね。

 しかもまた尻尾がないってことは同一個体? ……まさかストーカーじゃないよね?



「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」



 そして、おそらく初対面であろう借金取りくんは、驚いて尻もちをついていた。


 無駄に大きいから強そうに見えるんだよね、コレ。でも実際は強くないというか、弱いというか、雑魚というか……。

 おっと、そういえば帰ろうとしてたんだ。次々と集まってくるから困っちゃうよ。



「それじゃあボクはこれで。あなたもそんなところで座り込んでないで、逃げた方がいいですよー」


「こ、腰が抜けて……うっ、動けないんだよぉ……!」



 走って逃げてくれたらいい囮になると思ったのに。まったく期待外れな人だよ。

 まあ、そこにいれば自然とエサになるから、時間稼ぎくらいにはなるか。



「みーーーーつけたぞっ! このクソチビが!!」



 背を向けて一歩踏み出したところ、上空から品のない声が響いてきた。

 って、上空? 後ろの人じゃないってことは、もしかして…………。



「えっ、しゃべれたの? ぎゃおぎゃお五月蠅いだけじゃなかったんだ……」


「おうおう! オレっちのことバカにしたか、アァ?? 調子に乗んじゃねぇぞ、テメェ!!」



 考えてみれば、ゴブリンやコボルトだって話せるんだから、ワイバーンに出来ない方がおかしいのかも。


 けど、話し方は流暢なのに何でこうもバカっぽいというか、雑魚臭がするんだろう?

 いっそ鳴き声のみだった方が、賢そうだったまであるんじゃないかな。



「ビビっちまったのか? だがよ、オレっちはキレちまってんだ、生きて帰れると思うな!」


「いや、この前逃げ出したのはそっちでしょ。

 もう帰りなよ。後ろから攻撃したりしないからさ、ね?」


「う、うるせえっ!! 貧弱な人間風情がっ!!!」



 挑発スキルを使ったわけでもないのに、ブレス攻撃の準備モーションに入るワイバーン。


 あっちも僕のことをちゃんと認識してるみたいで、借金取りくんには目もくれないよ。

 それなら、ただ火を吹くだけじゃ効果がないって、きっと分かってるよね?


 仕方ないなぁ。一回くらい当たってあげるか。



「GYAOOOOOOOOOOOOOOOO!!」



 お馴染みの鳴き声に続いて、視界が赤一色で染まる。


 うわー、完全に前と同じだよ。

<火耐性>スキルが優秀過ぎるから、暖かいだけでノーダメージだね。



「う、うわあああああああああ!? 助けてくれぇぇぇぇっ!!?」



 違うのは野太い悲鳴と、走って逃げようとする足音が聞こえることくらいかな。

 腰が抜けたとか言ってたけど、逃げてるじゃんね。


 そんなのんびりした事を考えていたが、実はもう一つ。

 僕の頭から抜け落ちている事があって――――。



「なんでだよっ!? オレっちの炎が効かないなんておかしいだろっ!!」


「……全く効いてないわけじゃないよ。見てよコレ、黒焦げになっちゃったじゃん」



 手元に視線を落としたら、包んでいた布ごと炭になったリーゼがいた。

 中身は無事かもしれないと捲ってみたところ、ボロボロと崩れ出したのでこのままにしておこう。


 僕の服とかは何ともないし……なんなら、盗賊の頭もそのままだね。

 となると火耐性スキルの効果は装備品には及ぶけど、生きてる人間は装備品判定されないから及ばない、ってことかな?


 ま、ここら辺のシステムはだんだんと分かってくるでしょ。



「うるせえっ!! それがどうしたって――」


「<サンダーランス>、うるさいのはそっちだよ」



 魔法の雷で構成された槍が、ピカっと光ってワイバーンの胴体を貫く。

 時間的には瞬き一つの出来事で、彼は地面に伏せて動かなくなった。



「ちょっとした衝撃で崩れちゃうから、静かにしてね」



 手を抜いたからなのか、それとも耐久値が高かったからなのか、炭にはなってないね。

 というかコレ、いい感じに焼き目がついた? 香ばしい匂いもするし。



 さてと、リーゼにはまた蘇生魔法をかけないとね。まったく、すぐに死んじゃって~。

 そういうか弱いところがヒロインって感じだな~。



「――――っ!!」


「ん? 今、何か聞こえたような?」



 耳を澄ませても、既に虫か動物達の鳴き声しかしないけど、確かに()()()()が聞こえたと思う。

 うーん、帰ってもいいんだけど、ここまでくると気になるし……。



「まあ、ちょっとだけ。ちょっとだけだから……あっと、リーゼはここに置いてった方がいいよね」



 炭の塊なら誰も持って行かないだろうし、蘇生は後回しかな。

 じゃあ行ってくるよ。戻って来たら色々と遊ぼうね~。




 ***




「あれ? キミって、前に召喚したレイス? こんなところでどうしたの?」



 声が聞こえた方へ向かうと、ゆらゆらと揺らめく(もや)状のモンスター――レイスが浮かんでいた。


 その後ろには虚ろな目をした借金取りくんが立っているから、おそらくは彼が先程の声の主なのだろう。

 また、彼だけではなく、周辺にも百人程度が同じような表情でただただ突っ立っている。



「ウオォォォン! ウオォォォン!」


「そっちの、生命反応ないね。もしかしてゾンビにしたの?」



 初めてレイスに会った時は、大量のゾンビを引き連れていたっけ。

 死者をゾンビ化させる能力があるって、ノラかエルネ辺りから聞いた覚えもあるよ。……それともユリアだったかな?


 そこは朧気(おぼろげ)だけど、これを召喚した時にも、そういった能力があるってことは伝わってきたから!

 間違ってない! 間違ってない……はず? たぶん、そうだった。



「ウオォォォン……」


「ん? いや別に、知り合い未満って感じだから構わないよ。

 もちろん、その後ろの人達も、ね」



 相変わらず何を言っているのかなんて分からないはずなのに、考えている事が伝わってくるから意思の疎通は問題ない。


 そういえば、やってほしい事が思いつかなかったから放置したんだったね。

 防具とか付けた人は冒険者だとして、何の装備もしてないのはどっかの村人かな? それとも迷子?



 ま、何でもいいや。興味もないし、好きなようにやってくれれば――いやでも待って?

 ゾンビ……ゾンビかあ。フフ、イイ事を思いついちゃったかも。



「ねえ、ちょっと協力してくれる?」


「ウオォン!!!」



 どこか力強さを感じさせる呻き声と共に、ぴょこぴょこと靄のようなものが上下している。


 多分激しく頷いてるってことなんだろうね。

 レイスもやる気みたいだし、存分に手伝ってもらおうかな。

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