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異世界王国と放浪少女と百合  作者: 山木忠平
2章 商人と親子
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命の重み 4

「<クリア>。さてと、これを持って帰れば十分かな」


「なっ、なにしてんのよ、あんた……!?」


「え? 何って、ただの討伐証明ですよ? 切断面を<アイス>で凍らせてっと、これなら血が垂れないよね」



 頭を拾い上げて状態を確認していたら、何故かリーゼに引かれていた。

 討伐したモンスターの特徴的な部位を切り取って提出するというのは普通の流れのはずだ。


 盗賊達のボスについては別枠で書いてあったから、こいつだけは頭全体を持ち帰ることにしたんだけど、何か変だったかな?



「リーゼさんも依頼でこんなところまで来たんだし、知ってるよね?

 もしかして、どこか間違ってますか?」


「間違っては……ない、けど……それじゃあ、まるっきりモンスター扱いじゃない…………」



 どうもこの死体の扱い方に、彼女は戸惑っているみたいだね。

 これを殺した時も罪悪感とかほとんどなかったし、そこがおかしいのかな?


 いや、待てよ。これまで殺してきたのって盗賊――つまり悪人ばかりだよね?

 悪人だから死んでも問題ないと思えるのかも。



「よし、じゃあちょっと試してみよう。少しだけ我慢してね~」


「っ!? ――な、んで…………」



 手荒に扱ったら罰が当たりそうな柔肌が、噴き出した血で赤く染まっていく。

 一度は盗賊のそれで汚された部屋も、上塗りされて綺麗な赤い部屋に早変わりだ。


 うーん……やっぱり、悪人だからって理論は違ったみたいだ。

 だって、彼女をヤった時の感触も、これといって特別感はないもの。


 まあ、そうだよね。

 悪人だろうと善人だろうと殺したことに変わりはないんだから、違いがないのは当然の話だったよね。


 それにしても、これじゃあモンスターを狩った時と変わらない……ん? 変わらない?



「『まるっきりモンスター扱い』って、そういうこと?

 あ、そっか。リーゼさんはもう教えてくれてたんだね」



 モンスターも人間も同じ生物(いきもの)なんだから、殺した時の感触も感想も同じなのは当然じゃないか。


 初めてモンスターを狩った時は、すごく嫌な感触だった……ような気がするし、次第に慣れていった結果が今なんだよ。

 要するに、もう慣れたからあまり特別に感じないってことだよね~。



「そっかそっか~。もしかして自分はどこかおかしいのかと疑っちゃったけど、そんなことはなかったか。

 ふぅ、何だか疑問が解けてスッキリした~。

 ――あ、リーゼさん? そんなところで、しかも裸で寝てたら風邪ひくよ?」



 なーんて、死んでるよね。冗談だよ、冗談。

 えっと……まあまあ。蘇生魔法もあるんだし大丈夫だって、ね?


 そうだ、いい事を思い付いた。蘇生する前に下半身を切り離してあげよう。

 こうすれば足りないところはキレイな部分から生えてくるから、汚されたところはなくなるわけだよ。


 天才の発想で自分が怖いね、ははは。




 ***




 盗賊の拠点最深部でリーゼを回収出来たので、入り口まで戻ってきた。

 蘇生魔法で生き返った彼女ではあるが、数十分くらいは目を覚まさないからお姫様抱っこ状態だ。


 ちなみに、彼女の服らしきものは切り裂かれてボロボロになってたよ。

 僕の時も服を狙ってきてたし、裸に()くのが趣味なんだろうね。うん、いい趣味だ……。


 なので僕も見習って、インベントリに入っている僕の替えの服ではなく、薄い毛布に(くる)んであげてるよ。



 呼吸する度に薄い布の胸元部分が小さく上下して、いつ(はだ)けるんじゃないかとドキドキするな~。

 え? もう裸は見てるだろって? いやいや、見えそうで見えないのがいいんだよ! ……裸も興奮するけどね。



「ピンク髪の女!? なんでここにいるんだ??」



 うきうきで手に入れた美少女を持ち帰っていたのに、無粋な連中に声をかけられた。

 身なりからして盗賊の生き残りっぽい二人組の男達だ。


 拠点内にいた人間は全て片付けたから、あの魅了スキルを使った二人みたいに見回りにでも出ていたんだろうね。

 それはいいとして、僕のことを知ってるみたいな反応してなかった?



「……新入り、知り合いか?」


「へ、へいっ! 取り立てを邪魔してくれやがった冒険者の片割れでさあ!」


「取り立て……? あーもしかして、借金取りの人かな?」



 顔に覚えがあるような、ないような人だと思ったら昨日会ったばかりの人みたいだ。

 でも、隣の人は誰だろう? 確か昨日はロン毛の人と一緒だったと思うんだけど。



「冒険者かよ……」


「へへっ、仲間が怪我してるみたいですし、俺達でやっちまいましょうぜ! お(かしら)に差し出せば、きっと大喜びですぜっ?」


「そう? ねぇ、喜ぶの? というか、喜べるのキミ?」



 腰からロープで吊るした()()に問いかけてみる。

 持っているのも嫌だったからこうしてみたけど、ぷらぷら揺れて邪魔なんだよね。



「はあ? 誰と話して――ひぃぃっ!? おっ、お(かしら)!?」



 この人が盗賊達のボスというのは嘘ではないみたいだね。

 ま、一応確認しておこうかなって思っただけで、疑ってはないけどね。



「ほ、他にも仲間が……? っ!! あのドワーフがやったのか! いや、もっと強力な助っ人を連れて来やがったか!?

 クソっ、すました顔しやがってっ! お前だけでもぶち殺してやる!! そうっすよね? アニキ――へ???」



 勝手に盛り上がる借金取りくんが隣を見ると、相方の姿が消えていた。



「……話してる途中で逃げちゃったよ? ほらあそこ、まだ背中見えるでしょ?」



 僕は親切なので、必死に逃げる盗賊を指差して教えてあげる。

 まだ、そう遠くないところにいるので、ダガーを投げてもいいし、魔法でも十分に対処可能な範囲だ。



「そんなっ!? ……クソッ、くそぉぉぉ。

 どうしていつもこう、俺はついてないんだ…………っ」



 彼の後を追って逃げ出すのかと思えば、これまでの人生を悲観し始めたよ。

 んーと、別に「盗賊を全滅させろ」とかって依頼じゃないから、放置でいいかな。



「あー……じゃあ、なんか頑張ってくださーい」



 さて、リーゼはどこで起きるかな~? 街まで起きなかったらそれでもいいけど~。

 途中で起きたら「パーティに入ってくれないと、その恰好で放置するかもよ?」なーんて言ってみたりして~。



「――せっかく、あのクソ野郎が勝手に死んでくれたってのによお! 盗賊にまで落ちるハメになるし……」



 ん? 「勝手に死んでくれた」? それって、もしかしなくてもフローラの父親のこと?

 そういえばこの人、前から知り合いみたいな空気出してたよね? ……仕方ない、ちょっとだけ聞いておくか。



「あの、その話詳しく聞かせてもらえます?」



 ということで聞いてみたんだけど、あまりにも要領を得ない話だったから簡単に要約するよ。


 なんでもこの人、元は宝石を主に扱う商人だったみたいだね。

 それでフローラの父親と商売がかち合っちゃったらしく、普通に客を取られて商売も続けられなくなったんだとさ。


 誰かの成功は、誰かの失敗の上に成り立つってね。



「へー、それは大変だったね」


「そうだっ、あいつがいなければ! あいつさえいなければっ、俺の商会だって夢じゃなかったはずなのに……!!」



 でも逆に、誰かの失敗が自分の成功に繋がるとは限らないんだよね。

 どうしてなんだろう? そんなのって変だよねー。


 とりあえず分かったのは、そんな経緯があったからフローラ父に粘着してたってところだね。

 商人ねぇ……彼にとっては(いま)だに執着(しゅうちゃく)するくらいには魅力的なものだったのか……いや、違うかな。


 執着してたのはフローラ父に対してっぽいよね。彼という復讐の対象がいたから、絶望しても復活出来たわけだし。



 何にしても話を聞いた感じ、やっぱり僕には商人は向いてないよ。

 うるさい客の対応だけじゃなくて、商売敵(しょうばいがたき)なんてのも気にしないといけないなんて……他の商人は魔法で全員消すとかは、やっぱりダメ?



「……次はおまえだ。俺の邪魔をするやつはすべて排除しないと、俺の幸福がやってこないんだよっ!!」



 うわー僕のせいだってさ。ひどいよねぇ? 人のせいにするのは良くないよ。

 なんてことはどうでも良くて、うーん……小さなナイフ握りしめちゃって、そんなので死ぬなら苦労はないよ。


 といってもそれは僕だけの話で、今はリーゼをもってるからね。

 間違ってこの()に刺さっちゃったら、また蘇生しないといけなくなるし、攻撃魔法でやるか。



「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」



 なんてことを考えていると、頭上から咆哮が轟いた。

 この鳴き声って、前にも聞き覚えがあるような……。

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