命の重み 3
盗賊が拠点にしている洞窟はとても単純な構造らしく、入口から最奥まで一本道のようだ。
なので、何の考えもなく進むだけで次々に彼らと出会うことになった。
「こ、降参だ……! もうやめ――ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!?」
魔法の火に呑まれた男の絶叫が木霊する。
それは数秒もしないうちに炭化し、取り落としたナイフの傍らに転がった。
頭を切り落としたり、体中穴だらけにした仲間達と同じで、生命反応は消えたっぽいね。
これならゴブリンやコボルトとそう変わらないから、盗賊討伐は問題ない。
――――そう、そんなことは問題じゃないんだ。
問題なのは、今僕が感じていること。いや、感じていないことか。
――人を切り裂いたり、切り落としたり、貫いたりする感触はいいものじゃない。
――魔法の雷で焼かれたり、炎で炙られたり、水圧で押し潰されたりする様を見ていたいとは思わない。
――断末魔や悲鳴、嗚咽を聞いて悦びが溢れてきたりはしない。
人を殺すという行為を繰り返したが、そこから良い感情は得られなかった。
でも、なんというか……それだけなんだ。
良くはないけど、悪いということもない。
つまりはどっちでもいいやという、淡白な感想しか出てこなかった。
どうしてこうも心が動かないのかな? 人を殺したというのは、もっと重大な事だと思ったんだけど…………。
「ひぃ!? な、なにが目的なんだ――ですか?? なんでもします! 助けてくださいっ!!」
何でもするって、美少女だったら色々してもらいたくなるけどおっさんはなぁ……。
とりあえず、あの娘がどこいるのか聞いてみようかな。
***
「こちらですぜっ! ここでイイ女はみんな頭が食っちまうんでさ――ぁっ」
粗末な木製の扉を開けた下っ端盗賊が、何とも間抜けな声を残して倒れた。
その背中には深々と刺さったダガー。誰がやったのかは全く分からないが、彼の後ろにいた人物にやられたのは明白だろう。
「!? ――ひっ」
「ノックもなしか? 人様の家では礼儀をわきまえるもんだぜ」
吊り下げられた室内灯の放つ温かな光が、横になった一組の男女を照らしている。
ただただ驚いて固まっている女と、余裕を表したいのか緩慢な動きで静かに語る男。それぞれ対極的な反応を示してきた。
いや、そんなことはどうでもいいよ! それよりもこいつら――全裸なんだけど!!
でもでも、まだ事に及ぶ前かもしれない! …………は、ないか。
立ち上がった彼女の太腿をつーっと伝い落ちていく謎の液体が見えるもの。
「……水魔法ならキレイに出来るかな?
でも、威力を間違えたら破裂しちゃったりして……クリアだったら、あそこもキレイにしてくれたり――」
「ああ? 何一人でぶつぶつ言ってやがんだ?
……ほぉ、面は悪くねえなぁ」
とても重要な事を考えてるというのに、男の方が邪魔してくるんだけど。
それと、どうでもいいけど下半身丸出しなのに堂々としないでほしい。
「な、なんであんたがここに……っ!」
「あ、その反応なら大丈夫かな。もちろん、リーゼさんを助けに来たんだよ~」
良かった。あっちも僕のこと覚えててくれたよ。
まだ関りが薄いから忘れられてるかもって、心配だったんだよね~。
「はっ、まだ仲間がいやがったか。ペラペラとしゃべる口軽女かと思えば、楽しませてくれるじゃねぇか」
「……ううん。リーゼの仲間にぃ、こんな子いないよぉ? なんかぁ、付きまとわれてるのぉ」
「そうだね、まだ違うね。
だからボクのパーティに入らない? 色々とあってメンバー募集中なんだよね~」
前会った時に軽く勧誘したことも覚えてるかな?
あれから少し経ったし、気が変わってるかもしれないよね~。
ちなみに、後半の言葉は聞こえなかったことにするよ。
「はぁ? 意味わかんねぇ。つーか離せ、邪魔だ」
男は左腕に抱きついていた彼女を手荒に剥がすと、こちらに近寄って来た。
「で、そっちの目的は? まさか勧誘に来たってわけじゃないだろ?」
「もちろん、リーゼさんが目的に決まってるでしょ。……あと、盗賊達を倒せば、ついでに依頼も完了に……なったかな?」
九割くらい忘れていた依頼のことを思い出してみる。
確か、盗賊の拠点を滅ぼせばいいんだっけ?
……あーそうだった。盗賊のボスを倒したって、何かしら証明するものが必要だね。
「ついで、か。舐められたもんだ……。そこの女が欲しいんだったな?
いいぜ。くれてやるよ。ただし、おまえが代わりに楽しませてくれよなぁっ!!」
そんなことを叫びながら突進してくる――全裸で。
いや、ホント全裸はやめない? 服着る時間くらいあげるよ?
途中で立て掛けてあった剣を手に取ったから、戦う気なのは分かったけどさぁ……。
「面はいいが、体の方はどうなんだっ? 貧相な体じゃあ俺の相手は務まら――」
「<回収>からの、はいっと」
「は? あああぁぁぁぁああああああっっ!!!?」
スキルが発動すると、足下に転がる盗賊の背中に刺したままだったダガーが、僕の手に移動する。
男がゆっくりと剣を振り下ろすものだから、こちらも踏み込むタイミングをゆったりと計ってから手首を斬り飛ばした。
「だね。顔も体も、どっちも重要だってボクも思うよ。
ま、少なくともノラさんは気に入ってくれてたし、体も悪くはないと思うけどね……って、聞いてないか。うるさいだけだし、もういいよね」
手に続いて男の頭がボトっと落ちた。
驚き半分、苦痛が半分といった表情に見えるが、自身の首が落ちたことは認識出来ていないだろう。
それって、良い事なのかな? 悪い事なのかな?
あれ以上苦しい思いをしないのはいいけど、自分が死んだかどうかも分からないっていうのも寂しいかもしれないね。




