宝探し 2
入り口ではほんのちょっと騒がしくしていたが、「奥にはモンスターもいるはずだ」と二コラが気にするので、おしゃべりは控え目にして進んでいる。
先に言っておくと、その心配は正しいね。
なんで分かるのかって? それはもちろん、生命反応がこの先ウヨウヨしてるからだよ。
こんなところに大勢の人間がいるとは思えないし、モンスターで決まりだよね。
「っ! 止まれ――コボルトか。思った通りだな」
栄えある犠牲一号くんの登場だった。まあ、より正確には一号くんと二号くんだけどね。
背丈はどちらも人間くらいで二足歩行。でも頭は犬みたいな上に、獣系な体毛で覆われている。全身フサフサだ。
手には……何だろうアレ? ツルハシ? えっと、岩とかを砕くのに使いそうな道具を持ってるね。
仲良く並んで「WAUWAU、WAU?」とか、暢気に喋《しゃべ》ってるよ。
「ふぅ……よし、コボルトならEランクだ。あたしたちでも難なくやれるだろ。
あたしは左、アイリスは右だ――準備はいいな? いくぞっ」
僕の返事も待たずに走り出しちゃって、もうやる気満々って感じだよ。
きっとそれくらい雑魚なモンスターなんだろうね。
ということで、彼女のペースに合わせて僕もダガー片手に距離を詰める。
犬っぽい見た目から、嗅覚やら聴覚は敏感なのかと思ったが、割とそうでもないらしい。
二匹とも全然気付く様子がないよ。
「WAU……? !?」
間近にまで迫った時、頭の上に突き出た三角な犬耳がぴくぴくっと動いて、やっとこちらに振り向いた。
トテトテと隠す気があるのかないのか分からない、ニコラの可愛らしい足音にでも反応したのかな。
「遅いっての!! うおおりゃああぁっ!!」「じゃあボクも、えい」
やけに気合が入った掛け声と、やる気の感じられないそれに続いて、二つの肉塊が地面に倒れる。
ハンマーを頭部に受けて首が有り得ない角度に曲がったのが一つと、胸元を一突きされたのが一つ。
反撃されることもなく戦闘終了だ。
「ニコちゃん! ア~ちゃん! やった――うっ……」
「お、おい大丈夫か? できるだけ見ないようにしろよ? あと、臭いの方は……どうにかするのは難しいからなぁ」
「う、ううん、ダイジョブ。心配しないで……このくらいは慣れないと。わ、わたしも、冒険者なんだから……ね?」
思い返してみると、フローラがパーティに加入してから殺したモンスターって、ほとんどいなかったかも。
初戦の熊モンスターが唯一の経験ってことになるのかな。
でも、あの時は他に大変な事が起きてたし、意識の外だったんだろうなぁ。
「うんうん、こういうのって慣れが大切だよね。大丈夫、フローラもすぐに慣れるよ、っと。
一応、討伐証明になりそうなものは集めといたよ。あ、耳を切り取ったんだけど、これでいいよね?」
「ぁあ、それで問題ないはずだ。……おまえは少し慣れ過ぎてると思うがな。
まぁいい、そんなことよりもだ。ここはコボルトの坑道らしい――なかなか期待できそうだな」
最初の呟きは無視するとして、期待っていうのはどういうことだろう?
迷いのない表情で断言するんだから、相当自信があるっぽいけど。
「えーと、どうしてその、こぼ、こぼるー……コボルト? の坑道だと期待出来るの?」
「こいつらには鉱物を集める習性があるんだよ。
だから保管庫なんかがあると、引き寄せられてきたやつらと戦闘になることも珍しくないんだが……。
ま、そんくらいこいつらの鼻は信頼できるってわけだ」
ふーん、鉱物を集める習性ね。
言われてみれば、手に持ってるのは武器というよりは鉱石を掘るための道具っぽい。
……えっ。というか高価な鉱物って、僕達で掘らないといけなかったりするの? いやいや、そんなメンドーなことしないよねぇ?
んーとぉ、やっぱり宝箱システムって必要だと思うな! でもってイイ感じのところに配置してもらえたら、中身の鉱物だけパパっと持ち帰るからさぁ。
「おしっ! こんくらいはまだまだ序の口だからな? 気を引きしめていくぞー!」
言葉とは裏腹に、初のコボルト戦に勝利して上機嫌な二コラ。
そんな彼女を先頭にして、僕達はさらに奥へ奥へと進むのだった。