#34,出立
こんばんは。寒いですねぇ。
爽やかな風が駆け抜ける早朝。日がひょっこりと顔を出して暖かな光が地上を照らし出す。小鳥の囀りが新たな一日の始まりを告げていた。
まだひんやりと夜の静寂と冷たさが残る時間帯に俺は服装を整えて部屋を出る。トントントン…と同じリズムで響く足音は人のいない閑散とした通路を難なく伝わっていく。目の前に現れた大きなメイン階段を降りきった俺は視線上にいる人たちに話し掛けた。
「おはようなのじゃ。待たせたのぅ。もう全員おるのかの?」
軽く片手を上げ、メンツがすでに揃っている彼らに向けてそう言う。
「おはようございます。カエデ殿」
リーダー格たるアリウスはこちらに向けて笑顔を見せる。その挨拶を皮切りにエルフたちも続けて口を開く。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
「・・・・」
一番体格のいいガルドはそっぽを向き、ばつが悪そうに無言を貫く。それを見かねたソーラが肘でつつくと凄く言いづらそうに「…おっす」とだけ答えた。
「おはようございますカエデさん。良く眠れましたでしょうか?」
「う、うむっ。部屋は問題なかったのぅ!」
「? それは良かったです」
微妙に返答になってない俺の答えに少し首を傾げながらも、タマネさんは笑顔でそれを受け流す。長年、人と接する職業をやって来たおかげか、彼女はそれに触れない方が良いと悟ったようだった。そして、彼女は一度皆を見回してから口を開く。
「全員揃ったところで、さっそく話を始めましょう。───カエデさんを含めエルフ族の方々は裏口から出てもらい西側の王国通用門へ行ってもらうことになります。アリウスさんからお聞きしましたがエルフ族の“足”はそちら側の近くに置いてあるとか」
「はい。この町を訪ねる際、流石に隠しておかなくては目立ちますからね。分かりにくい森の中に隠してきた次第です」
タマネさんの言葉に付け足すようにアリウスが補足する。
「なるほどのぅ。じゃが、これだけ早くに門から出れるのか?」
早朝と言ってもまだまだ薄暗く、人の気配すら感じさせないほど時間が早いのだ。こんな時間帯に開けてもらえるのかと俺は不安を口にしたが。
「それの心配には及びません。こちらから既に掛け合って開門の許可は取っています」
彼女はその不安をもとから分かっていたように淡々と返答する。彼女は俺たちの知らないところで既に準備を全て終わらせていたようだった。流石タマネさんである。
「こちらが通用門を通るための“通行証”です。四人分ありますのでエルフの方々はこれらを見せてください。“冒険者”のカエデさんにはギルドプレートがありますので貴女はそちらを使用してください。衛兵たちには貴殿方は“護衛に冒険者を雇った旅人たち”と説明しています。ですので各自それにあった振る舞いをお願い致します」
彼女は持っていた通行証を配ってからそれらの説明をする。それを聞いていたアリウスは少し申し訳なさそうに眉を寄せ、彼女を見やる。
「何から何まで…本当に申し訳ありません」
彼は恐縮してそう言う。確かにここまで彼らはおんぶにだっこ状態。ほぼ彼女が対策をしてくれたお陰で彼らは安全にここにいられるのだ。彼はそれに大変負い目を感じているようだった。
「気にされなくてもよいですよ。これが私の仕事ですから」
「そうですか…。分かりました」
まだ納得してなさそうな彼だったが、それを飲み込んで頷き返す。タマネさんの言葉からこれ以上言っても意味がないと悟ったのだろう、彼はそれ以上口にはしかった。
「何か疑問な点はありますか?」
彼女は一頻り説明しきると見回してから最終確認を取る。彼らから無さそうだと確認すると眼鏡の位置を直してからこう言った。
「では───貴殿方の旅路に女神様のご加護がありますように」
ーーー
俺たちはタマネさんの見送りを得て裏口から西の通用門へと辿り着いた。
そういえば何回も通り抜けた所であったがまじまじと見たことはなかった。
通用門は両開きの木製の扉で町の回りに張り巡らされた柵に唯一ある出入口だ。柵の外側には壕が掘られ最低限の防衛ができるよう構成されている。出入口に当たる場所には跳ね橋のような仕組みの橋が取り付けられ開門と同時に降りる構造となっている。
「───よう。やっと来たか待ちくたびれたぞ」
俺が興味深げに見ていると嗄れた声が聞こえた。なんだか聞き覚えがある声である。
「あんた達だな。護衛の冒険者と旅人だと言うのは。朝早くからご苦労なこったな」
少し嫌味を混じらせながら言うその初老の男性は見張り用の建物から今まさに出てきたようで、こちらに近づくと全員を見回し…ふと俺に焦点が定まる。
「ん?…お前さんまさか狐の嬢ちゃんか?」
「ひ、久しぶりじゃのぅ~?」
俺は着けていた面をずらしてその男性に挨拶をする。声をかけられた時点で嫌な予感はしていたが。やはりというかこの男性は…。
「今回はちゃんと通れるんだろうな?毎度面倒な事は御免だぞ嬢ちゃん」
「わかっておるわっ。妾がいつも面倒かけると思わないことじゃな!!」
「胸を張って言うことかよ…」
俺の言葉に彼は肩をすくめ、さっさと踵を返して建物へと向かう。
「ほらさっさとこっちへ来い。今回はちゃんと確認するからな」
「うむっ。大丈夫じゃっどんとこい!」
「どうだか…」
俺の元気ある返事は彼には逆効果だったようだ。まあ始めてあってから計三回ほどこの男性に許してもらって中に入れているのだから仕方ないかもしれない。
男性に続き、俺、アリウス、アドス、ソーラ、ガルドの順で扉を潜り、部屋の中へと入る。そこは質素な木製の小屋のような間取りでいくつかの事務机と書類棚が置かれ、入りきらなかった書類たちがあっちゃこっちゃと机の上に散らばっており、それを見ただけで忙しい職場なのだなと理解できるものだった。まるでどこかのブラック会社のようで、俺には懐かしさすら感じてしまう。
「ほらまずは狐の嬢ちゃんからだ」
俺は男性に言われるままに左手を出す。そこには“冒険者の証”であるギルドプレートが青々と輝いていた。それを見た彼はうむと満足そうに頷いて書類に何かを書き足す。
「よしいいぞ。次だ次」
彼はそう言って催促し、次々と確認していく。俺はギルドプレートだったがエルフたちは“通行証”を順次見せていき、それは着々と進んでいく。
何事もなく終了した俺たちは最後に代表で俺がサインをした後、小屋から外へと出ていった。
「ここまでしなくてはならないのじゃな…」
「まあそうだな。通常なら見せるだけでいいんだが今回はまだ開門してない時間帯だからだな。本当にめんどくさいったらありゃしねぇよ」
彼は俺の言葉にそうやって愚痴を溢す。“冒険者”の依頼の中には早朝から始めなければならないものも多い。それのために門を警備している衛兵たちは叩き起こされたりするようで少なからず恨みを買っているそうだ。まあこう言った仕事上仕方ないことなのは承知の上らしいのだが…。
外へ出た男性は別の見張り番に合図を送る。すると、カラカラカラ…と歯車が回るような音が辺りに響き目の前にあった両扉が徐々に開かれていく。壕の上に跳ね橋が降りていき、完全に開かれたのと同時に橋も反対側にたどり着いた。
「ほら。じゃあな嬢ちゃん。始めての依頼だろ?無理するんじゃないぞ」
ほう…と感心して見ていた俺はその声で我に帰る。
「う、うむ。そちらも達者でな」
「ふん。嬢ちゃんのような若造に心配されることはねえさ」
「む?それもそうじゃな」
俺と男性は軽く掛け合ってから一歩を踏み出す。エルフたちは軽く会釈した後俺の後ろを追う形となった。
俺たちが渡りきったのを確認すると跳ね橋と扉がまた音を鳴らして戻っていく。
それを俺は振り返ってしばし見つめていた。
いろいろあった始まりの町“アルバ”。いろんな個性的な人との出会いから、果ては命の危険に晒された出来事まで。この町を訪れてからなかなか濃度の濃い毎日を送ったように思う。
これが最後になるとは思っていないが、また訪れるのはまだまだ先のこととなるだろう。
『カエデさん。置いていかれますよ』
「…わかっておる」
俺はラタトスクの言葉に答える。何はともあれ。今は前に進むしかない。やっと慣れた町から離れるのは心細いが、止まるわけにはいかないのだ。
俺は長い髪を靡かせて前へと向き直る。なかなか慣れないこの身体に、まだまだ分からないこの世界───
(───前途多難だな…)
俺は深く息を吸い、呼吸を整えてから足を踏み出す。こちらを向き待ってくれていた彼らに合流するため俺は早足で歩を進めるのだった。
いつもお読み頂きありがとうございます。誤字脱字矛盾点など気になる箇所がありましたら言っていただけると助かります。
もしかしたら章を変更するかもしれません。まあストーリーは変わりませんので大丈夫です。
今回でタマネさんの出番は終了…と言ってもまだどこかで出す予定です。エリート過ぎて使いやすいキャラなんですよね…。
次回…次次回からでしょうか?エルフ族編突入です。やっとですね。やっとメインヒロインを出せますね。
では改めてここまでお読みくださった方々…お付き合いくださってありがとうございます。よろしかったらまたお付き合いくだされば幸いです。
舞台は“アルバ”から精霊の生まれ故郷エルフの地へ!w
ではまた次回お会いしましょう。




