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第八話

「……魔法使い? それって漫画とかでよく見るアレのこと?」


 アイドルの望月彩菜が指をアゴに当てながら首を傾げる。可愛いというよりあざとい仕草だ。

 プライベート――しかも、こんな明らかな異常事態でも自分のキャラを貫くのか。凄いな。アイドルのプライドというヤツだろうか……?


 冷静に考えてみると俺は望月のことをテレビで少し見た程度で詳しいことは全く知らないし、もしかしたらこれが素の可能性もあるが、そうは思えない。別に今の望月に違和感を感じるわけではないが、何となくそんな気がする。

 ……多分、俺のアイドルに対する偏見が理由だろうが。漫画とかだと表では仲良くしていても、裏で潰し合いをしている内容のものをたまに見るし。ああいうのはフィクションの世界だから面白いのであって、現実は違うと信じたい。


「ええ、その認識で問題ありません。厳密に言うとあなた達のイメージしているであろう魔法と私達が使う魔法は違うんですけどね。ただ言葉で説明するのは難しいですし、文化の異なるこちらの世界の人間からしたら同じものにしか見えないから気にしなくていいです」


 ……こちらの世界? そういや、さっきもそんなことを言っていたような……。

 どういう意味なんだ? まるで自分は異世界から来たみたいな口振りだが。

 俺の他にも同じことを考えている奴がいるようで何人かは不思議そうな――もしくは何かを考えているような表情をしている。だがピエロはこのことには触れるつもりはないようで、状況の説明を続ける。


「ちなみに皆さんをここに集めたのも私の魔法によるものです。あなた達の肉体から精神を取り出し、精神だけをこの場に呼び出しました」


「肉体から精神を……? 幽体離脱みたいなものか?」


 ここまで訳の分からない展開が続き、周りにいるのも異常な連中ばかりとなると、完全に順応したとは言えないまでも慣れてきた。

 まぁ、慣れるのが遅いような気はするが。俺以外のメンバーはとっくに落ち着いている。一人、落ち着き過ぎて寝ていた奴もいるぐらいだし……。

 神山さんといる背の小さな女の子も焦ったり怯えたりはしているが、パニックになっている様子はない。

 ここまで来ると逆に俺の方がおかしいんじゃないか、と錯覚しそうになる。……そんなことは決してないはずなのに。


「……仮にお前の話が真実だとして、精神を抜かれた体はどうなっている? まさかそのまま放置しているのか?」


 氷室が口に手を当てて何かを考えながら質問する。

 切原もそうだが氷室も凄い対応力だな。


「はい、そのまさか……です。私達にはあなた達の肉体を保護する理由もなければ、する必要もありませんからね」


「……つまり?」


「氷室くんの肉体は私が精神を抜く前――貴方が自室でネットチェスをしていたパソコンの前で力なく突っ伏していることになります」


 ピエロの台詞はどこか挑発しているようにも聞こえるが、氷室は特に反応しない。

 まぁ、今までの話を聞く限りピエロが俺達の行動を把握していたからって不思議ではないからな。……恐ろしい話ではあるが。

 魔法でのストーカーなんて実証できないから警察に通報することも出来ない。


「この状態を例えるなら寝たまま起きないって感じでしょうか。……いや、腐らない死体の方が近いですかね?」


 近い……のか?

 いまいち分からないんだが。まぁ、精神の抜けた体も腐らない死体も見たことがないから当たり前といえば当たり前か。死体に関しては普通の死体すら見たことないし。

 これならまだ寝たまま起きないっていう方がイメージしやすい。

 ていうか、この二つの違いって何だ? そりゃ確かに生きているか死んでいるかの違いはあるが、周りから見るだけなら違いはないような気がする(あくまで気がするだけで、本当にそうなのかは自信はない)。

 ……もし違いがあるとしたら……寝言とか寝相とかか? そのぐらいしか思い付かない。


「…………」


「あわあわ」


 神山さんが近くの女の子から気まずそうに目線を逸らし、その女の子は顔を真っ赤にしながらテンパっている。

 多分自分の体が放置されているのが理由で動揺しているんだろうが、何か反応がおかしいような……。普通は自分の体がいきなり倒れたことで周りがパニックになったり、体が病院に搬送されることを心配すると思うんだが。

 少なくとも俺はそうだ。

 だが二人の反応は違う。心配しているというより、まるで誰にも知られたくない秘密がバレそうで焦っているように見える。……さっきまで何をしていたんだ?


 こんな状況だが何となく二人の反応が面白かったので、他のメンバーも見てみる。


 切原は倒れてはいるが顔色は良くなっている。体力が少しずつだが回復しているみたいだ。そしてピエロの話に動揺している様子はない。

 まぁ、初対面の俺にいきなりAV鑑賞をしていたと言うぐらいだからな。見られても恥ずかしくないのだろう。むしろ見せたがっている可能性がある。


 未だにほとんど喋っておらず興味のなさそうにしているクールな雰囲気の女性は切原や氷室と同じく特に反応していない……と思いきや足が震えている。

 お前もかよ……。女性陣は男性陣(俺は除く)と違って今のところ目立ってはいないが、別の意味で色々と問題がありそうだな。

 女子の秘密を積極的に知ろうとは思わないが、それでも一体何をしていたのか気になる。


 で、最後の女子は――


「それってコンビニに行くために外を歩いていた私は、道端に無防備に倒れているってことになるよね!? 他の人の体はともかく私の体はちゃんと保護してよ!」


 完全にパニクっていた。

 それにしてもゲスい発言だな。自分だけ助かろうとしている。

 ……まぁ、外に自分の体が放置されているんだから心配になるのは当たり前だが。

 アイドルの問題発言は更に続く。


「もし私の体がファンの人に見付かったら……いや、私の可愛さの前にファンかどうかは関係ないか。とにかく変な奴が私の動かない体を見付けたらピーされた上にピーまでされてしまう可能性があるのよ!」


 さすがに今のはアイドルとしてマズイだろ。動揺しているとはいえ放送禁止用語を何の躊躇いもなく言ったぞ。

 もしテレビで言ったらツイッターやブログが炎上するレベルだ。

 ファンだという切原は何故か嬉しそうな顔をしている。……無視だな。


「心配しなくても大丈夫ですよ。あなた達が今いる空間は現実にある場所ではなく私の仲間が作ったゲーム専用の空間ですから。ここは元の空間とは別のルールで動いており、時間の流れも非常に早いです」


「分かりづらいから、もっと端的に分かりやすく説明して!」


「ここで何時間過ごしても、向こうでは一瞬。つまり貴女の体が何者かの手によって凌辱されることはありません」


 アイドルはピエロの言葉を完全に信じたわけではないだろうが少しは安心したようだ。

 そしてもう一人、安心した表情をしている人がいる。――神山さんの隣にいる可愛らしい女の子だ。

 そういや妹の弁当を作るから帰してくれ、って言っていたな。


「っ!?」


 急にピエロが右耳を押さえる。仮面で表情は見えないはずなのに、ピエロが困った表情をしているように見える。

 インカムか何かを耳につけていて大声で叫ばれたのだろうか?


「え~、上司からさっさと始めろ! と苦情が来たのでゲームに直接関係ない説明は後にしますね。……まぁ、よく考えたら全部を説明する必要はないですし、皆さんもある程度は現状の認識が出来た頃ですから問題ないでしょう。切原くんのせいで余計な部分まで説明してしまったような気はしますが……」


 一人で納得した様子のピエロ。こっちは全く納得できていないんだが。


「では、今からレクリエーションを兼ねた最初のデスゲーム『鬼合戦』の説明を開始します!」


 気を取り直したピエロはそう宣言した。

八話終了です。


では感想待ってます。

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