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第9話:ジェイルの部屋

 ――コンコン、コンコン。


「ジェイルさーん……おきてますかー……」


 部屋のドアを叩く音と、リコリスの申し訳なさそうな声で目が覚める。

 他人の声で起きるなんて久しぶりだな。騎士をやってた頃以来だろうか。


「開いてるぞー」


 何はともあれ、リコリスをそのままにしておくのも可哀想なので呼んであげないと。



「あっ、ジェイルさん寝巻きですっ」


 入ってくるなり嬉々とした声。

 なぜ寝巻き如きでそんなに嬉しそうなんだ。


 どうにもこの子は俺の理解を飛び越えた反応をちょくちょく見せるな。

 しかし、それを言ったらミランダなんてもっと理解できないので女全般がそういう生き物なのかもしれない。



「椅子はリコリスが使っていいぞ」

「いいんですか?」

「俺はベッドに座るから気にしなくていい」

「ありがとうございます」


 部屋には椅子が一つしかなかったので、椅子はリコリスに座らせ、俺はベッドに腰を掛ける。

 客人が来るわけでもないから一つしか無いが、こうなると少し不便だな。



 椅子に座るなり興味深そうに部屋を見回すリコリス。

 なんか面白いもんでもあるのか? 興味を引くようなものはないと思うんだが。


「ジェイルさんって本いっぱい持ってるんですね。お好きなんですか?」


 部屋の中でも一番場所を取っている本棚に目をつけたようだ。

 いや、一番場所を取っているのはベッドか。


「ああ、本を読むのが趣味なんだ」


 これは母親の影響だな。

 父親は俺を騎士にしようと教育したが、母親は学者にしようと教育した。


 結果的に学者にはならず騎士にはなったが、すぐに投げ出してしまったので実家には少々帰りづらい。

 まあ、騎士を辞めたことはもう知られているが。



「ジェイルさんっていっぱい剣を持ってるんですね」


 次に目をつけたのは剣か。

 別にいっぱいは無いと思うが、精々四本と言ったところだろう。

 メインに使う剣と予備が一本、古いのが二本だ。……四本なら十分多いか。

 古いのなんて鍛冶屋に引き取ってもらえばいいのに、どうにも捨てるに捨てれない。



「ジェイルさん、これはなんですか?」


 リコリスが指さしたのは大きめの道具箱。

 流石に剣や防具だけで冒険者をするわけではないので、必要な道具を乱雑に入れた箱だ。

 箱の中身は見えないから気になったのだろう。



「ジェイルさんっ、ジェイルさんっ――」

「ちょ、ちょっと、ちょっと待った」


 そう次々と言葉を投げられると困る。

 寝起きの頭に、この子供らしい元気さは少々辛い。



「リコリス、落ち着け。落ち着いたか? 遅くなったけど、おはよう」


 リコリスに落ち着けと言いながら自分も気を落ち着かせる。


「あ、はいっ、おはようございます。ジェイルさんっていつもお部屋に鍵掛けていないんですか?」

「ああ、部屋にいる時は掛けてない。この宿はその辺しっかりしてるからな」


 跳ねるような口調は健在で、とても落ち着いたようには見えない。

 昨日も会ったはずだが、久しぶりなせいか浮かれているように見える。もしかして俺はこの子に好かれてるのだろうか。



「それにしても広間で待ち合わせだと思ったが部屋まで来たのか」


 しまった。少し責めるような言い方になってしまった。


「はい。あ、いえ、私もそのつもりだったんですが……待っていたら宿のお姉さんが、ジェイルさんのお部屋はここだからって連れてきてくれまして・・・」


 そうか、待たせてしまったか。

 それは済まないことを……いや、ちょっと待て。



「今、何時だ?」

「さっき十二の鐘が鳴りましたよ」


 俺は昨日なんて約束したっけ? 十一の鐘って言わなかったか? それで先ほど十二の鐘が鳴った。

 つまり一時間も待たせたのか……そりゃ部屋まで連れてくるし、来る。

 というか、こちらから言い出したことなのに責めるようなことまで言ってしまって……。



「すまん、約束を破った」

「いえ、ジェイルさん疲れてたみたいですから気にしてません。それに宿のお姉さんが話相手になってくださいましたから」


 気にしないと言うリコリスだったが、申し訳なさからひたすら頭を下げた。



 何度も謝るとリコリスも恐縮してしまったので本題に入る。

 確か報告したい事があるとかなんとか。

 報告と言ってもリコリスがこなしたクエストはランクFとEだけのはずだし、特に報告することもないと思うんだが。


「それで、報告したいことって何を報告したいんだ?」

「あ、はい。ランクEはもう十分なので、そろそろランクDを視野に入れておいて欲しいってギルドの方に言われました」


 何? もう通達が来たのか。早くないか?

 ミランダが進言したのか?

 いや、だが、ミランダは前にリコリスを危険に晒して肝に銘じてるはずだから、半端をすることはないだろう。

 俺を信用してるのか。それとも、本当にリコリスにランクDをする実力が付いたのか。



 まあ、どちらの場合でもランクD程度なら問題ないか。


「そうか、随分早かったな。それならそろそろランクDもやるか」

「はいっ」


 それにしてもランクDか。

 ついこの間スライムを退治して喜んでいたと思ったらもうこれだ。

 子供の成長は早いというかなんというか。


「他には何か報告したいことはあるか?」

「はい。えっと、この間クエストで教会のお掃除を手伝ったんですが……」


 ランクFの仕事だな。

 最近はやってないが、前は俺もたまにしていた。


「シスターさんの一人に魔法を教えてもらうことになりまして」

「すごいじゃないか」


 この町にも魔法を教えてもらえる場所はいくつかあるらしいが、教会で教えてもらうとはまた凄いな。

 シスターで魔法が使える人ならヒールもあるだろうし、もしヒールを覚えたらパーティでの役割も確立できて今後も安泰だろう。



「それで、どれ位通うんだ?」


 というかあそこの魔法が使えるシスターって、ぐうたらな人だった気がするぞ。

 大丈夫か? 取って食われないか?


「あ、えっと、いつとかの決まりはなくってですね、お掃除を手伝ったら礼拝の時間までの間だけ見てもらえることになりました」


 なるほど、不精なシスターの掃除の手伝いをする代わりに少しだけ魔法を教えてくれると。

 肉体労働よりはマシってことか。不精者シスターめ。




 教会の話でリコリスからの話は終わったようだ。


「これで報告は終わりだな。リコリスは昼飯をもう済ませたか?」

「いえ、まだ食べてません。この後どこかで食べようかなって思ってました」

「なら今からどこか食べに行こう。俺も腹が減ったから何か食べたいし丁度いいだろう」

「はいっ、ご一緒ですねっ」


 食事に誘うとニコニコと嬉しそうにするリコリス。

 嬉しそうなのはいいんだが。


「着替えたいから出てて欲しいんだが……」


 流石に女の前で着替えるのは恥ずかしいぞ。

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