第13話:疲れて動けない
ヌメロン・トードのクエストが終わった次の日。
やっぱり昼過ぎに起きた俺はギルドへの報告の後、リコリスと今後について話をしていた。
「じゃあ、パーティ用の資金は俺が持った方がいいか」
「お願いします。私はまだよくわからないのでそういうのが必要な時はジェイルさんと一緒の時だけにします」
「そうか。それと今日明日のクエストは無しで頼む。用がある場合は宿まで来てくれ」
「わかりました」
本当は自分以外の金を管理するのはちょっと嫌なんだが、だからといってリコリスに任せるのはおかしいし結局俺が管理することになった。
この辺がパーティの面倒臭い部分だな。
「それで今日はもう昼を過ぎてるんだがどうするんだ? クエストをするのか? 俺は休むから相手できないぞ」
「今日は教会のお手伝いに行きます。ついでに新しい魔法を教えてもらおうかなって」
そういえばシスターに魔法を教えてもらうような事を言っていたな。
しかし、この時間だと掃除はもうおわってるんじゃないか?
「では、行ってきますね」
「あ、おい」
ひとこと言おうと思ったんだが、またしてもこちらの言葉を聞く前に走って行ってしまう。
あの子喋り方は丁寧だし、柔和な物腰だけど結構な跳ねっ返り娘だ。
……リコリスも行ってしまったし、俺も帰ろうと思ったが身体が重いな。
ギルドで休んでから帰ろう。
§
「……ふぅ」
ギルドに戻り、空いている椅子を見つけるとそこに座る。
一晩しっかり寝たのだが体調が全然戻らなかった。
やはり二週間の中期間クエストの後、一日しか休みを入れなかったからだ。
こんなことしてたらいつか本当に身体を壊しそうだ、反省しよう。
腰を下ろすと、椅子を担いだガルバンが明らかに何か言いたげに寄ってくるのが見えた。
その顔には邪悪なものが滲んでいる。俺の主観では。
他の人との話を打ち切ってまで来なくていいだろうに。
担いでいた椅子を、俺のすぐ横に下ろすとドカっと座るガルバン。
「だから言ったんだ。変な見栄を張るからそういうことになる」
隣に座るなりキツめの言葉を頂戴する。
「そうだな。反省もしてるし、後悔もしてる」
今度からクエストの後の休みはしっかり入れるようにしよう。
体が休まる前に次々入れるのは流石に体が持たない。
「一人でやってた頃は自由に出来ただろうが、パーティ組むと違うだろ?」
「ああ、人に見られていると思うとあんなにも意識が変わるとは思わなかった」
前にもパーティは組んだことはある。
けれどあの時はまだ新人だったし、ついていくだけだったからこんなにも違うとは思ってなかった。
性分の所為かもしれないが、人に見られていると手を抜こうとしても罪悪感が邪魔をする。
「パーティってのは大変だな」
何年もパーティでやっているガルバンや他の連中は大したもんだ。
俺とガルバンが話を始めるとミランダも受付を放りだして話に加わる。
昼過ぎだし、用事がある人もあまり居ないからといってこれはいいのだろうか。
それにしてもリコリスと出会ってから……いや、ガルバンに相談を持ちかけてからガルバンとミランダの二人と話をする機会が増えた。
これではまるで仲良し連中か何かのようだ。
「だからあたしがあんなにも言ったんですよ」
「受付の嬢ちゃんのは違うだろ絶対」
「そうでしたっけ?」
あの時のミランダは明らかに違った意味で止めようとしていたのに、何かがねじ曲がってるぞ。
「まあ受付の嬢ちゃんは置いといて、ジェイルの方はこれに懲りたら今後は控えるんだな」
「気をつける」
パーティを率いてるガルバンの言葉は重い。
もしかしたら一人の俺よりも緊張感を持ってクエストに挑んでいるのかもしれない。
「だからと言ってリコちゃんを蔑ろにしないでくださいね。あたし、怒りますからね」
何も言っていないのにプリプリと怒り出すミランダ。
大丈夫か? 頭。
「蔑ろにするつもりはない。ただ休みはしっかり取ろうと決めただけだ」
「それならいいんです」
何故かふんぞり返った態度で小憎らしい。
そんなにリコリスに入れ込んでるならお前が冒険者になってリコリスとパーティを組めばいいんだ。そしたら俺はお役御免だから。
いや、まてよ? もしかしたら素人が二人になって二人共俺が面倒を見ることになるのか?
想像するだけで嫌な汗が出てきた。特にミランダ。
「そういや、リコリスの嬢ちゃんはどうだったんだ? クエスト」
「あたしも聞きたいです。それ」
二人がクエストについて聞いてくる。
昨日のリコリスというと。
「役場の人と川に流す時には流石にうんざりしてたが、捕まえるときにはきゃーきゃー言いながらも熱心にやっていたよ」
「なんとなく光景が目に浮かぶな」
「流石リコちゃん。微笑ましいです」
「そうか?」
俺は実際見たからわかるが、あの大人しめの娘がカエル捕まえてきゃーきゃー言ってるのは想像しづらいだろう。
「女の子って結構強いんですよ」
お前が言うな。
もう一度言う、お前が言うな。
俺から漂う不穏な空気を察したのか勢いよく席を立つミランダ。
「懲りたで思い出したんですけど、余剰分買取の中にまだ引き取ってもらってない薬草がありましたよ。取ってきますね」
そう言い残し席を後にする。
なんで懲りるって言葉から薬草の話を思い出したんだろう。
なんて事を考えていると、奥からギルド長の怒声が聞こえた。
「懲りた方がいいのはあいつなんじゃないか?」
「世話してもらう俺からしたら、あまり悪くは言えないかな」
「それもそうか」
俺とガルバンが顔を合わせて苦笑いをうかべる。
冒険者に関わるような女はみんな跳ねっ返りだ。やっとわかった。
「戻りました。ロックガードさん、どうぞ」
俺もガルバンも苦笑いを浮かべていると、ミランダが笑顔と薬草を携えて戻ってきた。
「ありがたく受け取るけど大丈夫なのか? 怒られてなかったか?」
「大丈夫です。よくあることなので」
「よくあるのかよ」
「だから懲りないって言っただろ?」
なるほど、頻繁にやってるわけか。
ガルバンは俺と違いギルドによく居るし、見かけることも多いのだろう。
いやいや、頻繁にやってるって駄目だろう。
よくクビにならないな。
「ちゃんと私のお給料から引かれてるので大丈夫ですよ?」
ギルドのものを勝手に使っていいのか少し気がかりだったが、どうやらこれは純粋にミランダの厚意によるものらしい。
自腹を切った上に、怒られてまで持ってきてくれたのだからありがたく頂こう。
――さて、あまり長居するのもどうかと思うしそろそろ帰るか。
薬草も貰ってしまったしな。早く帰って飲もう。
「あれっ? ジェイルさんまだ居たいんですね」
なんて、席を立とうとした所でリコリスが戻ってきてしまった。
一歩遅かったか。
「リコちゃんどうしたの? お姉さんと遊んでく?」
大喜びのミランダとは逆に、相手をしてやれないと言った俺はどうにも顔を合わせづらくて視線を落とす。
するともらった薬草が目に入った。
「教会に行ってみたんですが、今日のお掃除はもう終わってましたので戻ってきました」
「そうなんだ、遊んでく?」
どれだけ遊びたいんだこの女は。
それよりも。
「ミランダ。これ、生の強壮草だぞ」
「あ、はい。そうですね。なのでちぎってから2、3日ほど陰干しして、その後煎じて飲んで下さいね」
それだけ時間あったら体調も戻ってると思うんだが?
しかし、厚意でもらった手前なにも言えなかった。




