7.いわゆる女子会ってこういうの。(のはず)
時期的に、序文四月→二月→四月(序文に戻る)と言う構成です。
みんな高三になってます。
そして今回九千字越えてます。これまでよりちょっと長めです。
家族と恋愛の話。
じょ、じょし、じょし、か…い……???
ラインの着信音に気づいて液晶を見ると、ユイちゃんから「もう着くよー」というメッセージが入っていた。
その直後、ブビーッ!と激しい音を立てて玄関のチャイムが家じゅうに響く。シノもあっくんも使ったことない呼び鈴を、何度も律儀に使う彼女に、なんだか新鮮な気持ちがした。
* * *
いやー恋する女の子ってかわいいよね!!
絶賛恋する乙女・ユイちゃんが、アタシに相談を持ちかけたのは、二月もはじめだった。
「お菓子作り教えてもらえないかな?」
どうも、シノにバレンタインについて煽られたらしい。
そこそこおうちのお手伝いをしてるというユイちゃんは、でもお菓子作りなんてしたことなくて、困っていたんだと。
それならクロに相談だ!って言えたシノはえらい。自分が協力なんて言い出さなくて、ほんとによかった!
人に言うといつも驚かれるが、アタシは家事が得意だ。
同居するばあちゃんから仕込まれたので、ちょっと古い知識かもしれないけど、掃除、洗濯、料理、畑仕事、なんでもござれ!
お菓子作りに手を出し始めたのは遅かったけど、そっちもそこそこできる。人間、真っ当なモノを食べたければ、結構なんでもしてしまうものである。アタシは甘いものが好きだし、食べるなら人間の食べ物がいい。
じゃあ一緒に作ろうよ!と誘ったのは、単純にカブリ対策と……女子っぽい遊びを女の子としてみたかったから。
あとうちなら道具もそろってるし、そこそこ台所も広い。教えるなら慣れた場所の方がいいしね!
建国記念日が作るのにベストな休日だったので、その日に集まることにしたのだった。
それで当日。
雪の中足を運んでもらったユイちゃんにはまず温まってもらって、準備を終えると、早速作業開始。
ユイちゃんはトリュフチョコに挑戦。
アタシは今年はガトーショコラにした。混ぜて焼くだけで大きめに作れば分けるの簡単だし。
家で何度も練習したというユイちゃんは、ちょっと危ういところもあったけど手際が良くて、アタシ必要ないんじゃないかなって思った。
てか、はにかんで「予習してきたの……」とか言うユイちゃんマジ女神。
あまりの尊さに真顔になった。
冷えるのを待ってる間のお茶の時間は、あっくんとシノがいたらこうはいかない穏やかさで、正直感動した。あいつらいつも必要以上にうるさいよ!アタシに言えたことじゃないから黙ってるけども!
というか、巨乳の子がボディラインぴったりのもこもこワンピ(黒)とか、どんなごちそうかと小一時間。
ユイちゃん、ボンッキュッポンなんだよ……。「また太っちゃって」ってショボン顔だけど、あなたそれ胸にいってるだけですよ!いつも気にしない自分の壁が、ちょっとだけ切なくなったぜ……。
つか、絶対あっくんこの格好好きだよなー。Aラインコート脱いだらわがままボディコンシャスとか、あ、これ、どの男も好きだわ。
この時、前髪ちょんまげにして、だぼっとしたサルエルにくたびれたTシャツという完全部屋着だったアタシは、女子力というのはこういうことかとおもいました。こなみかん。
あ、チョコはお互い味見したけど、非常に美味でした!
「一足早いけど、友チョコね?」って、笑顔であーんしてくれた!えっへっへへへへへ!
アタシもお返しに、ガトーショコラを切り分けて、ホイップと粉砂糖とベリーとチョコペンでデコプレートにした。いつもならこんな手の込んだこと絶対しない。あいつら、食えればいいって奴らだからな。
ユイちゃんの笑顔が最高のお返しです。
こんな風にして、いろいろ楽しく準備したバレンタインは成功し、今度はホワイトデーであっくんが面白いことになった。らしい。
相談されたというシノが珍しくげっそりして「もうあっくんの買い物なんかついてかない……」って言うんだから、相当だろう。つき合わされなくてよかった。
そんなホワイトデーも終わって、今は四月もなかば。
「今度あらためてお礼させて」と言われながら、お互いタイミングが合わなくて、ここまで来てしまった。
「もういいよー」と思ったけど、ユイちゃんは礼は返したい人らしい。そういうきっちりしたところすごいと思う。アタシにはできない性分だ。
まあ、なんだかんだごちゃごちゃ説明したけど。
そうした経緯で本日、第二回女同士の茶話会が決行されることになったわけですまる。
* * *
「阿佐美屋のカステラとどら焼き買ってきたよ。あんこ平気?」
「わーい!大好き!お茶いれよう!ユイちゃん緑茶ほうじ茶どっちがいい?」
「よかったー。どっちでもいいよー」
ほっこり微笑うユイちゃんを招き入れる。
手土産持参とか、ほんと奥さんにしたい気の細やかさだよ!
今日のユイちゃんは、さわやか春めかしい。黒髪は白のシュシュでサイドテールに結って、首の広い白ブラウスにパステルミントのカーディガン、首に光る繊細なシルバーチェーン。太めの白と水色のストライプのフレアスカートにストッキング。清潔感があってかわいくて、ユイちゃんのイメージ通り!
一方のアタシは、やっぱり前髪をポンパにして、蛍光黄緑の地にショッキングピンクや白黒のペンキを刷毛で散らばしたような模様の入ったツナギを腰で結んでいる。上はメンズサイズの白半袖Tシャツ。すそを片足だけロールアップして、ショッピンと黄色の面白靴下。
この差である!でもアタシ、こういう服しかないから仕方ないね!!
「莉子ちゃん、なんか原宿とかにいそう。よく似合ってるけど」
「ユイちゃんは女子大生とか、そんな感じだね!かわいいよ!」
女子ってファッションチェック好きだよね!アタシは好き!ここまで傾向が真逆だとケンカにもならないから平和だよね!
お茶の用意して部屋に向かおうとしたら、ばあちゃんが奥からやって来た。時間的に午後の野良仕事かな?
ばあちゃんに気づいてユイちゃんが足を止める。ばあちゃんも気づいて足を止める。
そういえば、二月の訪問はばあちゃん留守だったし、それ以前は……あーシノがやらかしたあの時か。非常事態だったから、ろくに会話とかもなく流れたんだよな。
ユイちゃんは丁寧に頭を下げてばあちゃんにあいさつしてくれた。
「こんにちは、お邪魔してます」
「いらっしゃい。莉子の友達かい」
無愛想なのはデフォルトのばあちゃん。怒ってないのに「怒ってる?」って聞かれる類の人間である。
むっつり顔にビビられないうちに、ユイちゃんからもらったお菓子の紙袋を掲げた。
「ばあちゃん、これもらったー!ばあちゃんの好きなどら焼きもあるよ!」
「おばあ様の分もあるので、よろしければ召し上がってください」
「ああ……ありがとうね。じゃあ、後でいただこうかね。莉子」
「へーい」
「棚の奥の錫の缶、開けていいよ」
「うぉ、ばあちゃん、太っ腹!」
「あたしゃ肥えちゃいないよ」
鼻を鳴らすばあちゃんは傍には憎たらしげに見えるけど、結構機嫌がいい部類だ。
証拠に、眉間のしわがいつもよりゆるい。
「前にも来てくれたね。何さんかね?」
「あ、すみません。布川です」
「布川さん、ありがとうね。バカで、バカで、バカな孫だけど、仲良くしてやってね」
「ばあちゃんひでぇ!」
確かにバカだけどね!人に言われるのと自分で言うんじゃ違うんだよ!?
アタシの抗議を鼻で嗤ったばあちゃんと別れて、お茶の準備をする。
茶箪笥の奥をがさごそさぐれば、お許しの出た例の缶。ぱっかんとふたを開ければ、ふわっと香るお茶の香り。
「わ~いグラム単価千二百円の玉露~」
「えっウソ!?」
「いいのいいの~ばあちゃんのお礼の気持ちだから。とっておいてー」
「えー……いいのかなぁ……なんか悪いよ」
「なんかねー、アタシにまともな女友達出来て、あれでうれしいみたい」
なにせ、ヒマさえあれば幼なじみの野郎二人とバカばっかやってる孫娘だ。
女子と遊ぶということをまともにしてこなかったので、あれでばあちゃんがアタシの交友関係に懸念を持ってたのを知ってる。
「ユイちゃん、ぱっと見でもわかるくらい、真面目で品行方正なお嬢さんなんだもん。アタシの交友関係には絶対あがってこない単語ばっかりだよ。やったね!」
「うーん、面白味がないって言われてる気分」
「ユイちゃん十分楽しい人だよ!それにほら、いつもいるのがあの二人だからさー」
「あー……」
おっと、何とも微妙な顔にさせてしまった。比較対象が悪かった。でも片方あなたの彼氏様ですぜ?
お茶とポットを用意して、自分の部屋に向かう。
座って落ちついたところで、ユイちゃんが切り出す。
「改めて、バレンタインはご協力ありがとうございました。お礼遅くなってごめんね」
「いいっていいって。報告ももらったし、十分だよ!大成功はあっくんからも聞いてるしね!」
ふんわり笑うユイちゃんは、左手薬指にはまったシンプルで華奢なシルバーリングをうれしそうに触る。
「うん、お返しに、これもらったの」
「おおおお、あっくんやるね!」
「学校ではつけてられないからチャームにしてって、チェーンも一緒にね。校則違反なのはわかるんだけど、いつも身に着けていたいって気もちを考えてくれたのも、うれしくて」
「うーん、なかなかキザだけど、ユイちゃんがうれしいならいっか!よかったねユイちゃん!」
「ふふ、莉子ちゃんのおかげだよ。ほんとにありがとう」
「真っ赤になってしどもどしながらお返し渡して言い募ってくれる歩くんほんとご馳走様だったわ」とうっとりしながらちょっとアレな発言をするユイちゃんだけど、うん。あっくんガンバレー。
どら焼きをほおばりながら力にならないエールを送っといた。阿佐美屋のどら焼きうまー。
「そういえば、莉子ちゃんはお返しもらったの?」
トリップから戻ったユイちゃんが、両手で湯呑を包みながらたずねる。さすがいい香りだよねこの玉露!
アタシはあっくん・シノ・智、それから犬養家と長船家の面々には、毎年チョコを贈っている。でも、今年はどうかなとは思ったんだこれでも。
あっくんは一応彼女もちになったわけだし、それ以外の子からもらったところでろくなことにはならない。高校の友人を見てるとそう考えざるを得ない。あいつらこえーよ……彼氏が彼女以外から受け取っただけで流血沙汰とかとんだド修羅場だ。
なので一緒にチョコを作った時、一応聞いてみた。あげてもいいのか悪いのか、彼女の思うところはきっちり知っておかねばならない。
しかし当のユイちゃんは、おおらかに笑って「気にしないで」と一言で許可してくれた。すげー心広い!アタシは感動した。ついでにユイちゃんマジ女神と信仰した。あっくんほんといい子を彼女にしたね!
「もらったよー。それぞれの家族から毎年ちょっといい菓子もらうの。あっくんは毎年手抜きだけど、シノは結構いいの返してくれる」
あっくんは、今年はアメだった。うちのコンビニで買ってきやがって雑すぎでしょ!買ったその場で放り渡すところが、どうにもおおざっぱなあっくんらしいよ!ありがとな!
シノからは、ずっと欲しかったヘアアイロンをもらった。高いから諦めてたのに!さすがシノだよ!アタシがうれしいものをよくわかってる!あれ多機能で、ストレートも巻髪もできる優れモノなんだよ!スチームアイロンだから痛み少ないし!
これこれ、とヘアアイロンを道具箱から取り出してユイちゃんに自慢する。あ、いい機会だからなんかしたい!
「ユイちゃんユイちゃん、髪の毛いじってもいい?」
「え?いいけど、大丈夫?変にしない?」
おっと、ここで信用のなさ発揮とは!まぁ、そうだよね!普段が普段だし!
不安げに眉をひそめるけど、大丈夫。
「あのね、アタシ、美容師志望なの。だから、これに関しては悪ふざけはしないよ!」
ちょっとびっくりした顔のユイちゃんは、「なら」とシュシュとヘアピンを外してくれた。さらさらの黒髪セミロングが背中に落ちる。きれいだなぁ。うらやましい。危ないからと言えば、薄いレンズの眼鏡も外してくれた。
ヘアアイロンに電源を入れ、鏡をテーブルにセッティング。アタシはユイちゃんの背中にまわり、ベッドに腰掛ける。
あっためてる間に歯の間隔の大きいコームでざっくりとかして、ブロックに分けてダッカールでまとめていく。コシのあるいい髪だなー。癖つきにくそうだなー。
「ユイちゃん、スプレーとか使ってもいい?あと巻髪試してみたいんだけど、いいかな?」
「あ、うんいいよ。驚いた、手際よくて」
「えへへ、これでも学校でよくやってるんだよー。デートの子とか、こんな風にして!って持ってくるの」
「なるほど。莉子ちゃん髪短いのにどうしてかなって疑問は解けた」
「安心してーこれでも慣れてるから!」
「おお、期待大だね。でも、大丈夫かな?私もいろいろ試すんだけど、時間経つと絶対まっすぐになっちゃうんだよこの髪」
「いい髪だよーコシもハリもあって!たしかに癖つきにくそうだけど、どうにかする!」
「じゃぁ、夢のゆるふわ巻髪にしてもらおうかな。あこがれだったの!」
そっか。ストレートってずっとうらやましかったけど、ストレートの子なりに悩みもあるのか。
期待のまなざしのユイちゃんに応えようではないか!
ロットは太めだし、ゆるふわにできるだろう。毛束を作って毛先から巻きつけて、丁寧にカールを作る。
「いつごろ美容師になろうって思ったの?」
任せて安心とわかったのか、肩の力を抜いたユイちゃんがたずねる。手を休めずアタシは答える。
「んーと、結構前……小学生だったかな。
うちのママがね、東京で美容師やってるの。結構人気なんだって雑誌とかの仕事もやってて、見せてもらって。ママすごいなーって思って、それからかな?」
「おお、お母さんすごいね」
「うん。……憧れなんだー。私生活ダメダメな人だけど、仕事に対してだけは真剣だから。離れて暮らしてるけど、愛してもらってるのわかるし」
「そっか。莉子ちゃん素敵だね」
「なにがー?」
「お母さんをちゃんと尊敬してて、憧れられるなんて、莉子ちゃんすごいよ。私なんて、お母さんに尊敬してるなんて思ってても、言ったことないよ。いつも文句言ってるもん」
「え!ユイちゃん意外だね!」
「そう?私、家では結構わがままだよ。あれしなさいって言われたら、なんで私がって思うし」
これは本当に意外だ。でも、お家でも優等生なんてできないよなぁ。息つまるよ。家で息ぬけるから、外ではしっかりできるんだな。
何か思い出したのか、ユイちゃんはちょっと目を伏せてくすりと笑う。
「歩くんもさ、家族大事にしてるでしょう?智くんとか仲いいよね。そういうの見てると、反発するほうがなんか恥ずかしいなって思えてくるの」
「あー、あっくんそうだよね。素っ気ないんだけど、ママに逆らってるの見たことないや」
あっくんママはきびきびしたしっかり者で、両親不在のあたしのことも気にかけてくれる優しい人だ。
シノんちはシノんちで、おおらかというか、放任だよなー。兄ちゃん放置って時点で、おおらかさは天元突破してる。
家族の形っていろいろあるよねぇ。
アイロンの電源をオフにして、ざっとスタイリング。
「わぁ」
鏡を見たユイちゃんの顔がぱぁっとほころんだ。
毛先に強めにカールを残して遊ばせてみた。最初よりふわっと広がったシルエットだけど、お気に召しただろうか?
「すごい!莉子ちゃんすごいよ!私がやると、この時点でもうカールがないもん!」
「よかったぁ。大口叩いて気に入らなかったら、情けないもんね」
くるくる首を回して確認するユイちゃんかわいい。ふわふわ揺れるのが新鮮みたいだ。
「ねねね、編み込みとかもしていい?いまならきれいにまとまると思うよ」
「あ、うれしい!人にはできるけど、自分にはできないから諦めてた髪型だ」
にこにこ笑って背中を預けてくれた。右の耳の後ろから全体をゆるい編み込みにして、左の耳たぶの辺りでシュシュでひとまとめ。おお、カールがもう解け始めてる。ほんとにすぐ解けるな!遊んでる髪をもう一回巻いて、スプレーで決めた。おっしゃ、完成じゃい。
「どうだ!」
「おお~すごい!かわいい!」
「ふっふっふ。じゃろ?じゃろ?」
道具箱から鏡をもう一枚出して合わせ鏡にする。お気に召したようでなによりだ!いつもはあっくんのくせっ毛をストレートにしたり、シノを縦ロールにしたりしか使いようがなかったこのアイロンが日の目を見れてよかった。学校に大事なものは持っていかない主義なのだ。ひとしきり出来上がりを見たユイちゃんが、振り返って微笑う。
「今度は私にいじらせて」
場所交代。ポンパドールにしてた前髪を崩すと、全体を丁寧にブラシでとかされる。
アタシの髪は、後ろはいつもショートだけど、今は前髪を伸ばしてサイドにつなげたアシメにしてる。でも襟足伸びてきたなー。ツーブロとか一回してみたいんだけど、あんまり奇抜な髪にするとばあちゃんの機嫌悪くなるしな。
「猫みたいな毛だねぇ」
「やわらかすぎて、へたりやすいし絡まりやすいんだ。だから伸ばさないの」
「ロングも似合いそうだけど。ふふ、触ってる分にはすごく気持ちいいよ。はちみつみたいな色ね」
「色だけはゴージャスだよねぇ。今でこそ落ちついてるけど、ちっこいころはもっと巻きが強くて、くるっくるだったんだよ」
「あらかわいい。絵画の天使みたい。写真ある?」
「そう言われたのは初めてだわ。探しとくね」
あれか、腰巻に弓矢のキューピッドか。でも確かにあんな感じだった。美術の教科書に載ってたラファエル?ラファエロ?だったかのダビデ像みたいな。
なでられるみたいに髪をとかされるのって眠くなる。なんだかほんとに猫になった気分。
「ところで、聞いてもいいかな?」
「どうぞー」
「私と歩くんがこういう関係になったわけだけど、莉子ちゃんはほんとにいいの?歩くんが好きだったりしなかったの?というか莉子ちゃん好きな人とかいないの?」
眠気を吹き飛ばす質問きたね!びっくりだ!
え、なに、ユイちゃんそんなこと思ってたの?!思わず振り返ってユイちゃんの顔を見上げてしまう。
「ない!ありえない!あれだよ?あっくんあたしにすっっっっごく口うるさいんだよ?!小姑だよ?!悪いけどあっくんだけはないわ!」
「ほんとに?」
「神かけて!」
「じゃあ、長船くんはどうなの?いつも好きだーって言われてるんでしょ?」
おっと。ユイちゃん、本題はこっちか!
まあ、シノは所かまわず言葉たれ流しだから、傍から見たら変に見えてるんだろうなぁ。
「シノは、なんていうか、手のかかる弟?そもそも、あれって本気なのかなーって、いつも思うんよ」
アタシは首をかしげる。どうすれば伝わるかなー?
「シノはさ、あっくんもなんだけど、アタシら三人でいすぎたんだと思う。離れるのが怖いんだよ。三人の状態が居心地いいから、変えたくない。
小学生のグループみたいなもんで、仲間はずれが怖い。
アタシとあっくんは、家が隣で親同士が知り合いで、どうしたって物理的に近いけど、シノはそうじゃない。田舎のご近所づきあいなんて面倒も多いけど、濃いからね。
だからアタシを好きって言って、精神的に近くあろうとしてるんじゃないかなーと。自分に言い聞かせて心のつり合いをとってるんじゃないのかね?」
「……意外と論理的な推測ね」
「んん、肌で感じた空気もあるんだけど。
あとシノがどこまで本気なのか、本当に読めない。昔っから好意は口からダダ漏れにしちゃう奴だったから、子どもん時の好意とどう違うのか、全然わかんない」
ほんとに、あいつの好意はどこまで本気で冗談なのかわからん。
そばにいすぎたせいで、女子はみんな下ネタ通じると思ってるとか?んでどこまでが異性の許容範囲か、わかんなくなってんじゃないだろーな。大丈夫か、シノ……。
唸り出したアタシの頭を前に向かせて、ユイちゃんはサイドの髪を丁寧に編み込み始めた。
「本気だったら、どうする?」
ゆったりした声できかれて、思わず黙る。本気?シノが?
「…………多分、アタシ、恋愛こわい。こんなこと言うのアレだけど、恋愛は、壊れたらその先がないでしょ?」
そんなもろい関係、イヤだ。
パパーとママは、大ゲンカして離婚した後、一度も会ってない。
六年間の夫婦関係は絶縁で終わった。
パパーとママは家族じゃなくて男と女であることを選んだ。
恋愛感情は家族関係を維持できなかった。六年間はなかったことにされた。
バラバラになった家族に、当時アタシは少なからず傷ついたし、腹立たしかった。
恋愛は簡単に、男女を壊す。
家族が過ごしてきた時間や記憶や経験は何なんだって話だ。
そんなもろいもので消え去ってしまうようなもんだったんだろうか。
少なくとも、アタシはそう思って今まで生きてきた。
シノと恋愛?
終わったら先がない関係にジョブチェンジするなんて馬鹿げてる。
それなら幼なじみでいいじゃないか。
きっとこれは馬鹿げてて幼稚な考え方だろうけど、幼なじみなら、大人になったってどんなに離れたって、ずっと幼なじみだ。
それでいいじゃないか。
恋愛なんてそんな激しくて移り変わりやすいもの、アタシはごめんだ。
ここまで言い切って、ハッとした。やばい、余計なこと言ったかも!
「言い過ぎた。無神経なこと言った。ゴメン」
「どうして?私は、莉子ちゃんのこと知れてうれしいよ」
ゆったり返す声は嘘を言ってるようには聞こえなくて、アタシはホッと息をつく。
ユイちゃんは編み込みの先をピンで留め、上の方にもう一段細い編み込みを作り始めた。
「莉子ちゃんは、変化が怖い?」
「変化……じゃない気がする。シノもだけど、あっくんも……ほんとは二人が離れていくのが一番怖いの、アタシなんだよ」
だから、言いきかせる。
『いつかは離れる、いつまでも一緒にはいられない』
そう言い聞かせていないと、いざって時つないだ手を放せない。
思わず顔を立てた膝に埋める。
「ゴメンね、情けないこと言って。だからって、二人を独り占めしたいとか、そういうんじゃないんだよ?」
「うん、わかってる。ごめんね、弱い所つっついたみたいで」
鏡越しに目が合って、申し訳なさそうに眉を下げられた。
……あっくんの彼女がユイちゃんでよかった。
アタシらの内、誰かに恋人ができても、こんな感情、絶対理解してもらえないと思ってた。
へたくそに笑ってみせると、ちょっとホッとしたように笑い返してくれた。
「……えへへ。なんか、お姉さんみたい。ユイちゃん下兄弟いるでしょ?」
「正解。妹がふたり。だから、もう一人くらい増えたって、全然かまわないよ?」
「できた」と言って、鏡を見せる。こめかみからうなじに向かって二段、きれいな編み込みができている。
「ユイちゃん上手だね」
「下の妹がおさげでね。まだうまくできないからって、たまに放り投げられるの。自分でできない髪型ならやめなよって思うんだけど。上の妹は不器用なの自覚して、ずっとポニテだわ。たまに「やって」って言ってくるけど」
おお、姉妹だとそういうこともあるのか。
周りが男兄弟ばかりだから、そういう接し方は新鮮だ。
「考えるのは悪いことじゃないよ。莉子ちゃんが二人から自立しようとしてるの自体は悪いことじゃないもの。ただ、あんまり思いつめないようにね?」
しょうがないなぁって感じで苦笑される。
圧倒的姉力。こういう労れ方はされたことない。
ちょっとウッとなってしまって、無言で後ろの肩に頭をこすりつけた。
アタシの頭をなでるユイちゃんの手は優しくて、とてもあったかかった。
これが精一杯の女子会()……!自分の女子力のなさに絶望した!とにかくいちゃつかせとけ感は否めない。そしてぐだぐだ長い。
『パパー』と呼んでいるのは、元パパはスペイン系の人だという設定から。『パードレ』でもよかったですね。
こっからちょっとシリアス()入ってまいります。
2015.12.17 改稿。




