8.面倒くさいけど、切り込んでいく所存。
それぞれの進路報告会。
アタシたち三人が、初めてケンカらしい大ゲンカをしたのは、中三の春だった。
きっかけを言いだしたのは、あっくん。
「高校は三人バラバラにしよう」
アタシはその時、何を当然のことを、と暢気に考えた。
猛烈に反抗したのは、やっぱりシノだった。
「やだ。絶対三人一緒の学校行く」
二人して目を座らせて、言いがかっていくシノ、バッサリ論破するあっくん。
それを横目に自分の勉強にヒイヒイ言うアタシ。思えば異様な空間だったね。
あっくんの言い分はもっともだったのだ。
だって、どう言いつくろったって、学力レベルが均等じゃない。
県内で一番頭のいい正芳高校に、余裕で入れるあっくん。それについていけるシノ。高校合格すら怪しいアタシ。
こんな三人が一緒に入れる学校なんて、県内どこ探したってない。この時点でつんでる。シノの言い分では、県外ならあるいは、とか荒唐無稽な方に飛んで、お話にならない。
それなら二人で正芳いけばいいじゃん、と言ったらかみつかれた。
曰く「三人一緒じゃなきゃ意味がない」。
お前、それ、無理やぞ、とアタシが真顔になった。アタシの学力で正芳なんて、想像だけでへそで茶が沸くわ。
アタシは割と自分を把握してたから、とりあえず高校だけは出ときたいな、としか進路について考えてなかった。楽天家というなかれ。割と真面目に中卒労働者になるところだったんだ。もう高校受験は思い出したくない……。
「絶対離れたくない」を台所の油汚れよりしつこくねばり繰り返すシノに、あっくんはNOを貫き通した。驚きの胆力。
それまでならいい所で折り合いをつけてくれるあっくんは折れなくて、シノはどんどん意固地になって、一学期が終わり、夏休みが終わり、二学期が始まっても冷戦のような関係は続いたんだった。
そんな状態なのに、なんで一緒の部屋にいたのか、わけわかんないんだけど。
意地の張り合いのようなぐだぐだを調定したのは、あっくんだった。
いよいよ進学先を決定しなければまずい所まで来て意見を変えないシノにめんどくさ……んんっ!いよいよ根負けしたとも言える。
けど、ここで全負しないのがあっくんである。条件を出したのだ。
一つ、歩は、鎬が正芳高校を受験するのを妨害しない。
一つ、鎬は、県内私立トップの明菱高校を併願受験して、合格する。ズル落ちしたらその時点で公立受験はナシ。
一つ、平等を期すため、歩は滑り止めを受けない。公立一本で出願する。
一つ、莉子を青蘭高校に合格させる。そのためのサポートを歩が受け持つこと。
一つ、鎬は、歩の公立入試の総合得点を上回らなければ、正芳高校進学はなかったことにする。
上記すべてを達成して、歩は鎬の要求を呑むことを誓う。(以上、誓約書より抜粋)
???????
いみがわかりませんよね????特に四つ目!!!
おい!おい!何さらっと!人の受験校変えてくれちゃってんの?!って!なるよね!
ちなみに提案したのはあっくんだった!これは『一生許さんリスト:堂々一位』をいまだゆずらない暴挙だった!
青蘭高校は、私立の中でもそんなにレベルは高くない。正芳や明菱に比べたら大学生と小学生くらいのひらきはあるけど、その時点のアタシには無理なレベルの高校だった。
というか、アタシはもう高校決めてたんだよ!中退率高いけど名前書いたら合格できるって評判の公立!
三者面談でも「そこしかないな」って先生泣き顔で!それが!なぜ!ちょっとぬるゲーになりつつあった受験戦争の渦中に!頭からダイブしなければならなかったのか!とんだとばっちりである!断固抗議だ!徹底抗戦も辞さない!
ってなったら、二人がかりで押さえ(物理)こまれた。ひどい巻き込まれ事故。アタシは泣いた。
こいつらのこすいところは、保護者から丸め込んだところだよ!
ばあちゃんは、孫娘が中卒高校中退も已む無しから、ちゃんと名の通った高校の学生になれるという希望をちらつかされ(青蘭はそこそこ歴史がある)見事食いついた。絶望した。
条件は、シノの有利だった。
明菱高校は、正芳高校を受験するひとにとって併願人気トップで、倍率もかなり高かったけど、合格だけならシノには難しいことじゃない。傾向の違う公立と私立の受験対策のほうが厄介みたいだった。
アタシの受験をみるというのが、条件の中で最悪だったという。
なにせ、その後直近の模試での合格率、3パーセントだったからね。合格の可能性、圏外だったからね!(白目)
しかも、青蘭は女子の制服がかっこ可愛くて、学力はそこそこでも倍率は結構お高めだったのだ。神は死んだ。
そっから約三カ月の記憶が曖昧なのは、ふへ、うん……。
うちの県では、一月に私立単願入試が始まり、二月に私立併願、三月中旬に公立高校入試、下旬に二次募集、というのが一般的なスケジュール。
最初に合格を決めたのは、アタシ。
一月の単願受験。
黒江莉子、青蘭高校合格。
奇跡だ。
教務室でもさんざん言われた。
担任は胃をおさえながらハラハラむせび泣き、オランウータンの赤ちゃんみたいな学年主任は髪を振り乱して号泣。
教務室の先生全員と、まだ受験もあるだろう同級生全員、同学年下級生の知り合いから、万歳三唱と拍手と涙で合格を祝われ。
当のアタシは涙も枯れ果てて灰だった。
しばらくあっくんの姿見て逃げ体勢だったのは、仕方ないと思う。
あっくんは、裏で、『受験の神様』と呼ばれて拝まれてた。多分本人知らないだろうけど。
次に合格したのはシノ。さくっと明菱高校合格。
そして運命の公立入試。
ここでひとつ、誓約書を読み直してもらいたい。
ひっかかったのはこれ。
『 一つ、鎬は、歩の公立入試の総合得点を上回らなければ、正芳高校進学はなかったことにする。
上記すべてを達成して、歩は鎬の要求を呑むことを誓う。 』
つまり、いくらシノが正芳の合格ラインに達していても、あっくんの点数を上回らなければ、入学はできなくて。
さらに、五つの条件全部を満たさなければ、あっくんはシノの要求を簡単に反故にできるという。
………。
ペテンじゃん!!!!
条件作成してる最中こんなこと考えてたの?!てかできると思ってたんだよね!あっくん怖い!その自信が怖い!
これ完璧詐欺の手口でしょ?上げて落としてんでしょ?有利に見せかけて、最初から勝負ついてるよね???
アタシの幼なじみがこんなに怖い。
でも、この条件、こう見えて一応、平等なのだ。
条件を満たさなければっていうのはあっくんにも言えてることで、シノはあっくんの要求を反故にするチャンスがあった。
あっくんにとっての一番の不利事項がアタシの受験合格であり、シノはしなかったけど、ここを妨害してはならないという項目はない。
しかもこれは運を天に任せるというか、あっくんは自分の運を完全にアタシにゆだねていたわけで、一種の博打だ。勝率3パーセントの。…………なんか自分で言ってて情けなくなってきた…………。いいんだ、アタシはがんばったんだ……。
とにかく、どっちかっていうとあっくん不利な条件だったのが、アタシの合格で一気に逆転した。ここにアタシの意思は一切なかったと宣言しておこう。
どっちに協力するつもりもなかったのが巻き込まれて、白目剥きながら大っ嫌いな勉強漬けの日々を送ったんだ。アタシは何も悪くない。いいね?
そして結論から言えば、シノは試合に勝って、勝負に負けた。
試合(入試)は合格したけど、勝負(条件)は満たせなかった。
うちの県では、公立入試の夕方に、解説付きの公立入試解答速報が、民放三局で組まれてる。その日のうちに、点数を割り出すことが可能なのだ。あっくんもシノも、持ち帰っていた問題用紙に解答を書いていた。
写し損じ、空欄はそのまま欠点になると話をつけて始まった答え合わせは、シノの顔が蒼くなる結果で終わった。おおゆうしゃよ、しんでしまうとは、なさけない!
五体投地でピクリともしなくなったシノに哀れをもよおしたけど、お前ら普通にすげーんだかんな?この年の正芳高校の倍率、三倍だか四倍って聞いたぞこの少子化の時代に。いまどき定員割れも多いというのに。
とにかく、こうして方々に余波をのこした高校受験が終わり、アタシたちはそれぞれの高校に旅立ったのであったまる。
以上、あっくん無双の高校受験編。
* * *
で、話は現在に戻る。
こんなことがあったもんだから、高三の進路なんか、ちょっとびびっていた。
だって、ここは、確実にみんなバラバラになる。
高校受験でああだったんだ。またシノが無茶ぶりしないとも限らない。
アタシは、この話題は、慎重に運ぶべき案件だと判断した。
高三の六月時点で決めてないとか、まぁそういう人はいるにはいるんだろうけど、この二人に関してはない。見通しくらいは立ててるだろう。
中三の二の舞だけは(そして巻き込み事故だけは)避けたいアタシは、先送りにしながら機会をうかがっていた。
しかし、あっくんがまたしれっと言ってくれた。
「あ。俺、大学多分県外行くわ」
この日はあっくんの部屋で、期末対策をしていた。というか、卒業の危ういアタシが、一方的にあっくんとシノに詰め込まれていた。
そんな時に思いついたように暴露しないでよ!あっくんてあえて空気読まないよね!日本人の美徳を思い出してよ!!
「あっくんまじトッポ知らない!」
「トッポなんか買ってない。あと座れ。お前ショーパンなんだから、シノが喜ぶぞ」
「格好なんかどうでもいいよ!お菓子じゃない、あれ!時と場所とあれな、……あれ!」
「TPOと言いたいのかそうなのかというかさすがにそれは知っててほしかった……」
「うっせー!あっくんの空気を切り裂いてくスタイル結構好きだけど、ちゃんと、読んで!空気は!読んで!」
「俺は、日本人だ」
「知ってるよバカ!シノ見てよ!」
不定の狂気に至ったらどうやって回復すればいいんだよ!ベ●マか?マ●アゲルか?!呪文はきくの?!暴れ出したらアタシは逃げるんだからね!!
「そっか~。あっくん大学は決めたの~?」
のほほん。
小首を傾げながらシノはいつも通り微笑む。………………あれ?
「やだ~クロちゃん。呆けて口開けてると、つっこみたくなっちゃう」
「勉強中はそういうのやめろよシノ。お前らで考えたくない」
「シノ、あれ?それでいいの?中三の再来になるかと、結構ビビってたアタシの震えるハートをどうすればいい?!」
「あははもう子供じゃないんだよ~?あと燃え尽きるほどヒートすればいいんじゃないかな!オレと!」
「おっと、ジョ●ョはそこまでだ。使うタイミングが違う上に、始めたらキリないんだから」
ゲンポでため息を吐いたあっくん。ちょっとお疲れ気味かね?てか、なんなの。このいつものノリな会話。
「まーいーや。そういやお前らの進路聞いてなかったな。言え。ほれ」
「なんか尊大!あっくんムカつく!」
「え~言いだしっぺから言いなよ~」
「んじゃいいよ。俺から言うよ」
がしがし頭をかいて、後ろ手に座を崩すあっくん。アタシもその場に座り、精一杯真面目な顔を向ける。
「バイオサイエンスとか、そっち方面行きたいって思ってたんだ。調べたらよさそうな大学あったから、そこ第一志望。国立だし。下に智いるから、私立はあんまなー」
聞いたら日本一賢い大学だった。うわぁ……。しかも理系で一番倍率高い学部とか……。うわぁ……。
第二志望もアタシでも知ってる名前だった。うわぁうわぁ……。でもやるんだろうなー……。
「ねぇ、ドン引き止めてくれるっ?!」
「アタシの幼なじみがこんなに怖い……」
「ちょっとは応援してよ!そう言うクロはどうなんだよ?!ちゃんと考えてんのか?!」
おっと、水を向けられた。ちら、とシノの顔を見るも、やっぱりいつも通りなので、ここは続けて暴露しちゃおう。
「アタシは地元の美容専門学校行くよ。こっちで就職して、美容師になる」
言い切ると、二人揃ってああ~と気が抜ける納得声をあげた。
「賛成~。クロちゃん手先器用だし、なんだかんだ努力家だから向いてるよ~」
「いいんじゃないの。クロは考えるより、手に職つけて腕磨いた方がいいと思う」
「シノありがとな。だがあっくん、てめーバカにしてんだろ」
「してねーよ!なんだよ今日は卑屈だな」
「傷ついた!バカ押しよくない!」
「悪かったよゴメンね!」
「いいよ!」
「スピード解決~。次オレね~。オレね~東京の大学行く~」
発せられた大学名は、やっぱりアタシでも知ってる名前の名門校だった。
心底驚いた。なんとなく、シノは地元に残るんだろうと思ってた。
あっくんも驚いたみたいで、アタシたちは二人してぽかーんとして、笑うシノを見つめてしまった。
「驚くようなことかな~?」
「いや、うん……」
「なんでだろ、シノとクロは絶対離れないって思いこんでたかも……」
「あはは、なにそれ~?クロちゃんだって言ってたでしょ?『離れていく準備は必要』だって。オレなりに考えてるんだよ~」
けらけら笑うシノに無理はなくて、もう自分で納得して出した結論なんだと、わかった。なんだか肩の力が抜けてしまう。
もう、シノは大丈夫なんだって。ちょっとした寂しさと、安心で、おなかが満たされてしまったような。
バカなりに考えてみれば。
シノの意固地と、あっくんの高校別宣言は、根っこの部分は同じことだったんだと思うんだよ。
アタシたちは三人でいることに慣れてて、慣れ過ぎてて、そのままじゃ世界は三人だけで終わってしまった。
それでいいって言い切ってしまうには、アタシたちには大切なモノが多すぎた。
大切なモノを三人ごっちゃに共有してしまって、それぞれが持つべきものを、やっぱり三人で持っていたから、楽だったけど、よくなかった。
高校受験はきっかけで、それぞれの荷物も持ち物も、ちゃんと背負わなければいけない時期にきただけの話。
あっくんには物理的距離が必要で。
シノにはまだ支えが必要だった。
去年の夏にまだ揺らいでいたシノは、いつのまにか手をつないでなくても、ひとりで歩けるようになったんだな……。なんだかしみじみ感慨深い。
ずっと、シノの手をひっぱってってるような気がしたから。
情報科学がどうの言ってるシノは楽しそうで、自分のしたいことを見つけたんだな、とちょっとほっこりした。
「あっくんのエロフォルダを見つけるの、すっごい苦労したからね!オレがコンピュータに興味もてたの、あっくんのおかげだよ!ありがと~!」
「うれしくないっ!素直に喜べないなんかすっごくしょっぱい気持ち!」
……きゃんきゃん言い合う中身は残念だけどね!
こうして、第二次進路問題は穏やかに閉幕した。
―――と思ったじゃろ?
こんな風に、のんびり進路に思いを馳せる雑談をしてたんじゃよ。
ここで終われてたら、どんなによかっただろうね!
爆弾投下したのは、シノだった。
ごそごそカバンをあさって、クリアファイルから取り出したる二つ折りの紙。
「高学歴高収入になって、がんばってクロちゃん養えるようになるから、オレが大学出たら結婚しよ!」
鎬、輝かんばかりの笑顔。
歩、あごが外れんばかりぽかん顔。
アタシ、いつもの冗談と知らん顔……できたらよかったんだけどなーっ!!
視線は勉強道具の散乱するローテーブルの上。
さすがに、記入済み婚姻届を出されたら、冗談にしちゃタチが悪い。
ねぇ、これ、どこまで本気?
教えてエロい人!!
高校受験の日程とかは地元を参考にしました。
あとジョ●ョは六部が世代で好きです。
作中に魔法の言葉が出てきますが、ドラクエ派ではありません。
というか、壊滅的なゲーム音痴なので、そこら辺の知識はゲーマー友人の遠吠えをうろ覚えですすいません。
2015.12.17 改稿。




