遠く君を想う
レオンハルト視点です。
いつものように庭で拝借した花を手に目的の場所まで来ると、その扉を開けて中に入った。
質素ながらも寝台と机が置かれているその部屋は、今は使われていない。
レオンハルトは最初のころより長くなっているその寝台に目をやると、思わず笑みを浮かべた。
その寝台はレオンハルトの体に合わせて改造されていた。
そのことに気付いたとき、サキがこの部屋でずっと待っていてくれたのだという事を知った。
寝台まで改造していたとは思っていなかったレオンハルトは、そんな彼女の優しさを知った時、しばらく涙を止めることができなかった。
サキの優しさに触れる事が出来たレオンハルトは、全てとまではいかないが、己の中でいろいろな事に決着をつけることができた。
サキの存在が立ち止っていたレオンハルトを前に進めてくれたのだ。
『もう、一人じゃないよ』
そう言ってくれた彼女の笑顔が今でも目蓋の裏に焼き付いている。
サキはここにはいないけれど、思い出の中の彼女はいつも笑ってくれる。
レオンハルトはその笑顔を思い出すだけで心が温かくなるのを感じた。
ずっと傍にいてくれると言った。
ずっと見ていてくれると言った。
ずっと忘れないでいてくれると言った。
そう彼女が言ってくれたから、もう大丈夫。
「サキ」
誰もいないその部屋でレオンハルトは愛しい人の名を口にする。
ありがとう。
君に会えてよかった。
レオンハルトは心からそう思った。
机の上の一輪ざしにはもう収まりきらないのではというほどの花が挿してある。毎日欠かさず活けに来るレオンハルトは、その本数分、彼女への想いを募らせていく。
今は誰もいないその部屋で、しばしの間思い出に浸っていたレオンハルトは、手に持った花を机の一輪ざしに挿すと、主人のいないその部屋を後にした。




