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俺が主人公になる話  作者: あんぷ
第二章:魔境最前線
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幸せ

 活気溢れる王都ビアラム。

 街は屋台や行き交う人々で盛んに賑わっていた。

 そんな街中と対称的に俺とフルトさんはしょんぼりと、とぼとぼ歩いていた……。

 「なーんでまた俺達がいかなきゃなんすか……」

 後ろを歩いてるフルトさんのなさけない愚痴が聞こえてくる。

 「なんではこっちのセリフですよ……。先輩がまたレイラさんのお菓子を食べちゃったからでしょ……、しかも俺を巻き添えにして!」

 はぁ、なんで俺まで……。

 徘徊はまだ二回目となる王都。

 本当なら楽しく街を観光したいものだが、歩く俺達の足取りは重い。

 そうなったのも後ろを、先輩というのに後ろをぐったりとあるいているフルトさんが原因だ。


 ――――――――――――

 

 遡ること数時間前

 羊会に入ってから早一週間、俺は相変わらず魔道具を使った訓練をしていた。

 少しずつ感覚もつかめ、神力を扱う魔道具に込められるようになってきたころだったが、レイラさんの方も指導のピッチを高めてきた。

 俺が、神力を上手く込められるようになればなるほど、より鋭く、より早く、斧を俺に振り回してくる。

 鍛錬が激しくなり、毎度クタクタどころではすまない……。

 部屋に帰るなりベッドに直帰していた。

 そんなある日、いつものように鍛錬を終え、ベッドに突っ伏している俺の目の前にフルトさんが現れた。

 フルトさんは、戦闘向けでないのかいつも雑用ばかりしている。鍛錬には参加していない。

 会うのは部屋の中でくらいなのだが、近ごろは部屋に戻るのも遅く、戻ってもすぐにぐったりいたので、あまりまだ話したことはなかった。

 そういやいたな、この人と見ていると、突然目の前に甘い香りが香ってくる。

 クンクン、なんだか懐かしい、おいしそうな香り……。

 思わず顔をバッと上げた俺の目の前に立っていたフルトさんの手には、なんとシュークリームがあった!

 「ええ!この世界にもあるのか!シュークリーム!」

 町でクッキーなどはちらっと最初に見ていたが、そんなものまであるとは知らなかった。

 「うん!あるよ!そんな驚くとはわざわざ買ってきたかいがあったよ!最近、疲れっぱなしで帰ってくる君に先輩からご褒美と買ってきたんだ!!」

 え?今、なんて!

 「それ!食べていいんですか!?」

 「うん!レイラさんに買うよう言われてたから、ついでに君のも買ってきたんだ!」 

 棚からぼた餅、いや、シュークリーム、、!!

 俺は喜んで頂くことにした。

 くたくたに疲れていた身体のことも忘れて目の前のシュークリームに飛びついた。

 ああ、美味しい……。生地がサクサクとしており、噛むとジュワッとバターが口いっぱいに広がっていく……。

 中のクリームもちょうどいい甘さで……、中のイチゴがフルーティーな甘みと少々の酸味を味合わせてくれて、全体の甘さがより際立つ……。

 最高だ……。生きててよかった。

 「まさかイチゴまであるなんて!中々いいやつ買ってきたんですか?」

 「あれ?イチゴ?俺が渡したのは普通のシュークリームだったはずが……」

 目の前のフルトさんの顔が一気に青ざめていく。

 そんなこと、気づかず夢中になってシュークリームを貪っていると、レイラさんが部屋に帰ってきた。

 「あら、フルト。帰ってたのね。おやつに頼んでいたシュークリームを食べたいのだけども……」

 レイラさんの目線が俺の手元に移る。 

 「あら、ルーファにも買ってきてあげたのね。太っ腹じゃない。高かったでしょう?よくお金足りたわね」

 へー、やっぱ高かったんだなー。なんともいい先輩だと思ってみているとフルトさんはびくびくと震え、だらだら汗をかいていた。

 「ところで、私も早く食べたいのだけども。どこにあるのかしら、私のイチゴのシュークリーム。無性に食べたくなる日があるのよね。早く食べたいわ」

 ドサッとレイラさんが椅子に座ると、フルトさんがぷるぷると指を俺にさしてきた。

 「なによ。ルーファがどうかしたの?私は早く”イチゴ”の”シュークリーム”が食べたいんだけれども」

 「……がって……」

 フルトさんがわなわなとレイラさんに答える。

 「ルーファが……食べてるのが……それ……です……。普通……のを…渡した……はずが……間違って……レイラさんのを……渡して……しまいました……」

 クルクルと椅子を回していたレイラさんの動きが止まる。

 

 「なんですって?」 

 

 鬼。そう鬼の形相でレイラさんがこっちを向いてくる。

 「すみません!っでも普通のならちゃんとあります!今回はそれで勘弁してほしいです!」

 「だめよ。言ったでしょ?今日は”イチゴ”の”シュークリーム”が無性に食べたい日なの。それ以外では満足できないわ。買ってきなさい、自腹で」

 「そんな!あれめっちゃ高いじゃないですか!俺の安月給ではとてもとても無理です」

 いつもの軽い口調も忘れフルトさんは猛講義する。

 「あら、ならルーファ。あなたの今月の給料も渡すからそれと合わせて買ってきなさい」

 ええ!給料俺にあったの!?そんでもってそれ消えるの!?

 お金の話なんて聞いてなかったから驚きだ。 

 貰えるとは思っていなかったが、だからといって欲しくないわけではない。

 貰えるのならばもちろん欲しい。

 それに、俺の前世の学校ではバイト禁止だったため、実質人生初給料なのだ。 

 なんとしても死守しなくては。

 「そんな!横暴です!俺はフルトさんに渡されて食べただけで、何も知らなくて!むしろ勝手に巻き込まれた被害者っていうか……」

 「でも、食べたわよね?」

 「いや、それはだから……」

 「私のを、食べたわよね」

 だめだ、目が怖すぎてこれ以上意見できない……。

 「むしろ私は、直接食べられたあなたの方が憎しみは深いのだけれども」

 「そんな!あんまりだ!」

 「え!じゃあ俺はそんな悪くないってことっすか!」

 「そんなわけないじゃない。その口切り裂くわよ」

 一瞬で活気を戻したフルトさんがまたシュンと情けなく落ち込んだ。

 「あなた、これ二度目よね。同じミスを繰り返す穀潰しは、そろそろ処分しようかしら」

 フルトさんの顔から一気に血の気が引いていく。

 「ちょ、待ってください!俺だって人間なんだから、ミスの一つや二つしてしまうんです!次はしないように頑張るので!」

 「次……、そうね。わかったわ。仕方ないことよね、人がミスをするのは。二度あることは三度あるという言葉もあるくらいだし……」

 「レイラさん……!」

 「三度目が起きる前に、今ここで消すべきね。大人しく切られなさい」

 「レイラさん……!?」

 レイラさんがスッと愛斧”タロちゃん”を手に出してきた。

 そして神力を込めると、斧の先端が紫色に光沢しだした。

 「ちょ、レイラさん!それマジモン!シャレにならないやつ!」

 「何言ってるの?私はいっつも本気マジよ。冗談なんて大嫌いかしら」

 レイラさんがフルトさんに向かって斧を振り下ろす。 

 ってフルトさんの前には俺もいるんだが!

 俺とフルトさんは咄嗟に飛び避ける。

 ブンッと振り下ろされた斧が俺がいたベッドに直撃する。

 真っ二つに割れたベッドは内側からメキャッバキッグシャツと腐食したように崩れていき、跡形もなくなった。

 効果は恐ろしいが、綺麗なものだな。

 見事に直撃したベッドだけ消し去った。

 当たっていない、床やベッドが側していた壁などには無影響だ。

 ほえーっと見ていると、フルトさんが震えながら話しかけてきた。

 「見惚れている場合っすか!てかこんなのに見惚れるんすか!?早くイチゴのシュークリームもう一個買ってこないと、骨も残してもらえないっすよ!?」

 それもそうだ。俺たちは今、命の危機に瀕しているのだ。

 まさか次の命の危機は同じ仲間の上司とは……。

 さんざん続きな世界だ、と思っていると、レイラさんが紙袋を取り出し俺に投げ込んできた。

 「なにぼぉーッと立っているのかしら。早く新しいのを買ってきなさいな。それと、さっきのを最後の晩餐にしたいかしら」

 「「いえ!行ってまいります!!」」

 今にも斧を振り下ろしてきそうなレイラさんを前に、戸惑う間もなく俺とフルトさんは有り金全部持って、街のほうにすっ飛んでいったのだった……。


 ――――――――――――


 そして今に至る……。

 フルトさんは相変わらずぐったりと、肩を落としてとぼとぼ歩いている。

 どうせ帰ってもシバかれるんだぁ、と弱音を吐いてばっかりだ……、こちらまでテンションが余計落ちて行ってしまう。

 「先輩……、もう仕方ないんで、プラスに考えましょう。帰った後は知りませんが、俺たちは帰るまでは絶対にレイラさんにシバかれることはないってことですよ」

 フルトさんがバッと顔をあげる。

 「なるほど……!」

 「俺はまだこの街のことしっかり見るのは初めてなんで、”先輩”としてガイドお願いしますよ」

 そういうと、フルトさんは息を吹き返し、ダッと俺の前に飛び出してきた。

 「そうっすよね!俺は”先輩”なんすもんね!よし、ルーファ!”先輩”の俺がばっちり”後輩”のお前をガイドしてやるっす!ついてくるっす!」

 いつもの調子のよい語尾を取り戻し、フルトさんの顔がパァーっと明るくなっている。

 どうやら元気を取り戻してくれたようだ。わかっていたがちょろいな、この先輩。

 語尾がどちらかというと後輩が使うものなのだが、そんなことは言わず俺はフルトさんを更にはやし立てる。 

 「お願いします!”超エリート”のフルト”大先輩”がいてくれるとめっちゃ心強いです!」

 フルトさんは、エリート……!、大先輩……!、心強い……!、と俺のつけた都合のいいワードに浸っている。

 「わぁーー!俺はいい後輩を持ったっす~……!」

 と思いきや、急にバッと泣き出した。

 「え!どうしました!大丈夫ですか!」

 「レイラさんについてから、ずっと、ゴミムシ、穀潰し、モルモットと人として扱ってもらえなくて、自尊心ボロボロだったっす……。だから、そんなこと言われたのこの世界にきて初めてなんす~……」

 フルトさんはボロボロと泣いている。この人も相当な苦労を今までにしてきたんだな……。

 また今度労わってあげよう……。

 「そんな後輩のために!俺、張り切るっす!」

 そういって、俺とフルトさんのせめてもの王都観光が始まった。


 

 王都は本当に栄えている。

 街ゆくところのいたるところに店がでている。

 花屋、カフェ、神力書店、魔道具……様々な店が並んでいた。 

 「すごいですね……!」

 「まあねっす!数十年……といっても数百年っすね、ここを戦場としないと悪魔と”誓い”を結んで、数百年の平和の間にここビアラムは他国と比べても随一の盛んな都市になっていったっす!」

 ザムさんは”誓い”を結んだのは数十年前といっていたが、もっと前に”誓い”は結ばれたらしい。

 フルトさんにそのことを聞くと、あの人は色んな意味で感覚狂ってるっすからねー、話半分信じるのがいいっす!っと言っていた。

 果物屋には前世で見たようなすいか、ミカン、レモンなどのものや、見たことない形状のものもおいていた。

 「季節関係なしに売られているんですか?」

 「ああ。そういった系統の能力もあるっす!羊学校で非戦闘系と判断された人たちは農家や漁業、商人など色んな職で自分の能力を活かしている人が多いっす!」

 俺が知らない能力がまだまだあるものだな。

 俺が見た神力書はドムが集めたものだったため、戦闘系の能力が書かれたものが多かったのだろうか。

 そんなふうに見て歩いていると、特段甘い香りのする店が見えてきた。

 「ここっすよ!シュークリーム屋さん!イチゴのシュークリームはここでしか売られてないものなんす!」

 見えた店の名は”幸せのシュークリーム屋さん”。

 店は小柄なものだが、そこには長蛇の列ができるほど人気があった。

 「いちごのシュークリームは値段がアホほど高いのにこの街一番といっていいほど人気な品物なんす!日々の疲れの癒しに、頑張った自分へのご褒美に……買っていく人がこの都市中にいるっす!」

 値段は20000ビアラ(この国の効果の単位はビアラというらしい)……!

 普通のシュークリームは50ビアラと手ごろなものに対してとんでも値段だ。

 「先輩、いくらもってるんですか?」

 「ぴったり2500ビアラっす!」

 俺が渡された給料は17500ビアラ……、さらば俺の初任給。

 「初任給にしては、少なくないっすか?」

 「贅沢言っちゃいけないっす。だいたいの食事は羊会特権で一日一回無料にしてもらってるんすから」

 そんな特権あったのか。なら、まぁ……仕方ない……とするか……。

 「ちなみにこのシュークリームも一日一個、普通のやつは無料なんす!」

 おっ得ー!っとフルトさんは楽しそうだ。

 てことはこの先輩、無料のものを俺に日ごろの労わりとして渡してきたのか……。

 いやまぁ、嬉しいんだけれでも……。もらえる側として文句を言える立場じゃないが……。

 なんというか、先輩としての威厳が皆無な人だな。

 そうして俺たちは長蛇の列に加わろうとしたところ、店の中から出てきた人に呼び止められた。

 「おや?フルトさんじゃないか!一日に二度もくるとはめずらしいね」

 俺たちが振り向くと、コック姿をしたガタイのいいマッチョさんが立っていた。

 「ああ、ジャームさん!お疲れ様っす!」

 フルトは顔見知りなのか、気さくに答える。

 「いやぁレイラさんに渡すのを間違えて新人君に渡しちゃって……。こっぴどく叱られてもう一個買いに来てんすよ……」

 「ああ、つい最近入ったっていっていたね。この子がそれかい」

 コック姿のマッチョ、ジャームさんが俺のほうに視線を移す。

 「そうっす!この子が期待のルーキーくんっす!」

 「どうも、新しく羊会に入って、レイラさんとフルトさんにお世話になってます。ルーファ・スカイロットと言います」

 「そうかそうか!なんでもめちゃくちゃ強くてザムさんの推薦なんだって?期待してるぞ」

 ジャームさんはそう俺の背中をバシバシと叩く。

 「は……はい!皆さんの安全を守れるように精いっぱい頑張っていきます」

 このノリ、親戚のおじさんが家に来た時を思い出す……。

 近況のことを話したら、そげか!頑張ってな!と激励の背中打ち……。

 善意でやってくれているとは知っているが、どうもなにか照れくさく、俺は苦手だったな。

 「それなら、特別に2500ビアラで売ってやるよ!いつも、あんたらにはお世話になってることだしな!」

 「え!いいんすか!」

 「ああ!ちょうど出来上がったところだしな!」

 なんて太っ腹な人だこと……!

 これで俺は支払わずに済む……!

 おかえり!俺の初任給君……!

 ジャームさんは俺の肩をがっしりと掴んだまま、聞いてきた。

 「ところで、食ったんだろう?うちのシュークリーム。どうだった?」

 「あ、はい……!すっごくサクサクで口の中いっぱいに幸せが広がって……!とっても美味しかったです」

 「そうか!そうか!うちのシュークリームはこの都市、いやこの世界一だからな!またいつでも食べに来てくれ!」

 「はい!あ、なら羊会特権で、俺の分も一つ、普通のシュークリームください!」

 思わぬファストパス……。俺も乗るとしよう、このビックウェーブに……!

 「あいよ!ちょっと待っといてくれな」

 そう言って、ジャームさんは店の中に顔を入れて叫ぶ。

 「レイン!いちごと普通のやつ!一つずつ焼き立ての中から袋に入れて持ってきてくれ!」

 厨房と思われるところから、はーいと元気な女の子の声が聞こえてきた。

 しばらくすると、中から金髪のツインテールの女の子が、コック姿で袋を持って出てきた。

 「こちらです!ジャームさん!」

 「おう!ありがとな!」

 そうジャームさんに袋を渡すと、俺とフルトさんにぺこりと一礼してまた店の中に入っていった。

 「あの子はレインちゃんっていって、ジャームさんのたった一人の一番弟子っす!もう長い間、ここにて看板娘兼、次期店長として、この都市のなかでも人気の子っす!」

 「ああ!あいつが街中で働き口を探しているところを、俺がスカウトしてな!俺の見込みは間違っていなかったみたいだな」

 そうジャームさんはガハハハと嬉しそうに笑う。

 確かに、整った顔立ちにきゅるるとまばゆい眼。

 そんな子が一生懸命、汗水流して、皆のために日々、シュークリームを焼いているのだ。

 この店のけた外れの人気には、シュークリームの美味しさ以外にも、そんな姿に胸を打たれ、応援しようという人も多いのだろう。

 列をすっ飛ばして、シュークリームを貰った俺たちにブーイングをかける人なんて一人もいなかった。

 (いい人たちだな……)

 素直にそう思った。

 活気あふれる王都ビアラム。 

 行き交う人たちは皆元気いっぱいに笑顔だ。

 そんな人たちの日常を、いつも通りという、日々の幸せを守らなくちゃな。

 俺はそう固く思い、ジャームさんにお礼を言ってフルトさんと羊会の方に戻っていった。

 


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