ある日の切り抜き
※
そこら中から悲鳴と泣き声が聞こえる
「早く逃げろー!!」
「わああああああん」
無理もないこの状況俺だって恐怖でいっぱいだ。
ただ、泣くことさえできずその場に立ち尽くしている。
「うう…うわぁ、!!」
「よせ!戦うなぁ!」
錯乱した仲間が目の前の化け物に、とびかかっていく。
だが無駄だ。
目の前の化け物にはあんなに強く見えた人たちが、文字通り、ゴミのように散らばられていた。
ある人の顔などもう形を保っていなく、ある人の下半身は3m離れた場所に投げ捨てられている。
その化け物の周りには死体が……何人もの人の肉片がちりばめられている。
(あ、また……)
もはや逃げる気力もない俺は、ただぼおーッと仲間がまたバラバラにされるのを見ていた。
次は誰だろう。逃げても無駄だ。
すぐ追い付かれる。
目の前の化け物にはさぞ俺たちが情けなく見えるだろう。
化け物はつまらなそうにぼおーッと遠くを見ている
視界には誰も映っていないのだろう。
あいつにとって俺たちは道端の虫けら同然なのだ。
ただ、潰すのが楽しいから、気まぐれに潰す。それだけなのだろう。
そしてそのきまぐれは、、
次に自分に向かってきた。
ああ、神様、女神様、、
自分は死ぬのだと理解した途端に湧き出てくる、どうしようもない欲望があった。
俺は、、もっと、、生きていたいです……。
死にたくないなぁ……。
それだけ考えていると目の前の白い人の形をした化け物は、背中の真っ白な翼を大きく広げ、、
一瞬で、俺の目の前に迫っていき、、
ああ、、腹が熱い、息ができない……苦しい…
悪魔が通り過ぎたあと、ただれた皮膚を、地面に引きずりながら、、数センチ先のところで俺は倒れ、
視界はまた、暗闇で埋め尽くされた。
※
部活の片付けも終わり、カバンの重さに潰されながら、だらだらと俺、空野未来は家の冷凍庫のアイスを恋しく思いながら帰っていると目の前に突然キキィ――ッと甲高い音を上げスライドブレーキした自転車が目の前に現れた。
「よっ!未来!今から帰りか?一緒に帰ろうぜ!!」
と突然、俺の二つ上の兄、空野雅人が突っ込んできた。
「いっつも突っ込んできやがって……。ちゃんとベル鳴らしてから近付けよな……」
はははと笑いながら雅人は悪びれる様子もない……。いつものことだからもういいが。
「今日は練習ないのか?珍しいな」
「ああ!ひっさしぶりのオフ日だ!太陽を帰り道で拝めるのはいつぶりだろう……」
雅人はそう太陽にむかって思いっきり手を仰いだ。いい歳してこういうところはガキである……。
だが、雅人はここらで一のサッカー強豪校のレギュラー入りをしている。
全国的にも注目されている、サッカーにおいては紛れもない超エリート。
ついた通り名は、努力の天才。
いつも黙々と練習に打ち込み、しっかりと毎度、毎度結果を出して見せることから、いつしかこう呼ばれているのをよく耳にする。
運動が大嫌いな俺がサッカーを始めたのは、そんな兄に憧れたからという何ともありきたりな理由だった。
俺も雅人のように、かっこよくありたい……!
そんな理由で始めたサッカー。
最初こそは楽しかった。始めたては希望もやる気も満ち溢れていた。
だが、知った現実は、兄は本当に天才だったということだった。
俺は要領が悪く、もともと運動もできない方だっため同年代の仲間にいつも置いていかれていた。
雅人に教わったりもしてもらっていたが、なかなか上達することはできなかった。
身についたことは、走り込みで身についていった体力、それしか自信をもてなかった。
兄の後ろ姿を見ていると嫌でも感じてしまう――。
俺とこいつは、やっぱり違う世界にいるのだ、と。
俺は次第にサッカーをただの作業のようにやるようになっていった。
「ん?どうした?そんなボーっと俺を見やがって?」
ジーッと後ろ姿を見つめていた俺に雅人が気がつき、不思議そうにしている。
「そりゃ、実の兄がそんな恥ずかしいことやってたら、あきれて何もいえねーよ」
「ははは!俺がかっこよすぎて見惚れてたかと思ったぞ!なんてったって、地元じゃ噂の自慢のあにでしょーからな!がはは!」
「んな訳あるかよ!このバカ兄貴!」
こいつめ……。今自分がしていたことを何にも恥ずかしく思わないとは……。
ほんとにサッカーがなければただのガキなのではと思ってしまいそうだが、そうじゃないことを俺は知っている。
努力の天才。
地元だけじゃなく、県外にも注目を寄せられている兄に、俺が引け目を感じていることに気づいている。
気づいたうえで、気づかないふりをして、俺の前では明るくバカをやってくれている。
俺とお前は、ただの兄弟だぞと。
兄は俺に見せる姿よりずっと大人である。
弟想いの完璧お兄ちゃん。
ゲームも勉強も運動も、サッカーだけでなくなんでもそつなくこなしてしまう。
本当にかっこいい、自慢の兄ちゃんだな。
そんな雅人がガハハと笑っていたが、突然ふっと笑いを消して、真剣な顔になった。
いつも見る、試合での兄貴だ。
すると突然、
「俺、サッカーやめようと思うんだ」
「……は?」
突然のことすぎて、間抜けな声を出してしまった。
「どうして……そんな突然に。お前、サッカー好きじゃなかったのか?」
訳がわからず、とにかく理由を知ろうとする俺に告げられたのは意外も意外、
「ああ、俺、ホントはサッカーそんな好きじゃないんだ」
「なっ……!それマジで言ってんの?」
サッカーをやるといったのは雅人自身からだった。
練習に打ち込む姿からも、雅人はサッカーが好きでやり続けていたのだと思っていた。
「俺に……、俺に気を……遣ってか?」
「違う違う!そんなこと一切ないぞ!?大体、俺がなんでお前に気を遣うんだよ……」
本当に違うというように雅人は思いっきり、首と体を横に振る。
「なら、本当に……?お前はサッカーが嫌いなのか?」
「嫌い……。うん。嫌になっちゃったかな……。最初は楽しかったけど、だんだんと注目されるようになていっていくにつれて、楽しくなくなった」
雅人は確かに、小、中のころの試合では、子供らしい、楽し気な表情を見せていた。
だが、中二の頃の大会で優勝し、多くの人に注目されるようになってから、試合の時は顔は真剣そのものの顔になっていった。
「高校も、ホントは強豪校なんか行きたくなかったし、これ以上の注目なんていらなかったんだ……」
高校のサッカーはそれはもう耐えられなかったと言っていた。
雅人は、今の今まで失敗らしい失敗をしてこなかった。
だからこその天才。
それと同時に、雅人には失敗できないという責任と期待の重圧にかけられ続けてきた。
その疲れがドッと来たのだという。
「やめたいって何度も言いたかったんだけどな……言い出せないまんまだったな……」
「なんで……。それなら何で今なんだ?」
「んー、なんでだろうな?未来はどう思う?」
「いや、俺に聞かれても……」
「未来とこうやって久しぶりに帰ってて、楽しーって思ったから……かな?」
雅人はそうニカッ笑いかけてきた。
いつもの、俺に見せる兄の姿を見せてきた。
「父さんや母さん、監督には言ったのか?」
「まだー。今思いついたことだしなー」
そう雅人は自転車を引きながら俺の横を歩いている。
話したのは俺が最初だ、そう雅人は言った。
「お前が一番話しやすいからなー」
そうナハハと笑っている。
だが、俺に話したホントの理由は違うのであろう。
「お前、俺ならやめることを肯定すると思って話したな?」
「……」
雅人はダンマリと顔をそらす。嘘をつくのは下手くそだ。
「いやー、お見通しですな、未来君は」
「結構な人なら気が付くと思うぞ」
話しやすい、というのは話しても否定されないという意味でのだろう。
「それに、やっぱ俺のことをかばってだろ。俺がサッカー嫌いなの知ってて、引け目を少しでも感じなくなるようにって」
「……」
「呆れた……!そんなことのためにやめるって俺に言ったのか……。どうでサッカーが嫌っていうのも嘘なんだろ?」
「……バレてるか」
雅人は顔をそむけたままだ。
雅人は、もうサッカーを楽しく思わない僕にやはり気を遣っていたのだ。
それと同時にどうせこの流れで俺にもやめるように言い出すつもりだったのだろう。
俺がサッカーを始めたのは、雅人が理由だから。
というか主な理由はこっちだろう。
「そんな気を遣わなくとも、俺は自分でちゃんと言えるよ!」
そう言って、俺は今日書いたばかりの退部届をカバンから取り出し、目の前に突き出した。
「別にもう、兄ちゃんの後ろ追わなきゃ、なんもできない訳じゃないからな!」
「ッ!?お前!?」
ふふんと見せつける。明日出そうと今日、顧問の先生からもらっていたのだ。
「サッカー、やめたがっていたの……か?」
「それはもう知ってたろ」
「ははは!そっか!もう俺が助けなくても大丈夫か!」
雅人はそうまた笑っている。
「ぷっ、あっははは!」
俺も思わず笑ってしまう。
兄はそうしていると急に頭をなでてきた。
……は?
「ちょ、いきなりなんだよ!恥ずかしいって!!」
「ははは!いやぁ、お前もしっかりと成長しているんだなって思ってな!」
そう俺の頭をわしゃわしゃ撫でじゃくる。
恥ずかしいが、少しこそばよく嬉しい。
「そっか。そっか。お前は俺よりも……」
「……?俺よりも?なんだって」
「いや!なんでもない!それより帰ったら久しぶりにゲームするぞ!もうしばらく俺はできないかもしれないからな!」
「……おう!やろうぜ!今度こそ勝ってやらぁ!」
「いやー、それじゃあ大人の未来くんの実力を見せてもらおうかな!先いってるぜー!」
そう雅人は、自転車にまたがり走り去っていった。
「おい!俺の荷物、乗っけてくれよ!」
「がっはは!追い付けたらいいぜ……」
そう雅人がこちらを振り返った瞬間、彼の顔が歪んだ。
たく、あの野郎、と走り出そうとした瞬間、雅人はすごい形相で
「未来ーーーー!あぶな……」
突然、またすごい顔でどうしたと思った瞬間、鈍い感覚が右側から感じた。
「は?」
ゴン!というものすごい音が体に響き、世界がグルりと視界で周ったと思えば、俺は地面に突っ伏していた。
な……が……?
かすかに雅人が向かってきているのが見える。すぐ近くにトラックも。
そうか、轢かれたのか俺、なら、もう……。
俺はそれ以上は意識を保てず、暗闇へと飲み込まれていった。
※
気が付くと真っ暗な空間にいた
(なんだ、俺、寝ていた……いや死んだのか……)
状況を理解しようとしていると目の前に、何かいることに気づいた。
目は鋭く、鼻は高い。すらっとした身体の背中には翼が生えており、頭には角がある。
簡単にいえばアニメで見たような悪魔だ。
俺が目を覚ましたことに気づいたら、突然そいつは両手を大げさに広げてこう言った
「おお、か弱き人間よ!死んでしまうとはなさけない!!ああ!なさけない」
「は?」
なんともふざけた情けないポーズをしていることに少し腹が立つ。せっかくのイケメン顔なのにもったいない。
やはり死んだのか、俺は。しかし、某RPGゲームのセリフを叫んだ目の前の存在にまだ困惑している。覚醒した意識をフル回転させて思いついた、生前何度も同じようなアニメやゲームを五万とみてきたのを思い出し、
「異世界、転、、生……?」
存在するはずがないものの名前を口に出して聞いてみた。
すると目の前の悪魔さん(仮)が嬉しそうに話しかけてきた。
「そのとおーり!やはり、最近の若者は話が早い!!早い話、これから別の世界へ生まれ変わらせる!!」
やはり、典型的な異世界転生らしい。どうせなら綺麗な女神さんとやらに送ってもらいたいものだが……。
「それで、、その転生とはどんな形で??それにお前は何者なんだ?」
「私か?見ればわかるだろう?この漆黒の翼!!美しい角!!君も生前見たことがあるだろう?」
目の前の悪魔さん(確信)はまたしても大げさに翼をなびかせて言った。
「そう私こそは!!」
そうだ、何回も同じようなデザインを見てきた。そうその名も……
あく……
「女神であーる!!!崇めよ!!人間!!」
………ほう、、どうやらしっかり女神さんに見送ってもらえるらしい。やったぜ。
――って
「嘘つけーーーーー!」
「失敬な!お前の世界でも見たことあるんだろう?女神は」
「あんたのどこに女神要素があるんだ!どう見ても悪魔だろうが」
「悪魔!君!あんな真っ白く恐ろしいものと一緒にしないでくれるかい!?」
「悪魔が……、真っ白??」
そこから女神さんによるこの世界での説明が始まった。
どうやらこの世界では女神、悪魔、そして人間という三種族の構成でできているらしい。
しかし、悪魔の力は絶大で、女神相手でも太刀打ちできなくなってきているらしい。
この世界には、悪魔属性の魔力、女神属性の神力というエネルギーが漂っているとのことだ。
双方が双方に対して強く、単純にその使い方が強い方が強い。
だが、人間は何の力もない、剣や大砲を打つのが精いっぱいの力らしい。
そんな状況だから、人間にも戦力になって悪魔を倒すのに力を貸してもらおうとのことだ。
「こっちにいる人間は、どうやっても力が使えないようにできてしまうの……、でもほかの世界の人間は別、私たちが手を加えることで神力を使えるようになるの!」
もとは他の世界から戦力になる人をつれてこようとして気が付いたらしい。
「安心して、私たちは不幸に死んだ人しかここに連れてきてないから。わざわざ殺して連れてくるような真似はしてないよ。」
それならばよかった。自分が目の前の女神さんによって殺されたのだとしたら、さすがに怒りで耐えられなかった。
「それで、何か能力みたいなものはあるんですか?その、じん……りょく、とやらを使って戦うような」
「能力はね……君たち次第だよ。神力を使えるからって、それで戦えるようになるとは限らないんだ。」
今までの調子とは少し変わり、申し訳なさそうに女神さんは語る。
「いってしまえば、君たちには電力をつかえるようにしただけで、どんな電化製品がつくか、まずついてくるかもわからないっていう形なんだ。電力だけでは使えない力だ」
基本的に向こうに生まれてから1~8歳の間は神力に身体を慣れさせる期間。そして八~十八歳までにそれぞれ能力が付く者はついてくるとのことだ。
「それまでにつかなかったら、基本的には一生能力は身につかない。いや、絶対。今まで例外は見たことないよ。それに……」
能力がつくつかない可能性は8歳の時点での神力をはかればおおよそわかるとのこと。そして、能力が付く可能性が高いものから悪魔との戦場に近い場へと強制的に送られるとのことだ。
「能力が付く、付かないにしろ、この世界は君たちのいた世界とは全く違う。常に命の危険がある世界だ。ノリノリで明るく転生を勧めたがもちろん強制はできない。嫌ならこのまま安らかに眠れるよ」
確かに、生まれ変わったからといって、幸せな死に方ができる保証はない。
「悪魔には、女神さんたちのこの行動バレていないんですか?」
「とっくにバレているよ、でも悪魔たちは闘うのだーい好き、変態殺戮ゲス野郎。より強い餌が来るのならとむしろ歓迎していて、向こうから手を出さないと誓いを決めてきた」
「それって口約束なんですよね?もし破られたらやばくないですか?最悪他の世界に悪魔が行ってしまったり。」
「それも大丈夫。他の世界に干渉する力をあいつらはもっていないし、私たちだって、そもそもあまり、干渉できないんだ。それにもし奴らができるようになってもやらないという誓いも決めてある」
誓い……つまりは約束事だ。悪魔との約束はどんな形で取り決められたにしろ、絶対順守される。
悪魔との誓いを破ったものは例外なく、死んでしまうのだという。
「本来、誓いって悪魔にとっては不利になることが多いんだ。特にこんな場合で使われると、こっちは破りようがなく、向こうにリスクしかないつまり……」
完全にナメられている……ということだ
今ままで悪魔に十分対抗できるような者は何人もいるという。
力のついた悪魔の中でも上位の部類といわれる悪魔を倒したものも。
しかし、より強い悪魔にやられている。
悪魔の世界は広大で、そこでは時間の流れも違う。
こっちの数年は向こうでは何千年という時が流れているのだという。
そのため、積み上げてきた力の格が違う…
その格の差を埋めるような強者が来ることを、悪魔も望んでいるということだ。
強いやつが来れば嬉しい。弱いやつなら遊び道具にできる。
だが、だからといってビビる理由になるか。
そんな状況を知ってもなお、果敢に挑んでいった者たちは何人もいるのだ。
それに俺は、決めていたのだ。兄についていくのでなく、自分で切り開いた道で、自信をもって生きていくのだと。
無念にも終わってしまったと思っていたから丁度いい。
俺は、俺のやり方で、俺の世界で、かっこよく、自信をもって生きてやる。
もし、次に兄ちゃんにあったとき、次はちゃんと、胸をはって同じ人間だと、俺はお前の自慢の弟だぞって言えるような。
返事は決まった。
「俺、やります。俺は決めていたんです。俺自身の力で、どんな道でも切り開いて生きていくんだって。そんなチャンスをもらえるなら、ありがたく頂戴します!」
目の前の女神さんは優しく微笑み、うなづいた。さっきまでの明るいお調子者の空気など一切ない。
正真正銘の女神様は大きく手を広げ、こういった
「願わくば、新しい路で、この過酷な世界で、あなたが今度こそ、後悔のない人生を切り開けますように。共に戦ってくれることを、心より感謝します」
そうして俺の視界は再び暗闇に包まれたのだった。




