005 おれは、私は、変わり続ける
「変な家」
黒髪メガネの少女の言ったことは、もっともだった。ボロ屋にはアンテナが無数に立てられていて、近寄りがたい雰囲気が肌につたる。
「まぁまぁ、ここに、〝ネオ・トーキョー〟屈指の情報屋がいるからさ」
ポツポツ降っていた雨はすでに止んでいる。ひどい湿気が、リタの頭を割りそうになるも、気にしている暇もない。
リタと少女はインターホンを鳴らし、返事を待つ。
『誰だ?』
「分かってるくせに」
『オマエらがラセツ・カンパニーを襲い、〝サムライ・スピリット〟を強奪したことくらいしか知らんよ』
「それだけで充分だろ? ハル・チカヒロ」
『分かった。入れ』
ブーッ、という音とともにドアが開く。散らかった部屋の奥には、死んだ魚のような目をした青年が4枚のモニターとにらめっこしていた。
「で、なんの用だ? サトウ・リタにミヤシタ・ユウ」
(この子は、ミヤシタ・ユウって名前なのか。まぁ良いや)
「仕事をもらいに来た。面倒事を解決する代わりに、私たちへ隠れ家を提供してほしい」
「ヤサを提供するのなら、かなり面倒な仕事を任せることになるぞ」
「サムライ・スピリットを持ってる私らなら、問題ないさ」
「そうかい。なら、ちょうど良い案件がある」ハルは縦モニターを指差す。「新世界同盟の連中が、第3区画で民間人を人質にとっている」
モニターには、リアルタイムの監視カメラが映し出されている。黒いコートを羽織った連中が、廃工場のような場所で数十人を囲んでいた。
「この人質と、なにかを交換するの?」
「そうだな。コイツらは〝特殊警察〟の家族や友だちだ。新世界同盟は、コイツらと交換で莫大なカネを得ようとしている」
「特殊警察といったら、サムライ・スピリットをインストールした〝能力者〟向けの治安維持だよね? だったらアイツらが解決すへきなんじゃないの?」
「サトウ・リタ。オマエ、大切なヒトが人質にされているのに、突撃できると思うか?」
ハルは語気を強める。腕を頭の後ろに回し、彼は続けた。
「卑怯な連中だ。新世界同盟の幹部が特殊警察に逮捕されて、トサカに来ているんだろう。話をまとめよう。新世界同盟は、逮捕された幹部と慰謝料を警察に要求している。そして、この事件を解決すれば、警察がヤサとカネを用意してくれる。おれはあくまでも、仲介をするだけだ」
ハル・チカヒロらしい言い草だった。リタとユウは頷き、
「分かった。問題を片付けてくる。サムライ・スピリットを持ってる連中はいるの?」
「今のところはいない。ただ、応援でやってくる可能性は否めん。牛丼屋のように素早く終わらせ、解放しろ。あと、時間制限はないに等しい。特殊警察側も端から応じるつもりはないからな。ただ、人質の命は有限だというのも忘れるな」
「よし、行こう。ユウ」
「う、うん」
ハルの家から、リタとユウは出ていく。
職務質問──バンカケされかねないボコボコのセダンを尻目に、リタは近くにあった車を指差す。
「あれで行こう」
なんてことのない、黒塗りのワンボックスカー。まずバンカケされないだろう。この第6区画から第3まで1時間弱。長いドライブが始まる。
「あ、あのさ。リタ」
「なに」
「貴方、ヒトが変わったみたい。神のお告げがなんなのか知らないけど、人格まで変わるものなの?」
リタは鼻を鳴らす。
「変わり続けなければ、このふざけた世界じゃ生き残れない。肝に命じておいたほうが良いよ。我が相棒、ユウ」
運転席へと座り、リタは頭の中に入っている地図を頼りに、第3区画の廃工場へと向かう。




