003 車に向けて撃ちましょう
「ここだね」
リタと少女は、数人のチンピラがいる広場にたどり着く。人数差もある上に、チンピラには不相応なライフルまで持っている。さすが、関東の裏社会に影響力を持つ〝関東七王会〟といったところか。
「とりあえず、あそこに隠れるよ」
「う、うん」
リタは物陰に隠れ、ちょうど近くに車があるのを視認する。一か八か、これでチンピラどもを轢いてしまおうか。いや、時間がシビアなほどにない以上、それ以外の方法はない。
「あの車で轢くよ、あのチンピラどもを」
「え?」
「大丈夫。オートマだったら運転くらいできる」
リタは物陰から物陰へ素早く動き、車の影に隠れる。一応鍵が開いているか確認するも、やはり閉まっていた。窓ガラスを拳銃で割ってしまおう、と銃をぶつけようとしたとき、
「リタ、ピッキングなら任せて」
ここで、名前も知らない少女がそう宣言する。彼女はかがみながら、車のロックを解除した。警告音も聞こえない。千載一遇の大チャンスだ。
「かがんでいてね」
それだけ言い残し、リタはペダルを踏む。轟音を張り上げたセダンは、そのまま一番近くのチンピラを轢く。
「ぐぉ!?」
情けない声とともに、戦闘が始まる。最初は慌てふためいていたチンピラたちだが、車がこちらに向かってくるのを知り、銃弾を乱打してくる。
「うぉおおおおお!!」
当たらないなんて確証、どこにもない。だが、殺さねば殺されるだけ。リタは声を張り上げ、次々とチンピラを轢いていく。肩・耳に銃弾がかすったが、アドレナリン全開のリタには届かない。
その結果、
リタと少女は車から降り、死に絶えつつあるチンピラを尻目に、箱からロケット・ランチャーとその弾丸を3発持ち出すのだった。
「これだけあれば大丈夫。装甲車といっても、4発の弾丸には耐えられないからね」
「り、リタ……。貴方、おかしいくらいに手際が良いね」
「だから言ってるでしょ。神のお告げだよ」
取り合うつもりもない。細かい説明は、前提条件の〝サムライ・スピリット〟を手に入れてからで良い。
リタはランチャーと弾丸を後部座席に載せ、少女に、
「後ろに乗って。これで、装甲車を撃ち抜く。分かった?」
そう無茶振りをし始める。
「わ、分かった。やれるだけやってみる」
裏路地から車で飛び出て、リタは記憶のままに〝ラセツ・カンパニー〟の通り道へ向かっていく。
「あの装甲車に載せてある、〝サムライ・スピリット〟はふたつ。どちらも強力な人工物だけど、ここで確認しておこうか。君、サムライ・スピリットがどんなものか知ってる?」
「え、知らないけど……」
「あれは、様々な能力の複合型だよ。サムライのごとく死を恐れなくなり、身体能力を爆発的に上げる。そして〝カタナ〟があれば、更に戦闘能力を上げられる。ただ、カタナはヒトを選ぶ。当分は銃火器を使うことになるだろうね」
「……リタはもう、死を恐れてないと思う」
「おれ……私のそれとはまるで別物さ。たとえ致命傷を負っても、痛覚がしばらく麻痺して動けるくらいだからね」
「そんなトンデモ兵器が、本当にあるの?」
「あるさ。なければ、このふざけた世界を維持できない」
リタは警察が通らない道を巧妙に渡り、高速道路へ入っていく。七王会はヤクザの癖に、ETCカードを持っているらしく、特に止められることもない。
「装甲車が見えたら言う。それまでに、AIかなにかでランチャーの撃ち方を知っておいて」
「う、うん」
高速に入ってしまえば、多少速度を出しても問題ない。27年間生きてきた甲斐が、ようやく表れているような気がする。
すると、
「いたか……ッ!!」
リタは、ラセツ・カンパニーの装甲車を目で捉える。第7区画というスラムを通っているだけあって、護衛の車はひとつもない。大チャンスだ。




