002 神のお告げ
せっかく、大好きなゲームの世界に来られたのに、犬死なんてごめんだ。そういう体の良い自殺は、モブ役にでも任せておけば良い。
ならばどうする。リタ。
「そうだ」
この世界の原作知識を持つ者として、リタはこれからどうすれば生き残れるかを知っている。このサイバーパンク・サムライの世界は、サムライ・スピリットがなければなぎ倒されるだけのモブだが、であればそれを手にすれば良い。
「どうしたの?」
「生き残るために、そして成功を掴むために、少しやらなきゃいけないことがある」
「どういうこと?」
「ラセツ・カンパニーを襲うのさ。アイツらは人為的に〝サムライ・スピリット〟を開発している。今何時?」
「え、23時だけど」
「ビンゴ。日付が変わる頃、この第7区画にラセツの護送車が通る。そこにサムライ・スピリットが搭載された、サイバーギアが搭載されているはず」
「え、え?」
「とにかく、着いてきて。とりあえず武器を手に入れよう。ロケット・ランチャーが好ましいね。大丈夫、落ちてる場所も知ってる」
リタは、名前も知らない少女が怪訝な面持ちになるのを知りながらも、スラム街の裏路地へと歩みを進めていく。
「ね、ねぇ。リタ。ここら辺は〝関東七王会〟のシマだけど」
「だからロケット・ランチャーが隠されているんだよ。拳銃、持ってる?」
「う、うん」
少女は初期装備〝M2011〟を取り出す。リタはそれを受け取り、奥底へと進む。
「良い? ヤクザが出てきたら、すぐ発砲して。サムライ・スピリットを持ってる連中は、まずこんなスラムにいない。言うなれば、おれらと変わらない一般人だから」
「〝おれ〟?」
「ん?」
「貴方、いつからオレっ娘になったの?」
雨で作られた水辺には、金髪でギャルっぽい少女が映っている。これでは訝られても仕方ない。どうやら、いわゆるTSをしてしまったようだ。
ただ、リタはすぐに会話をつなげる。
「気分転換みたいなもんさ。嫌なら、私に戻すけど」
「戻してよ。オレっ娘って、なんか嫌だし」
「分かった。ともかく、七王会の連中は私らと変わらない一般人。30000人を超える地下組織とはいえ、みんながみんな強いわけじゃない。それにこんなところへは、チンピラしか配置していない」
「なんでそう言い切れるの?」
黒髪メガネの少女からすれば、意味不明も良いところであろう。リタがこの世界でどうやって生きてきたかは知らない。だが、いきなり七王会のシマを通ってランチャーを回収するなんて正直想定もしていなかったに違いない。
「夢を見たのさ。神のお告げってヤツかね。今、私はどうすればある程度のところまで生き残れるか分かる。だから、私を信じて」
「う、うん」
拳銃をいつでも撃てるようにセッティングしておき、用心深くリタと少女は奥まで進む。そうすれば当然、やらしい笑みを浮かべたチンピラがこちらへ向かってくるわけだ。
「よー、よー。嬢ちゃんたち。ここは七王会のシマだぞ? ダルマにされて慰み者になりたくなければ──」
リタは、警告してきたチンピラの男の額に照準を合わせる。呆気にとられた男に向けて、引き金を引いた。
(なるほど。この世界の人間に憑依した感じか……)
日本生まれで日本から出たことのないリタが、あっさり銃を扱えたのは、やはりこの世界の住民に取り憑いたということなのだろう。
赤黒い血が飛び散り、小汚い服に血潮がこびりつく。リタは気にすることなく、男の持っていた拳銃を拾う。
「これで弾には困らない」
その姿を見ていた少女は、わずか身体を震わせる。リタも横目でそれを確認したが、いかんせん時間がない。フォローしている場合でもないのだ。
「行こう。私らには、前に進むしか生きる道はない」
ロケット・ランチャーが隠されている場所まで、あと数十メートル。




