001 ディストピアゲームで幸せを掴み取れ
『サイバーパンク・サムライ』という洋ゲーがある。サイバーパンク化された勘違い日本を舞台に、〝サムライ・スピリット〟という魔力的力を持った連中が陰鬱なストーリーを進めていくゲームだ。
死にゲーとしても評判高く、最初プレイしたときは理不尽に死にまくった。ただ、後半に続くにつれて、主人公〝コウタ〟は雪だるま式に強化されていく。そして、ストーリーをクリアして平和な日本を取り戻すという、暗いストーリーに似合わないハッピーエンドで終わったりする。
そんなサイバーパンク・サムライというゲームを思い出したのは、社会人5年目になってゲームをする時間も減った頃だった。サトウ・リタは、今にも死にそうな顔で通勤の電車に乗ろうと階段を降りていた。そこで足を滑らせた彼は、地面に頭から着地して死に至る直前、こんな走馬灯を見る。
『資本主義の奴隷に成り果てた、哀れなヒトの子よ。このまま奴隷のごとく働かされ、自分の人生が全くもって無意味だと知る定め。それならば、いっそのこと変化を求めてみませんか?』
時間が止まったような感覚に苛まれる。あと数センチで頭が地面に直撃するが、なかなかぶつからない。
『変化を恐れることなかれ。貴方がもっともプレイしていたゲーム〝サイバーパンク・サムライ〟の世界へ行き、そこで幸せを掴み取るのです。貴方はこう聞きたいでしょう。なぜそんな真似をするのか、と。そうですね……。たまたま貴方の悲しき人生を除いてしまったからですよ。サトウ・リタ』
ベキッ、とリタの頭蓋骨が砕ける音が響き、そこで27歳の青年の命は途切れるのだった。
*
思えば、サトウ・リタはろくでもない人生を過ごしてきたと思う。
小学・中学ではイジメられ、その所為で不登校になった。不登校になったから、通信制の高校しか行けなかった。それでも歯を食いしばり、高校を卒業。大学も通信制を選び、なんとか22歳で卒業するも、入社した会社がひどいところだった。
朝5時に起きて、寝るのが深夜2時。正味3時間睡眠の生活を、5年間繰り返してたことになる。
親元に帰ることも視野に入れるべきだったが、リタの親もろくでなし。なにせ、両親はリタが働き始めたのを良いことに仕事をやめ、リタの仕送りと生活習慣だけで生きていたのだから。
どこにも逃げ場がない。リタは、諦観の中で藻掻いていた。いつかきっと報われるはずだ、と。
「頭が、クラクラする……」
果たしてそんな願いが叶ったのかは不明だが、リタは駅ではなくスラム街で目を覚ます。どんよりした気候とポツポツ降ってくる雨の中、リタはとりあえず屋根の上に向かう。
(……あのネオンは)
そんな中、リタは気が付く。高校のときに、バイトして買った〝サイバーパンク・サムライ〟というゲームの仰々しいネオン看板が、目の前で光っていることに。
(まさか、本当に〝サイバーパンク・サムライ〟の世界へ? 走馬灯にしちゃ、昔の記憶が流れないとは思ったけど)
まだ頭がクラクラする。何度も頭を抑え、リタは目が痛くなるほどの光から目をそらす。
「リタ。なにしてるの?」
リタが光から目をそらしていると、少女の声が聞こえた。リタは横を振り返り、黒髪をポニーテールにしているメガネの少女と目を合わす。
「なんでもないさ」
適当に話を合わせておく。どうも仲間のようだが、名前も知らないのだから合わせることしかできない。
「もう、しっかりしてよ。これから〝新世界同盟〟の、第7区画施設を襲うんだから」
「あぁ、そうだったね。しっかりしなきゃだめだ」
やはり話をあわせるが、リタはこの世界の仕組みを知っているため、彼女の言葉が如何に無謀かも分かっていた。
(新世界同盟は、この世界の2大勢力のひとつ……。おれとこの子が突撃したって、蜂の巣になるのがオチ。さて……)




