001 死にゲー転生
『サイバーパンク・サムライ』という洋ゲーがある。
サイバーパンク化された勘違い日本を舞台に、〝サムライ・スピリット〟という魔力的な力を持った連中が、陰鬱なストーリーを進めていくゲームだ。死にゲーとしても評判が高く、最初にプレイしたときは理不尽に死にまくった。ただ、後半になるにつれて主人公〝コウタ〟は雪だるま式に強化されていく。そして、ストーリーをクリアして平和な日本を取り戻すという、暗いストーリーに似合わないハッピーエンドで終わる。
私が愛した、たったひとつのゲームの話だ。
*
サトウ・リタの人生は、生まれた瞬間から詰んでいた。
小学校では給食のパンを毎日踏みにじられ、中学では制服を川に捨てられた。イジメが原因で不登校になり、通信制の高校へ。歯を食いしばって卒業し、通信制の大学もなんとか出た。22歳で社会に出たとき、リタは確信していた。ここからだ、と。
甘かった。
入社した会社は、朝5時起きの深夜2時就寝が当たり前のブラック企業だった。3時間睡眠を5年間続け、仕送りを求める毒親からの電話に怯えながら、それでも歯を食いしばって生きてきた。逃げ場など、どこにもなかった。
そして27歳の朝、駅の階段で足を滑らせた。
頭が地面に向かって落ちていく、その刹那。時間が止まったような感覚の中で、声が聞こえた。
『資本主義の奴隷に成り果てた、哀れなヒトの子よ。このまま奴隷のごとく働かされ、自分の人生が全くもって無意味だと知る定め。それならば、いっそのこと変化を求めてみませんか?』
走馬灯にしては、妙だった。幼い頃の記憶でも走るべきところに、知らない声が響いている。
『変化を恐れることなかれ。貴方がもっともプレイしていたゲーム〝サイバーパンク・サムライ〟の世界へ行き、そこで幸せを掴み取るのです。たまたま貴方の悲しき人生を覗いてしまったから……それだけですよ。サトウ・リタ』
ベキッ。
頭蓋骨が砕ける音を、リタは他人事のように聞いた。
*
目を覚ますと、雨だった。
どんよりした空から、ポツポツと雫が落ちてくる。全身が鉛のように重く、立ち上がるだけで頭がぐらつく。それでもリタは、とりあえず屋根のある場所へと這い上がった。
そこで、見てしまった。
雨に濡れたネオン看板が、目の前でギラギラと輝いている。見間違えるはずがない。なにせリタが高校時代、バイト代をはたいて買った——あの『サイバーパンク・サムライ』の、仰々しいロゴだったのだから。
(まさか、本当に……)
「リタ。なにぼーっとしてるの?」
少女の声に、リタは弾かれたように振り返る。黒髪をポニーテールにまとめた、メガネの少女がこちらを見ていた。
「なんでもない」
とりあえず話を合わせておく。どうやら仲間らしいが、名前も知らない。知らないなら、合わせるしかない。
「もう、しっかりしてよ。これから〝新世界同盟〟の第7区画施設を襲うんだから」
リタは内心、盛大に舌打ちした。
(新世界同盟は、この世界の2大勢力のひとつ……。おれとこの子が突撃したって、蜂の巣になるのがオチ。さて……)




