010 〝本来の主人公〟コウタ
「そもそも、この病院は新世界同盟のシマだよね……」リタはそうボヤく。
「そうだね。いつヒットマンが来るか、分かったもんじゃない」
身体の至るところに激痛が走っているのに、退院なんて不可能だ。リタは原作知識から知っている。この病院は、新世界同盟の息がかかっていることを。
「で、でも。私もサムライ・スピリット持ってるし、多少の雑魚なら──」
バコンッ、とドアが蹴り破られる音。途端にユウは身構える。
「おーおー。オメェがミジマ・マサトシを殺った女か。ギャルみたいな可愛い子だけど、人間見た目がすべてじゃないわな」
赤い髪・ややツリ目・鋭い目つき・高身長・整った顔立ち・銀のスーツ。
そんな青年に、ユウは戦闘態勢に入ろうとするが、
「ユウ、落ち着いて。多分敵ではない」
リタは、ユウを静止した。怪訝な面持ちになるユウだが、リタにもしっかり理由がある。それも、この世界の原作知識を持っていなければ知り得ない理由が。
(この男は〝コウタ〟だ……。サイバーパンク・サムライの〝主人公〟で、今はまだ野心あふれる若者のひとり。でも、物語が進むにつれて雪だるま式に強くなっていく)
そう、この赤い髪の青年は、サイバーパンク・サムライというゲームの主人公である。ここが本当にゲームの世界ならば、彼の傘に入ればある程度安全は確保できる。
だからリタは、安全なほうへ懸けることにした。
「……アンタのことは知ってるぞ。名前はコウタで、つい最近創麗グループから逃げおおせたんだろ?」
「ありゃ。そこまで知ってるのか。随分情報通なもんで」
「情報は世界を制すからね」リタは適当に躱す。「で? なんで私たちに接触を図る? ここへ来たってことは、新世界同盟に鞍替えするつもりか?」
「ンなわけねェだろう。確かにこの世界は、創麗と新世界同盟が牛耳っている。良くゲームで〝世界を半分くれてやろう〟……みたいなセリフがあるだろ? あのふたつの陣営はまさに、それを実行してしまった。今や世界は創麗と新世界同盟こそが法であり、正義。全くもって、くっだらねェよな」
リタはユウと目を合わせ、彼に敵意がないことを認識し合う。
「なら、アンタの描く世界はなんだ?」
「簡単なことを聞くなよ。そのどちらもぶっ潰して、このふざけた時代を終わらせる。権力の卑怯者たちを、ギロチンにかけるのさ」
まさにコウタらしい言い草だ。日本を中心に始まったサイバーパンクの時代を終わらせ、世界へ平和をもたらす。それが、コウタの役割であり宿命なのだ。
「そこで、だ。独立組織の七王会にケンカを売り、新世界同盟の取引を台無しにした挙げ句、ミジマ・マサトシという化物をぶち殺したオマエを勧誘しに来た。おれはイカれてるヤツらが大好きだし、同時にオマエらほどイカれてるヤツらは聞いたこともない。たった1日で、あれだけ暴れたんだぞ? オメェら」
「へェ……」
渡りに舟、とはこういうことを指すのかもしれない。リタは悩む振りをしつつも、すでに答えは決まっている。生き残り、成功を掴むには、主人公と協力するほうが良いに決まっているからだ。
「分かった。協力しよう。ユウ、良いよな?」
「う、うん」
どのみち、味方は多いに越したことはない。それ故、ユウの返事も想定内だ。
「よっしゃ。話が早くて助かるよ」コウタは拍手する。「そうだ。仲間になった記念に、ひとつ教えてやる。新世界同盟のヒットマンが、この病院に侵入してきてるぞ。おれが迎撃してやっても良いが、そうだな。近くに〝SHA〟があるだろ? それぶっ刺して、実力を見せてくれ」
〝シア・ハート・アタック〟──略して『SHA』。1時間だけ傷口が塞がるも、その後10時間反動が来る軍人用の興奮剤は、確かに病室に設置されている。




