第177話 私たちの、光。
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◇ 王妃・エデリーン ◇
◆――AM 00:04
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「うぅ……ああああああっ!!!」
もう何度目になるかわからない叫びをあげながら、私は必死にいきんでいた。
破水してから、どれくらい経ったのだろう。
夜が明け、太陽が昇り、そしてまた太陽が沈んでからも、まだ赤ん坊は生まれていなかった。
隣の部屋ではホートリー大神官や神官たちが必死に私のために祈りを捧げてくれている。
それでも長く続く苦痛に、私の体力は限界を迎えていた。
それに――途中から、ユーリ様がいなくなってしまったのよ。
「あああああっ!!!」
「いきんでください! そう! その調子です! 少しずつ、見えてきましたよ!」
「うううううっ!!!」
生まれてから一度も感じたことのない壮絶な痛みに、体が張り裂けそう。
あまりの痛みに、自分がもう、正気を失っているんじゃないかとさえ感じる。
「エデリーン、頑張ってください! もう少しですよ!」
ユーリ様の代わりに手を握ってくれているのは、サクラ太后陛下だ。太后陛下が一生懸命腕や肩をさすってくれる。
さすられた部分がほんのりあたたかく、もしかしたら太后陛下は何か聖女の力を使ってくれているのかもしれないけれど、圧倒的な痛みの前には残念ながら焼け石に水だった。
「うううーーーうううー――!!!」
「もう少し! あと少しですよ!」
もう少し。なのに、こんな時に……ユーリ様はどこに行ってしまったの……!?
私がそう思った時だった。
「エデリーン!!!」
バン! と乱暴に扉が開く音がして、部屋の中にユーリ様が飛び込んできたの。
しかも脇には、アイを抱えている。
「ママ!」
アイ! ユーリ様!
けれど私に返事をしている余裕はなかった。
また猛烈な痛みが襲ってきて、とてもそれどころじゃなかったのよ。
「~~~~っ!!!」
歯をくいしばり、ありったけの力を込める。
――次の瞬間。
「っ……おぎゃあ!!! おぎゃああ!!!」
力強い泣き声が、部屋の中に響き渡った。
産婆が顔を綻ばせる。
「元気な、男の子ですよ!!!」
――男の子。
その言葉に、私はユーリ様を見た。
ユーリ様も、私を見ていた。その目に、みるみるうちに涙が盛り上がる。
「……やだ、ユーリ様ったら、やっぱり私より先に泣いているんですの?」
「そっ、それを言うなら君だって……!」
気づけば私の頬にも、涙が伝っていた。そんな私たちを見ながらサクラ太后陛下が笑う。
「ふふふ……ほら、エデリーン。あなたの……あなたたちの息子が、やってきましたよ」
サッと手巾で清められ、産婆に抱かれた赤ん坊が、私の元にやってくる。
ユーリ様とアイも、その後ろをついてきた。
生まれたてほやほやの赤ん坊は……どこもかしこも赤黒い。
「うわあ。あかちゃん、しわしわだねぇ」
アイがびっくりしたように目をぱちぱちさせている。
「そうね。赤ちゃんって言うけれど、本当にこんなに赤いのね」
なんて、私は妙に感心してしまったわ。
「これは……どっち似だ?」
ユーリ様が真剣に考え込んでいる。そばで聞いていたサクラ太后陛下が「ふふふっ」と笑った。
「ユーリったら気が早いのね。この状態じゃまだわかりませんよ。もう少し成長してからでないと」
「む……そうか」
「ねぇねぇママ! あかちゃん、おとこのこだよね! じゃあなまえって……!」
そこに、アイがキラキラした目で尋ねてくる。
私とユーリ様は顔を見合わせて、ニコッと笑った。
「そうね、この子は男の子だもの。アイ、なんという名前にするか、覚えてる?」
「もちろん!」
アイがうれしそうに飛び跳ねる。
それからすうぅっと大きく息を吸う。
「ギラン!」
――ギラン。私たちの、光。
「きょうからアイが、まもってあげるね!」
――アイ。私たちの、愛。
「にゃーん!!!」
「ちょっと誰ですか猫を入れたのは! すぐにつまみ出しなさい!」
「にゃああん!?」
後ろで起きている騒動に、私とユーリ様と、それからアイは顔を見合わせてくすくすと笑った。
「くぁぅ……」
みんなの笑い声に応えるように、ギランがもぞもぞと動く。
私は微笑んだ。
きっとこの子も何かを感じ取っているのね。
「よろしくね、ギラン」
私はそっと、小さなおでこにキスをした。
こうして我が家に、またひとり、新たなメンバーが加わったのだった。
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というわけで、ショコラじゃないですが苦節4巻分、ようやく弟が生まれました~~~!!!続きは鋭意製作中ですのでもうしばらくお待ちください!4巻ほどはお待たせしない……はず!






