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【4巻3/10発売】聖女が来るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?  作者: 宮之みやこ
第三部

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第175話 PM21: 38②

 そこまで言って、陰気な男は扉の外に向かって言った。


「リュシアン! 一度部屋の中に」


 すぐに命令に従った赤髪が部屋の中に戻ってくる。


「それから服を脱いで背中を見せろ」

「はい」

「えっ」


 ちょ、ちょっと! 一体何をやろうとしているのよ! ここには未成年のおちびもいるんだけど!?


 あたいが動揺する前で、赤髪がするすると上着を脱いでいく。あたいはあわてて立ち上がると、肉球でおちびの目をふさいだ。


「うわーっ! いくら少年だからって裸はまず――……ん?」


 そう言ったあたいが見たのは、上着を全部脱ぎ去った赤毛の体――正確には胸に、ぐるぐるに包帯が巻かれていた姿だった。


 最初は大けがでもしてるのかと思ったけど、その時赤毛の胸元を見て、あたいは「あっ」と声を上げた。


「胸があるじゃない!!! あんた、女だったの!?」


 そう。

 赤毛の従者には、包帯で押しつぶされてはいたものの、しっかりと胸があったのよ!


 よく見れば体つきも、筋肉はついているもののどこもかしこもやわらかそう。腰だって、丸みを描いてくびれていた。


「そうだ。リュシアンの本当の名前はリュシアンヌ。女だ」

「はぇぇ~……そういう……!?」

「おにいちゃんじゃなくて、おねえちゃんだったんだぁ!」


 隣ではおちびも目をまんまるにしている。

 その後包帯を巻いたままの赤毛ちゃんは、くるりとあたいたちに背中を向けた。かと思うと、さらさらと包帯を取っていく。


「ちょちょちょちょーっ! お、女だっていうのはもうわかったわよ! 女同士でもまずいことってあると思うのよぉ!」


 あたいがあわててもう一度おちびの目をふさぐ前で、すべての包帯がはらりと地に落ちた。


「だからさっさと服を着なさ――え?」


 それから、赤毛ちゃんの白い背中に現れたものを見てあたいは目を丸くする。


 そこには、何やら禍々しい気配を放つ魔法陣が刻まれていたの。


「何それ。なんかとってもヤな感じがするわよ!」

「だろうな。これは奴隷に刻まれる奴隷紋だから」

「奴隷紋!?」


 その単語にあたいは眉をしかめた。


「やだ! この国、奴隷制度の存在する国だったの!?」

「いいや、闇魔法同様、奴隷は禁止されている」

「禁止されてるって……じゃあ目の前のこの子はなんなのよ!」


 あたいが問い詰めると、途端に陰気な男は苦しそうな顔になった。赤毛ちゃんに再度包帯と服を着るよう促しながら、苦しそうに言葉を紡ぐ。


「……私も、最初は知らなかったんだ。ヴァルター侯爵に言われるままリュシアンを従者としてつけて……」

「ははぁんなるほど。ヴァルター侯爵に騙されたってわけね? でもいつ気づいたのか知らないけど、知ったんなら大神官にでも放り出せばよかったじゃない」


 あたいは容赦なく詰めた。だってどう考えてもそれが一番早いでしょ。

 けれど陰気な男はまだ苦しそう顔をしていた。


「それは……何度も考えたが踏み出せなかった。大神官に彼女を渡せば確かに彼女は解放される。……だが同時に、私とはもう二度と会えなくなるだろう。……それが怖かったんだ。一緒に過ごしていくうちに、気づけば彼女を愛してしまっていたから……」


 オッ。


 あたいは背筋を伸ばした。


 なんか急に、話の流れが変わったわね?

 どうぞ、続けて?


 あたいはパチパチとまばたきをしながら、話の続きを待つ。


 別に恋バナが好きってわけじゃないんだけど、なんとなくこういうのって、茶化したり適当に聞き流したりしたら、失礼じゃない? そういう理由よ。ウンウン。別に恋バナが好きなわけじゃ、ないのよ?


「ちなみに、その子が女だって、最初から気づいてたワケ?」


「いや、まったく気づいていなかった。だから最初、私は男が好きなのかと思っていた。その上で結ばれない恋として、この気持ちを秘めておこうとしたんだ」

「ふんふん、それでそれで?」

「だが……その気持ちをヴァルター侯爵に見破られた」


 うーわー!

 普通そこで出てくる!? ヴァルター侯爵!

 そういうのはもっとこう、ドッキリウッカリハプニングが起こって「き、君は女だったのか!」ってなった後に出てくるやつじゃないの!?


 ……あ、別にそういう戯曲を読んでいるわけじゃないわよ? ただ一例として、ね。


「てっきり王子として叱咤されるかと思いきや……侯爵は私の気持ちを利用して、脅迫してきたんだ。『言うことを聞かなければ、リュシアンヌをひどい目に遭わせる』と……」

「出~た~!」

「リュシアンヌに奴隷紋を刻んだのはヴァルター侯爵。その威力はすさまじく、ヴァルター侯爵が死ねと命じれば、リュシアンヌの心臓はその場で止まってしまうんだ」

「えぇ怖……」


 人間の奴隷紋、そんなに怖いの? 元・魔王様ですら、そんなことしなかったのに。


 あたいが人間の残虐さに引いていると、服を着直した赤毛ちゃんが悔しそうな顔をしていた。


「申し訳ありません、ラウル様。私のせいで、あなたを苦しませるはめに……!」

「君のせいではない。これは私が決めたことだ」


 フーン。このふたり、主従揃って表情筋死んでるコンビだと思ってたんだけど、意外とそういう顔もできるのねぇ。

 っていうか、一瞬リリアンみたいなハニートラップを仕掛けられたのかとも思ってたけど、この様子からしてどうやらふたりとも本気っぽい?


「その奴隷紋って、解除できたりしないの」

「魔道具を頼ったり、魔女を頼ったり……もう何年もその方法を探し続けてきたが、ダメだった。唯一、ホートリー大神官ならば解除できるのではないかと思っているのだが……ヴァルター侯爵の監視は厳しく、大神官とは接触もままならない」


 んまぁあの奴隷紋の禍々しさからして、口に出しただけでどんな距離にいても効果出そうだものね。うっかり大神官に近づいて赤毛が殺されでもしたら、たまったもんじゃないわよね。


「奴隷紋の主、つまりあのヴァルなんとか侯爵を殺してもダメなの?」

「それは……。恐らく主人であるヴァルター侯爵が死ねば、紋は消えるだろうが……」


 言って、陰気な男が頭を押さえる。


 ……なるほど。つまり、人は殺せない、ってわけね。


「ま、あんたそんな陰気な顔してるけど、王子様だもんね。人、殺すわけにもいかないか」


 昔のあたいだったら、サクッとやっちゃうんだけどね。今はあんまりやりすぎるとおちびに嫌われそうだから、やめとく。


「それで……今回のおちびの誘拐事件も、その子の命を盾に脅されてやったってこと?」


 あたいが聞くと、陰気な男は眉間にぎゅっとしわを寄せて苦しそうな顔をした。


「……最後まで反対していたんだ。侯爵の目論見は聖女を誘拐し、隠してしまうことで国王ユーリの責任問題に発展させ、もう一度王位継承問題を起こすこと。そして私が王位に就いた暁には隠していた聖女をさも自分が助けたとばかりに外に出し、私と結婚させようと……。だが、どう考えても、何ひとつうまくいくとは思えない無謀な策だ」


 確かにそうね。

 そもそもおちびにはあたいやリリアンやローズ様みたいな、チート級の味方が付いてるのよ。ヴァルター侯爵も闇魔法や奴隷紋やらが使える味方持ちみたいだけど、それくらいであたいたちに敵うと思ったら大間違いなのよね。

 現に今だって、速攻でおちび、見つけちゃったし。


「だからバカバカしいと一蹴していたというのに、まさか実行に移すとは……!」

「はは~ん。さては、王妃が妊娠したからね!?」

「そうだ。もし王妃が男児を産めば、私の王位継承権はさらに遠のく。それで焦ったのだろう。……バカなことを」


 なるほど、なるほど。


 ようやくあたいは、この事件の全貌が掴めてきたわよ。


 つまり政争に負けたヴァルター侯爵がとち狂って、ガッバガバの策でおちびをかどわかしたってことね!


「よし、それならやっぱあの悪~い男、あたいがギッタギタにしてくるわね」


 あたいの言葉に、陰気な男はぎょっとしたようだった。


「そ、それはよくない。お前は聖獣ではなかったのか!?」

「聖獣だけど、関係ないでしょ! これは正当防衛! 正義の鉄槌! 神の裁きですぅー!」

「い、いやよくないと思う。まさか聖女に、そんな凄惨な現場を見せる気か!?」

「…………見てないとこでやるわよ」

「そういう問題じゃないだろう!」

「えー」


 あたいはぶーたれた。


 だって、どう考えてもそれが一番早いじゃない。太っちょが死ねばおちびを狙う不届き者がいなくなり、かつあの赤毛を縛ってる奴隷紋も消える。


「……やっぱり、った方がよくない?」

「だ、だめだっ」


 ムッ……意外と頑固ね。


「じゃあどうする気なのよ」

「先ほども言ったが、聖女と一緒にリュシアンヌをホートリー大神官の元に連れて行ってほしいんだ。その間に、私はヴァルター侯爵の元で時間稼ぎをする」

「時間稼ぎって……そんなことできるの? あの男、赤毛の子がいなくなったって気づいた瞬間に殺しにかかりそうだけど」

「その時は私の命を人質にする」


 静かに、けれどきっぱりと陰気な男が言った。あたいはぎょっとする。


「えっ!? あんたの命!?」

「ああ。ヴァルター侯爵が強大な力を握るためには、私が王位に就かなくては何も始まらない。つまり彼にも、私の存在は必要なんだ」

「それは……そうかもしれないけど……でもそんなことをして、あんた無事でいられるの?」


 あたいが聞くと、陰気な男はふっと笑った。


「思えば今まで――私は反抗らしい反抗もしてこなかった。だがどの道、こうなった以上は私も罪を免れないんだ。それなら最後に、自分の命を盾に抗ってみたい。それでリュシアンヌの生き残る可能性が少しでも高くなるなら、賭けてみたいんだ」

「っ……! おやめください、殿下」


 聞いていられなくなったのだろう。張本人である赤毛が、苦しそうな顔で身を投げ出す。


「私の命は、殿下のため。殿下のいない世界で生き残っても、何も嬉しくはありません! どうぞ、その時は私も一緒に連れて行ってください!」

「リュシアンヌ……」


 あたいはそんなふたりを、じっと見つめていた。


 ……やっぱり、ふたりとも助けるためには、あたいがあの男をぷちっと潰すのが一番てっとり早いんだけど……。

 ムムム







***


ショコラ、がんばってます。次が4巻ラスト分です!

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聖女が来るから君を愛することはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖女が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?
― 新着の感想 ―
ショコラちゃん、虫じゃないんだから、 『ぷちっと』って(笑) ただ、ものすごく同意しますっ! もうさぁ、ぷちっといっちゃおう〜!(笑)
なんか、そこに聖女様がいるのが侯爵の失策な気がするけど…
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