第172話 PM20:42
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◇ 聖獣・ショコラ ◇
◆――PM20:42
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「ハァッ……! ハァっ……!」
あたいは息を切らせて、必死に走っていた。
お、王宮からずいぶん離れたけど、おちびったらどこまで行ったのよぉ!
いえ違うわね。
どこまで連れ去られてんのよぉ……!
「ハァッ……ハァッ……!」
息が苦しい。肺が、酸素を求めてあえいでいる。
だ、だめだ、息が続かないわ。
あたいは一度足を止めると、ハァッ! ハァッ! と荒い呼吸を繰り返した。
くぅう……。
それから悔しさに、ぎり、と地面に爪を食いこませる。
あたいは猫だから、瞬発力と速さにはとっても自信がある。
静止状態からいきなりとんでもない速さを出せるから、あたいに飛び掛かられて逃げられる獲物はほとんどいないと思うわ。
でもね……馬とか犬みたいに、長距離ずっと走るのはとっても苦手なのよぉ……!
こんなことなら、飛び出す前にリリアンにひとこと言っておけばよかったわぁ……。
ゼェゼェ、ハァハァと舌を出しながらあたいは喘いだ。
おちびを追いかけて、もうどれくらい経ったんだろう?
王宮の廊下でおちびの匂いに、さっき嗅いだ闇魔法の匂いが混じったから、おちびは確実に闇魔法にやられているはずよ。
あ、やられているといっても怪我はないわよ。血の匂いはしなかったから。
でもね、じゃあそれで安心かというと、そういうわけでもないのよね……。
ぜぇぜぇと息を繰り返してから、あたいは歯を食いしばってふたたび走り始めた。
だって、よりによって王妃の出産中によ!?
この国で禁忌とされてる闇魔法を使ってまでおちびを攫うような人間よ!?
どう考えてもまともじゃないわ!
さらにさらに、あたいと離れた一瞬の時間を狙うなんて……いい度胸しているじゃないの。
会ったらあたいがズッタズタにしてやるから、首洗って待ってなさいよ!
言っておくけどただのおどしじゃないわよ。あたい、こう見えて元魔物なの。
おちびと出会ってから以前ほど残忍な衝動は沸いてはこなくなったけど、じゃあ全部綺麗に消えたのかって言われると――案外そうでもないのよねぇ。
……え? 聖獣がそんなことしていいのかって?
いいでしょ!
あたいが許す!
だってこれ、正当防衛だもの! 危害を加えてきたのは向こう!
なら、神に代わっておしおきってやつですぅ! 神様って、時に魔物よりよっぽど容赦なかったりするしねぇ!
見つけたらとりあえずあたいの猫パンチ(強)をお見舞いしてやるのよ。それから首をくわえてぶんぶん振り回してやるの。
敵の処分方法を考えていたらいくぶんか気持ちがすっきりして、呼吸も安定してきた。
それに、少しずつだけどおちびの匂いが強くなってきている。つまり、着実におちびに近づいてきているってことなのよ!
待ってなさいよおちび。本当にお願いだから無事でいてよね。
あんたにかすり傷ひとつでもあったら……出会った瞬間、あんたを攫ったやつ、その場で噛み殺しちゃうかもしれないから!
あたいはもう一度大きく深呼吸すると、ドウッ! と地面を蹴った。
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◇ 聖女・アイ ◇
◆――PM21: 02
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「~~~……から……だろう!」
「……ですが~~~……~~ですぞ!」
「そうは……~~~としても……が……~~~だろう!」
う……ん……?
だれかが、とおくでけんかしている。
どっちも、おとなの、おとこのひとのこえ……。
だれ……?
きになるけど……ねむくてねむくて、たまらないよ……。
ねむ……い……。
「……聖女様」
う……ん……?
あとすこしでねそうだったときに、だれかにはなしかけられた。
ちいさくて、しずかなこえ……。ちょっと、ママににてる……?
「どうぞ、これを飲んでください」
だれ……?
ゆっくりめをあけると、めのまえに……あかいかみのおにいちゃん? がいた。
おにいちゃんはもっていたびんを、わたしのくちにあてた。
「見つかる前に、急いで」
みつかる? みつかるって、だれに……?
そうききたいのにこえがでなくて。
かわりに、くちのなかにみずがはいってくる。
それはとろとろして、ほんのりあまくて、のむとからだがあったかくなって……。
アイ、このあじ、けっこうすきかも……。
ごくん、とぜんぶのむと、おにいさんはほっとしたようにいきをついた。
「しばらくお休みください。起きる頃には、闇魔法も抜けているでしょう」
やみまほう?
なあに、それ……?
ききたかったのに、まぶたがまたおもくなってくる。
ゆっくりとベッドにねかされて、わたしはめをつぶった。






