第165話 あ~……あのさぁ? あたい ◆――ショコラ
目の前でお皿に乗っているのは、長方形の黒い物体だ。でもその黒い物体の中に、なんとカットされた苺が埋まっていた。
「まぁ! 水羊羹ね。とても綺麗!」
王妃の声に、あたいはぽむっと手を打った。
思い出したわ! これ、王妃がつわりで動けなかった時に食べた水羊羹じゃない!
そして確かに王妃の言う通り、その水羊羹はとっても綺麗だった。
よく見ると羊羹の上側だけが普通のゼリーみたいに透き通っていて、そこにカットされた苺がぎゅっと詰まっているのよ。まるで苺の形をした宝石を閉じ込めたみたいで、なんだかあたいも乙女心をくすぐられる気がするわ。……ま、そんなものないんだけど。
「こっちもあるぜ! 王妃サマが気に入ってたからな、色んなバリエーションを作ってたんだ」
言いながら料理人がさらに追加の水羊羹も出してくる。
「わぁっ! いろんないろ!」
おちびの言う通り、そこには色んな色の水羊羹があった。柑橘類の果汁を固めたみたいなオレンジの水羊羹に、いちごムースっぽい鮮やかなピンク色の水羊羹。透き通った茶色の水羊羹は何でできているのかしら? いろんなのがあるのねぇ。
「みずようかんぱーてぃーみたいだねぇ!」
キャッキャとはしゃぐおちびの声を聞きながら、あたいもひとかけらずつもらって片っ端から食べてやったわ。
そして透き通った茶色の水羊羹なんだけど――……なんとお茶の水羊羹だったのよ! それも、紅茶とかじゃなくって、ゲンマイチャ? っていう、小豆を取り寄せた極東の国のお米のお茶!
だから水羊羹、甘いのに、ふわぁ~っと香ばしいお米の味がしてびっくりしちゃったわ。それでいて意外と風味が喧嘩しないんだからすごいわよね。
思いのほかおいしかったもんだからちょっと癖になっちゃって、あたいは料理人が見ていない間にもうひと切れ食べちゃったわ。
◆
「っふぅー! おなかいっぱいだねぇ!」
誕生日パーティーが終わったその夜、おちびがぼすん! とベッドに背中から倒れ込んだ。
お風呂上りでほかほかしたおちびはどことなく湿っててあたい的にはちょっとヤなんだけど、その満ち足りた顔を見たら何も言えなくなったわよね。
ま、おちびが楽しそーで何よりよ。
あたいも久々にローズ様に会えたし、おいしいものはいっぱいたべたし?
のそのそとベッドの上を歩いて、あたいはおちびの前まで行った。
それから……おちびの前に、ころりと飴を落とす。
「?」
気づいたおちびが飴を取り上げ、不思議そうに眺めている。
「あ~……あのさぁ? あたい、聖獣って言っても猫じゃない? だから、あんたの誕生日、そんなものぐらいしか用意できなくって……」
あたいはちょっと気まずくて、目を逸らした。
みんな魔法のステッキとかティアラとかなんかすごいものとか楽しそうなおもちゃとかそういうのをあげてたけど、残念ながらあたいには用意できない。
いや厳密にはどこかから盗んでこればできるんだけど、さすがに誕生日プレゼントに盗品ってなしじゃない? いくらあたいでもそれくらいはわかるわよ。
でもだからって死んだ鳥とか鼠とか虫とか持ってこられても困るだろうし、花もおちびはいつでも取り放題だし……悩んだ末にあたいだけが用意できるものって、飴ちゃんぐらいしかなかったのよね。
「ちょっと……いやだいぶ見劣りするのはわかってるんだけどぉ……ら、来年! 来年になったらもしかしたらあたいにもまた新しい才能発生するかもしれないし! それまでちょ~っと待っててくれると嬉しいっていうかぁ……」
あたいがもじもじしていると、雨ちゃんを持ったおちびがにこっと笑った。
それから思いきりあたいに抱き着いてくる。
「ありがとうしょこら!」
「ぐえ!」
ちょっとちょっと! 危うく押しつぶされるところだったじゃない!
「今のあたいはかよわい猫ちゃんなんだから、ちゃんと力加減しなさいよね!」
あたいが抗議すると、おちびがふふふと笑う。かと思うとぱくっと飴ちゃんを口の中に放り込んだ。
「しょこらのあめちゃん、おいしいねぇ。アイ、このあめちゃん、だーいすきだよ」
ぷくっとほっぺを飴の形に膨らませながら、おちびがニコニコしている。
「それにアイ、しょこらもだーいすきだよ。やわらかくって、いいにおいがして、あったかくって……アイ、ほんとはぷれぜんと、なにもなくてもいいんだぁ」
「そうなの?」
子供にしてはずいぶんと無欲じゃない。
あたいが尋ねると、おちびはこくんとうなずいた。
「うん。アイはね、しょこらがずっといっしょにいてくれるだけでいいの」
言って、小さな手があたいをぎゅうっと抱きしめる。今度は潰さないように、やさしく。
「おちび……」
「だからしょこら、ずっとアイといっしょにいてくれる? おとなになっても、おばあちゃんになっても、いてくれる?」
おちびの高い体温があたいを包み込む。
あたいはニッと笑った。
「……それなら任せなさいよ!」
そう、あたいは普通の猫じゃないのだ。
なんてったってあたいは魔物――じゃなかった、聖獣なんだからね!
どこもかしこも最強で素敵なあたいだけど、長生きだって得意なのよ!
だからおちびが大人になっても、おばあちゃんになっても、ずっとずーっとそばにいてあげられる。
「あんたがおばあちゃんになっても、あたいだけは絶対そばにいてあげるわ」
言って、あたいはざりざりとおちびのぷにぷにほっぺを舐めた。
「きゃあっ! くすぐったいよ、しょこらぁ!」
おちびが笑いながら逃げようとする。
そんなおちびを両手で捕まえて、あたいはぺろぺろと舐めまわした。
「……あ! それよりあんた、いいの!? さっき、歯磨きしてもらったんじゃなかった!?」
「あ」
その事実に気づいて、おちびの動きがぴたりと止まる。
歯磨きした後は、本当は水以外飲んじゃだめなのだ。
「……んもうしょうがないわねぇ。ふたりでいっしょに、あんたのママに怒られてあげるわよ」
あたいがツンと取り澄まして言うと、おちびはまたくすくす笑った。
「うん!」
はぁ~まったく、ほんとに手のかかる聖女さまですこと。
あたいはやれやれとため息をつきつつ、おちびをちらりと見上げた。
おちびはふふっと笑って、その隙に飴がこぼれ落ちそうになったのか、あわてて手で口を押えていた。
飼い主からすると、寿命が長いというのは何よりのプレゼントですよねぇ……。
うちの猫にも隙あらば「頑張って猫又になれよ……」と囁いています。






