第164話 苦節四巻分、ようやくだわ! ◆――ショコラ
あたいは近づくと、おちびの横からぐいと頭をつっこんだ。
そこにあったのは――。
ほおん? あたいこれ知ってるわよ。
ティアラって呼ばれるやつでしょう?
「おひめさまのてぃあらだ!!!」
ティアラはちょうど、おちびの両手に乗るぐらいの小ぶりなものだった。
おちびが興奮したように高々とかかげると、太陽の光を受けてティアラの宝石が一斉にきらりきらりと輝く。
その輝きは小さくとも七色で――うん、あたいが見てもわかる なんかとてつもなく高い石使ってるでしょこれ。そんでもってティアラの尖がってるところに真珠がついてるけど、これも絶対高いやつ! だってなんかやたら輝いてるもん!
……まぁおちびのママとパパって、腐ってもこの国の王と王妃だものね。
「ママ! つけてつけて!」
「もちろんよ」
おちびがティアラを両手に持ったまま、ぴょんこぴょんこと跳ねる。
ああちょっと! そんなに飛び跳ねたらティアラが落っこちちゃうわよ!? おちび、あんたは気づいていないかもしれないけど、そのティアラ、多分そこにいる使用人たちの年棒以上すると思うわよ!?
見ているあたいがハラハラしちゃう!
ヒヤヒヤしながら見守るあたいの前で、王妃が三侍女たちの手伝いも借りながらおちびの頭に小さなティアラをつけていた。
「可愛い。よく似合っているよ、アイ」
「まぁ可愛らしい。アイちゃんは本当になんでもよく似合うわね」
「黒髪に、ダイヤモンドも真珠もよく映えておいでですぅ!」
みんなが口々におちびをほめそやす前で、王妃は鼻を覆って天を仰いでいた。
……あ、これ、鼻血が出ないようこらえているやつね?
よく見たら国王も、おちびを褒めながらちゃっかりハンカチを王妃に差し出しているわね?
その後もみんなが、おちびに誕生祝を言っていた。
双子騎士からは謎のびっくりパーティーグッズに(こいつら、チョイスしてくるものがどことなくあの料理人と一緒だわね……)、三侍女からは色とりどりの綺麗なリボン(あとであたいも遊ばせてもらおーっと)、国王の弟であるダントリーって優男からは、なんか瓶詰めされた綺麗な石をいっぱいもらっていた。
「だんとりーおじさま、これなぁに?」
「これはね、絵の具だよ」
国王よりだいぶ優しい姿をした優男が言う。
「まぁ! ラピスラズリ! これを砕いて絵の具に使うと、とてもこっくりした綺麗な色が出せるのよ」
絵の具と聞いて王妃がうきうきと答えている。
「へぇー!」
「今度、一緒に絵の具で絵を描いてみましょうね」
「うんっ!」
当然だけど、プレゼントの全部はおちびが抱えきれなかったから、最後にはこんもりと贈り物の山ができていたわ。
「こんなにいっぱい!」
まるで宝の山を見るような目で、おちびが「うわぁ~!」と歓喜の声をあげている。
「あとで全部、アイのお部屋にしまいましょうね。入りきらないものは、宝物庫に入れるべきかしら」
ええっ!? おちびの誕生日プレゼント、まさかの宝物庫行きなの!?
王妃がとんでもないことを言い出して、あたいはぎょっとした。
「お~~~い! みんな、お待ちかねの誕生日ケーキだぞ~!」
そこへ料理人の呑気な声がする。
ガラガラと大きなワゴンに乗って運ばれてきたのは……これまたおちびの身長ぐらいあるんじゃない!? ってぐらい、大きなケーキだった。
ちょっと待って、これ、何段あるのよ!?
「ねぇママ! これ、アイよりおおきいよ!?」
なんて言いながら、おちびがケーキと背比べをしている。
「ふっふっふーん。これぞハロルド様お手製誕生日ケーキだ。見てみな姫さん!」
言いながら、料理人がひょいとおちびを抱き上げている。
……一介の料理人が王女兼聖女であるおちびにそんなに馴れ馴れしく触れるなんて、他国じゃありえないわよ……と思いながら、料理人を呆れた顔で見ていたら、あたいの横にもっとすごい顔をした人がいた。
国王だ。
戦場で敵を睨んでいるの? ってぐらい険しい顔で、国王が料理人を睨んでいる。握りしめた手はぶるぶると震えて、口からギギギというすごい音がしていた。多分、歯ぎしりね。
「ハロルド……!!! それは、私がアイに見せようと思っていたのに……!!!」
「うおっと! す、すまんすまん!」
やべっ! という顔をした料理人が急いでおちびをおろそうとしたけど、その前におちびが声を上げた。
「みて! いちばんてっぺんに、ママとパパとアイがいるよ!」
言いながら何かを指さしている。
え~なになに? あたいのいる位置からじゃ見えないんですけど!
「そうだ。これはパパたちがお願いしてハロルドに作ってもらったものなんだよ」
料理人からひょいとおちびを受け取ってご機嫌になった国王が、さっきとは打って変わって優しい顔でおちびに説明している。
でもやっぱりあたいには見えないのよね~! よし、こうなったら……。
あたいはダッと料理人に向かって走ると、その服に爪を立ててよいしょよいしょとよじのぼりはじめた。
「いてててて! ちょっ、この猫、ちゃんと爪切りしてる!? すげえ痛いんだけど!」
ちょっとそれを王妃がいるところで言わないで! ある程度爪が尖ってないと、何かと不便なんだから!
ぷんぷんしながらあたいは料理人の肩まで登った。
この男、背だけは高いから梯子としてちょうどいいのよね~。
さて、おちびが見ていたのはどれどれ?
料理人の肩越しにケーキを見下ろすと、ケーキのいちばんてっぺんに、確かにおちびたちがいた。
あれは……人形よね?
一番背の高い黒髪の人形は国王だし、金髪のお姫様みたいなのは王妃。そして真ん中にいる、ちんまりした黒髪の女の子はどう見てもおちびだわ。
へぇ~! よくできているのね! これ、ケーキに乗っているってことはもしかして食べられるの?
そんなあたいの疑問に答えるように料理人が言った。
「この人形は砂糖でできているから、ちゃんと全部食べられるんだぞ。……まぁ、だいぶ甘いけど」
へぇ、へぇ、へぇ!
じゃあ人形の髪も、目も、服も、細かい部分もぜーんぶ砂糖でできてるってこと!?人間って器用なのねぇ。
それに……食べられるんだ。いいこと聞いたわ。あとで隙を見てくすねちゃおうかしら。一体ぐらいだったら許されるわよね? そうね、一番でかそうな国王の人形なんかがいいかもしれない……。
あたいがじゅるりと舌なめずりをしているのに気づかず、国王が朗々とした声で言う。
「それでは皆、女神に祈りを。我らが大事な娘、アイをこの世界に授けてくれたことに深く感謝しよう」
国王の声に、皆が一斉に目をつぶって女神に祈りを捧げた。
あたいも最近知ったんだけど、この国って、誕生日の時にはこうやって女神に祈りを捧げるらしいわよ。
平民も、貴族も、王族も、みんな等しく「この世界に授けてきてくれたこと」に感謝するんですって。人間って変なことするのねぇ。
おちび自身も、大人を真似して何やら一生懸命祈っている。
たっぷり祈りの時間を取ったところで、国王がにっこりと微笑んだ。
「――さぁ、皆宴の時間と行こうか。今日は無礼講だ」
呼びかけに、待ってました! とばかりに歓声が上がった。
すぐさまテーブルやらイスやらが運びこまれて、王女の誕生日会とは思えない程くだけた宴が始まった。
『貴族たち向けの正式なやつは生誕祭初日にやったとはいえ、王族と一緒に使用人たちも同席してるのって、相当変わってるわよね? それともあたいが知らないだけで、これが普通なの?』
あたいが魔物語(なんとまだ全然使える)ではじっこにいたリリアンに話しかけると、リリアンは首を横に振った。
「わたくしもこんな王族は初めてよ。多分この国王たちがおかしいんだわ」
……さらりと「おかしい」呼ばわりしちゃってるわね。ま、いいんだけど別に。
「それよりケーキ、もらいに行くわよ! みんながご飯を食べているうちに食べれるだけ食べないと!」
そう言ったリリアンの鼻息は荒い。
そういえばこの子も、なんだかんだ甘いもの好きだったわね。
あたいもみんなに混じってハグハグと舌鼓を打ちつつ、たっぷりと誕生日ディナーとやらを楽しませてもらった。
なんと、あたいは聖獣だからってことで、ついにあのギザ歯料理人があたいにもみんなと同じご飯を解禁してくれたのよ! 信じられる!? 苦節、四巻分、ようやくだわ!
……ん? 四巻分って、なんの話? まぁ細かいことはいいわ。
「ケーキの他に、新作デザートもあるぞー! 食いすぎ注意だけどな」
言いながら、料理人がまた何やら新しいワゴンを押してくる。
新作って、何よ。
興味を持ったあたいはみんなと一緒にワゴンを囲んだ。パカッと銀の蓋が開かれる音がして、「おぉ~!」という声が上がる。
でもいつものことながら、あたいには見えない。
そんなあたいに気づいたおちびが、あたいを抱き上げてくれた。
「ショコラもみてみる?」
おっ。偉いじゃな~い。そんな気遣いができるようになったなんて、子分として順調に成長しているわね!
……で、これってなんだっけ?
人間界の賃金事情に詳しくかつメタ発言する聖獣(元魔物)






