第163話 ま、わざわざ人間どもには教えてあげないけど ◆――ショコラ
「グガオオオオオ!!!!」
ふーん。
あたいは現れたドラゴンをじろじろと見た。
大広間を指定するだけあって、ドラゴンは結構立派に作ってあった。
……といっても、鍋の悪魔や灰色の魔女と比べたらの話で、基本的には見え見えバレバレの木でできたハリボテのドラゴンよ。
頭の高さは、国王よりもずっと高い位置にある。……多分これ、中で双子騎士が肩車しているわね。
そんでもって手の部分は、双子騎士じゃない人物が動かしている。恐らく侍女のうちのふたりよ。尻尾も、多分誰かが動かしている。
合計大人五人がかりで動かすハリボテドラゴンは、劇に出てくる怪物みたいで、見ている分にはまぁまぁ楽しめるんじゃない?
それはおちびも一緒だったようで、「おぉお!」と感激の声をあげている。
「我こそは恐ろしき天空のドラゴン! 宝が欲しければ、我の屍を越えて行け!」
言いながら、口からぷしゅーっと何かを吐き出してくる。
うわっ!!! なにこれ! ……水? もしかして霧吹き、使ってる?
「きゃあ~!」
それに対して嬉しそうにはしゃぐおちびの声。
……子供、水遊び好きだもんね。でもあたいは猫だから! 全力で逃げるわよ!
あたいがピュッと国王の後ろに隠れると、王妃が待ってましたとばかりに進み出た。
その右手には、いつの間にか大きな盾を持っている。
「ここはママが魔法の盾でドラゴンの焔を防ぎましょう!」
……いや焔っていうか、水よね。どう見ても。
それに魔法の盾~とか言ってるけど、王妃が持ってるその盾、ゴリゴリに騎士たちが戦いで使う激重の本物よね? それをドレス姿で片手で掲げてるの、相変わらずバカみたいな怪力で怖ぁ……。
あたいはゾッとした。
王妃によって最初の夜に刻まれた恐怖は、なかなか消えないのよ。というかあの女、本当になんでそんなに怪力なわけ? もはや常軌を逸していると思うのよね……。
あたいがドン引きしながら見ていると、今度は国王がひょいとおちびを抱き上げた。その到着先はもちろん、肩――ではなく、今回は首だった。
おちびを肩車しながら、国王が楽しそうに言う。
「さぁアイ。パパが支えていてあげるから、その間に魔女からもらったステッキでドラゴンを浄化するんだ。アイになら、きっとできる」
「! わかった!」
国王の言葉におちびの目がパァッと輝く。
……なるほど、やっつけるんじゃなくて浄化と来ましたか。はは~ん、もしかしなくとも、これはローズ様の時の再現ってわけね。
あたいが物知った顔で後ろで見つめている前で、おちびが大きくステッキを振り上げた。
「ドラゴンさん、いまたすけてあげるからね―っ!」
その瞬間、ステッキがピカーッと光った。まぁさっき見せてもらった仕組みと同じよね。
「ぐっ、ぐわああああ!」
ステッキが光るのに合わせて、苦しそうなうめき声がする。どうやら救いの天使と違って、双子騎士は結構演技が上手らしい。なかなか真に迫っているわね?
と同時に、もくもくもくっと突如白い煙のようなものがあたりを包み込んで、ドラゴンの姿が見えなくなった。
――ただし見えなくても、ドタバタ音がするので、きっと今頃煙の中でドラゴンの解体作業が行われているのだろう。
そしてあわただしい人影の動きでドラゴンが跡形もなく片付けられたと思った頃――。
「よくぞ、この試練を乗り越えたな」
ふいに聞き覚えのある声がして、あたいはバッと顔を上げた。
「あっ!」
続いて現れた人物を見て、おちびが目をこぼれんばかりに見開いている。
「まじょさま!!!」
煙の中から現れたのは、全身真っ白なドレスを着た魔女様こと、ローズ様だったのだ。
その後ろには、いつものローズ様命のあの男、アイビーも控えている。
うわぁーっ! ローズ様に会うの、あの時以来じゃない!? 遠くの大陸に住んでいるかと思ったのに、まさかこんなところに来ていたなんて!
……ところであたいが聖獣になったの、ローズ様に怒られたりしないよね?
ローズ様ももう魔王は昔の肩書きで今は賢竜。わかっているんだけど、それでも一瞬だけあたいはちょっと気まずかった。
「はは。残念ながら今の我は魔女ではない。えーっと……」
「今の主様は、〝女神様〟でございます」
ローズ様が「なんだったけな? アイビー」と声をかけるより早く、アイビーが進み出てきた。
あの男、あいかわらずどころか、以前にも増してローズ様に対する反応が早くなってない?
しかも〝女神様〟って言った後ちょっと誇らしげな顔しているの、なんか腹が立つわね。
「ああそうそう、確かそんな役割であったな……」
「いえ、役割ではございません。主様はいつだって私の女神様です」
「ああもう、アイビー。そういうの、今はいいから……」
少しだけ頬を赤らめて手を振るローズ様を見て、王妃たちが微笑んでいる。
一方のあたいは、げぇっと声が出そうになった。
ハ~~~何これ何これ何これ!
これなんの茶番劇!?
何が楽しくて元上司――じゃなかった、元主様と従者のイチャコラを見せられなきゃいけないワケ!?
ローズ様のことは今でもちょっと好きだしアイビーのことも別に嫌いじゃないけどさぁ! そうは言ってもさぁ! あーっなんかちょっとむずがゆい! 他の人ならともかく、元主のそういうのってむず痒い! なんていうの? 母親と父親のイチャイチャを見せつけられているような気分になるっていうか!
そこに、甘い空気なんてなんのそのな勢いで、おちびが飛びつく。
「まじょさま、あいたかった!」
ふっ。こういう時、子供の無邪気さは助かるわね。いいわよもっとぶち壊してやりなさい。
「こうして直接会うのは久しぶりだな、アイよ」
おちびを抱き止めながら、ローズ様が優しい顔で語っている。
「元気にしていたか? といっても、話はいつも聞いているが」
そうなのだ。実は以前、賢竜に戻ったローズ様は、この大陸を立ち去る前におちびに自らの鱗を渡していたのよね。その鱗に念じればローズ様と話ができるから、おちびはちょいちょいそれを使って近況報告していたってわけ。
といってもあたいには声がローズ様の話している声は聞こえないんだけど、おちびの声だけでなんとなく何を話していたかは把握しているわよ。
「さて、今回我がやってきたのは他でもない。誕生日おめでとう、アイ。我からの贈り物を受け取ってくれ」
あっローズ様ったら! 一応『ドラゴンを倒したご褒美』とかの設定があるはずなのに、まるっと抜けて普通に誕生日プレゼント渡しちゃっているじゃない!
……まぁここまで付き合ってくれただけ十分優しいのかしら?
あたいが呆れながら見ている前でローズ様が差し出したのは、華奢な鎖がついたペンダントだった。
鎖は一見銀に見えるんだけど、光の加減によって七色に光る不思議な色合いをしていた。その先端についていたのは、おちびの小指の爪にも満たないほどの透明な珠だ。
「きれい!!!」
おちびが今日何度目になるかわからない叫びをあげている。あたいにはアクセサリーってよくわかんないんだけど、おちびの反応を見るに大喜びみたいだ。
この年齢からもうキラキラな首飾りが好きなんて、小さくっても女子なのねぇ。
「おいで、アイ。つけてあげるわ」
「うんっ!」
王妃がペンダントを、すぐさまおちびにつけてあげている。首飾りはおちびのためにあつらえてあるかのように、長さも大きさもぴったりだった。
「これは我の鱗を削って作った特殊な鎖でできておる。そしてペンダントは竜の涙だ。呑み込めば死の淵にいても救い出せる絶大な治癒効果を発揮するから、いざという時に使うとよいだろう」
さすがローズ様。竜が涙を流すことはめったにないとは言え、それがこんな強力なお守りに変わるなんて。
「ありがとう、まじょさま! アイ、だいじにするね!」
言っておちびは輝くような笑みで笑った。
既にポッケには鍋の悪魔――もとい、ハロルドとリリアンからもらった宝箱型の小物入れ。手には前聖女と大神官からもらった魔法のステッキ。そして首にはローズ様からもらった竜の涙ネックレスが輝いている。
そんでもってさらに……。
あたいはちらりと横を見た。
そこでは寄り添った国王と王妃が、後ろ手に何かを隠しながらそわそわして待っている。
よく見ればふたりだけじゃない。
いつの間にか片づけを終えたのか、双子騎士や三侍女たちまで帰ってきているわ。そしてみんなして、多分誕生日プレゼントであろう何かを後ろで隠し持っているってわけ。
はぁーこの子、今夜は一体どれだけのプレゼントをもらう気なのかしら。
というかいつの間のか、もう誕生日プレゼントを渡し終わったハロルドやリリアン、前聖女や大神官たちも、他の使用人たちにまじってみんなの群れに加わっている。
そわそわした王妃が、コホンと咳払いして一歩前に進み出た。
「アイ……改めて」
「「「誕生日おめでとう!!!」」」
王妃だけじゃない、その場にいる全員の声が重なった。
同時に、パンパン! と弾けるような音がする。ハロルドや双子騎士たちが、何か音を鳴らしたらしい。さらに三侍女たちがそこへ、ひらひらと紙吹雪をみんなの頭上に飛ばしている。
「ママのせいで生誕祭が遅くなってしまってごめんね。その代わり、今年はうんと楽しい誕生会にしましょうね! あ、もちろん来年もよ!? 来年こそ、アイがこの国にやってきた日に生誕祭を開催しましょうね!」
どうやら王妃は、自分のせいで生誕祭が遅れてしまったことをとても気にしているらしい。まぁ気持ちはわかるけどね……大人からすると誕生日って、やっぱり当日に祝ってこそ、みたいなところがあるものね。
でも多分、おちびは何日に開催されていてもあんまり気にしないと思うわよ? だって見てみなさいよ。あの、しあわせいっぱい~~~って感じのニコニコの笑顔。
おちびはきっと、いつ生誕祭が行われるかより、生誕祭が行われること自体が嬉しいんでしょうしね……ま、わざわざ人間どもには教えてあげないけど。
あたいがそんなことを思っている前で、王妃が国王とともに何やら綺麗に包まれた箱を差し出している。
「アイ。これはパパとママからの誕生日プレゼントよ。開けてみて」
王妃の声にうながされるように、おちびがそっと包みのリボンを引っ張った。
しゅるしゅる、というリボンのほどける音がきこえ、おちびがパカッと箱を開けると……。
「うわぁ~~~!!!」
箱の中身を見て、おちびが今日一の歓声をあげた。
なになに。何をあげたのよ?
こだわってるのは大人だけ、なーんてことはよくあったりしますよね。
あっところで昨日は5歳聖女4巻の発売日でした!みなさまもうお迎えいただけました!?書籍限定巻末特典では頑張っているアイと珍しく役に立っている(失礼)なハロルドが見られますぞ~~~!(ここぞとばかりに宣伝






