第159話 どう考えてもあの人よね? ◆――ショコラ
『おうじょアイへ
みごと おそろしき《なべのあくま》を しりぞけたな!
なんと ゆうかんで そうめいなことだろう!
だが たからものへのみちは まだなかば――つぎなるしれんが まちうけている。
だいにのしれん そのなも《はいいろのまじょのなぞなぞ》!
おうきゅうの どこか さくらちる へやにすむ まじょを さがしだすのだ。
かのじょは このくにいちばんの ちえもの。けれど きまぐれで いたずらずきでもある。
まじょは きみに みっつの なぞなぞを だすだろう。
それに ただしく こたえられたなら――つぎの てがかりを さずけてくれるはずだ。
けれど きをつけて。
まちがった こたえをいえば まじょは くすくすわらって どこかへ きえてしまうぞ!
そうなったら もういちど さがすところから やりなおしだ。
さあ ゆうかんなる おうじょアイよ。
ちえと ゆうきをもって はいいろのまじょの なぞなぞを ときあかすのだ!
――かいとうエリーデンより』
救いの天使がとんでもない棒読みで読むのを、あたいはおちびと一緒にドーナツを食べながら聞いていた。
ふんふん、次は魔女ね。この城でこの役目ができそうな人物ってリリアンとあの人ぐらいしかいないけど、リリアンはさっきいたし、どう考えてもあの人よね? 桜散る~とか言ってるし、それならあの人のところにいけばいいのかしら?
ごくん、と一瞬で平らげたドーナツを飲み込みながらあたいは舌なめずりする。
「さくら……サクラのおばあちゃまのところ……?」
まぁ、これくらいはね。おちびでもわかるわよね。
問題は――……。
「おばあちゃまのおへや……どうやっていけばいいのかな……」
……そうなのよ。
離宮じゃないこの王宮にも前聖女の居室は作られたんだけど……なんだか似たような造りの部屋の多い、なおかつ似たような構造をしたこの広~い建物の中で、前聖女のお部屋を探すのは結構大変なのよねぇ。
正直あたいは、全然覚えてないわ。だっていつも侍女たちが連れて行ってくれるんだもん。
おちびが「うーん、うーん」と悩んでいると、救いの天使が何も言わずスッと厨房の扉を開けた。
すると……。
「……あれ? さくらのはなびら、おちてる!」
なんとさっきまで何もなかった廊下に、桜の花びらが点々と落ちていたのよ。
ははぁんなるほど。そういうことね?
『おちび! これを辿っていきましょ!』
理解したあたいが先導すると、おちびが「うんっ!」と元気よくうなずいた。
「おーい」
そこへ、後ろから声がかかる。
あたいとおちびが振り向くと、かぼちゃのお面をちょっとだけ持ち上げた鍋の悪魔が、おちびに向かってニカッと笑っていた。白くてギザギザした鋭い歯がぎらっと輝く。
「誕生日、おめでとさん」
言って、鍋の悪魔が何やらまぁまぁ大きい包みをぽいっとおちびに向かって投げた。
「うわわっ」
あわてながらも、おちびがなんとかキャッチする。
「誕生日プレゼントだぜ」
誕生日プレゼント!? こいつ、誕生日プレゼントを投げたの!?
「……あんたって本当にがさつよね」
横では救いの天使が呆れた声で言っていた。
本当にそれ! あたいも同意よ! おちびの運動神経がよかったからいいものの、そうじゃなかったら落ちて壊れていたわよ!
だというのに、鍋の悪魔は全然反省した様子もなくニヤニヤしている。
「いいから開けてみろって」
「うん!」
おちびは素直にうなずくと、ガサゴソと袋を開け始めた。
そこから出てきたのは……。
「わぁ! くまさん!」
なんと、鍋の悪魔には到底似合わないような、茶色でぷりち~なくまのぬいぐるみだったのよ! ……あ、でもぷりちーさにかけてはあたいの圧勝よ? そこはお間違えなく。
「かわいい~!」
おちび、もともとプレゼントはくまさんがいいって、前ちらりと言ってたものね。もしかしてそれを覚えていたのかしら? 鍋の悪魔のくせに。
「だろ? 俺が作ったんだぜ」
えっ!? あんたが作ったの!?
その言葉にあたいは思わず鍋の悪魔をまじまじと見っちゃったわよ。
「いや~俺ってば、手先が器用すぎて、料理だけじゃなくてぬいぐるみも楽々作れちゃうんだもんな。職人にも負けない、いい出来だろ?」
鼻高々、といった鍋の悪魔の横では、救いの天使が微妙な顔をしていた。
「……まぁ確かに出来はいいんだけど、あんたが言うとなんかむかつくわね……!」
「むかつくってなんだよむかつくって! そこは素直にハロルド様すげーでいいだろうがよ!」
「はろるどさま、すげー!」
ああもう! おちびが変な言葉を覚えちゃってるじゃないのよ!
こいつ、もう一回嚙みついてやろうかしら!?
あたいが怒りにぷるぷる震えていると、鍋の悪魔がカッカッカッと笑い出した。
「それで、どうだ? くまさん、気に入ってもらえたか?」
「っうん! ありがとう、なべのおじちゃん!!!」
おちびがとびきりの笑顔で、にっこりと微笑んだ。
……あーあ。もう鍋のおじちゃんって言っちゃってるじゃないのよ。
あたいはやれやれとため息をついたのだった。
◆
「さんまい、よんまい……」
目の前ではおちびが律儀に落ちている花びらを拾いながら歩いていた。
別に花びらぐらい、放っておけばいいのにと思うんだけど、なんだか楽しそうに拾っているからあたいは黙って見守ることにしたってわけ。
ついでにチラッと振り返ると、また花瓶が置いてある低めの柱の後ろに、いい年した大人たちがサササッと隠れるのが見えた。
……うん、今度は柱が小さいから、王妃のドレスどころか、ぜんぶ丸見えよ。先頭が王妃で、その後ろが国王で、その後ろが双子騎士でしょ? もう一度言うけど全部丸見えよ。
全員、爛々とした目でおちびを見つめている。……見守りっていうか、ちょっと変質者っぽくて怖いわよ、あんたたち、と言ってやりたい。
でも本人たちはきっと真剣なのよねぇ……。
ハァ、とため息をついてからあたいはまたおちびの後ろについていった。
やがて桜の花びらを追っているうちに、見覚えのあるお部屋にたどり着いた。
そうそう、ここよここ。
前この部屋で前聖女に〝煮干し〟をもらった記憶あるわ。
知ってる? 煮干し。
塩水で小魚を茹でて、乾燥させたものなんですって。これも前聖女の国の食べ物らしいんだけど、おやつとしてポリポリ食べるのにちょーどいい感じなのよね~。
おちびもあたいと一緒になって時々ポリポリ食べるのよ。しかも子供の成長にちょうどいい栄養もあるらしくって、王妃が感動していたわ。なんなら王妃も一緒になって食べてたわね。
あ、話がそれた。
あたいが煮干しを思い出してよだれを垂らしている間に、おちびがコンコンコン……と部屋の扉をノックしていた。
「まじょさま、こんにちはぁ……」
なんて律儀に挨拶しながらそっと扉を開けている。
開かれたドアの向こうに見えるのは、太后陛下が寝泊まりしているとは思えないこじんまりとした部屋。
そういえば『豪華なのは気が引けるから』って言って、広いお部屋を辞退していた気がするわね。
そうは言っても置かれた家具はひとめでとんでもない高級品ってわかるものばかりだけれど……。
……ん? あんなところに、あんなに大きい雪だるまの置物なんて、あったかしら? おちびよりでかいんじゃない?
あたいがじぃっ……と雪だるまの置物を見ていると、部屋の中から声が聞こえてきた。
「ふふふ、ようこそ、小さな王女さま」
煮干し、猫と子どもが一緒に食べられるおやつなのでわけっこして食べているのを見ると大変なごみます。可愛い。






