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俺様、神様、創成主!?~いいえ、人間です~  作者: 慧斗
第2章 神様は、仲間たちと出会った
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第9話 そして、神様は夢を見る

『お母さん、これ見て!学校で作ったんだ!』


『あら、すごいわね』


 目の前で、誰かが喋っている。

 聞き覚えのあるような、そんな声。


「なんだ……?どこだよ、ここ……」


 不思議な空間だ。

 目の前に、どこかの映像が映し出されている。その中には、仲良く微笑む二人の人影。それ以外、この空間には何も無い。


『ただいまー』


「誰か来た……!」


 声からして、男の人だと思う。


「この声も、聞いた事あるような……。なんだっけ……」


『お父さんも見て!』


『おお。すごいな、陽』


「え……?」


 今。何かが、フラッシュバックしたような……


『お母さん、お腹すいた!』


『はいはい。もう少し待っててね。そろそろ出来るから』


「何だ……」


 俺が悩み続けている前で、映像は進んでいく。


『えへへー。楽しみだなぁ』


『ええ。今日は、陽の大好物のハンバーグだからね』



『わーい』

 また。まただ。何かを思い出しそうで、でもそれはすぐに消えていく。


「なんなんだよ……!」


 もう少し。もう少しで、思い出せそうなんだ。


『僕、ご飯が出来るまでミケと遊んでるね!』


「……!」


〈ミケ〉。その名前は……!


「思い出した……」


 ミケは、俺が飼っていた犬だ。〈ミケ〉という猫についてそうな名前だけど、犬。

 ミケも、その時に両親と一緒に焼け死んだはず。そう、あの時に……

 ピンポーン

 その音が、すべての謎を解き明かしてくれた。


『宅配便でーす』


 ドアの向こうから聞こえる、男の声。


『はーい。何かしら』


 手を拭いて玄関の方へ向かう、女の人。……いや、俺の母さん。


「行っちゃダメだ!」


 行ったら、すべてが終わってしまう。

 俺の叫びは響くだけで、誰にも聞こえない。

 ガチャ

 地獄への扉が、開いた。



『きゃあぁぁぁっ!』


 響く悲鳴。倒れる体。飛び散る血液。ナイフを持つ、男。


『陽、逃げろ!』


 叫ぶ父さん。その背後から、男がナイフを振りかざして―――


「危ないっ!避けろ!」


 聞こえないと分かっていても、叫ばずにはいられない。


『これで、二人ぃ!』


『ぐわぁぁぁっっっっ!』


 俺の目の前で、血飛沫が舞う。


『あ……あ……!』


 絶望の色に染まった顔で、倒れる父さん。


『あははははは』


 男は、たくさんの返り血を浴びていた。それでも、そいつは笑っている。


『お前で最後だ』


 凄惨な笑顔だった。血に塗れたナイフを舐めながら、一歩一歩、俺に近づいていく。


『うぅ……来るな……!来るなよぉ……』


 俺が、じりじりと追い詰められていく。


『お前……、いったい何が望みなんだよ!』


 勇気を振り絞って、やっとそれだけが言えた。

 俺が住んでた家は、セキュリティ万全な高層マンションだったはずだ。ただの泥棒が、わざわざ危険を冒してまで来るはずがない。まだ小学生だった俺にも、それは分かっていた。


『何が望みだって?そうだな……。たくさん金がありそうだから、かな……?』


『うっ、嘘だ!それだけの理由で、危険を冒してまで来るはずがない!』


『危険?』


『そっ、そうだ!まず、お前はどうやって入ったんだ!ここはセキュリティ万全のマンションだぞ!』


 俺の疑問に、男は鼻で笑った。


『はぁ?セキュリティ万全だと?笑わせんな。楽々進入出来たぜ。ああ、でもまあ、盗みだけが目的じゃないなぁ。人間が苦しんでるのを、この目で見たかったんだよ』


『お前……』


 クソ外道だ。狂ってる。こんな奴に、俺の家族は殺された。そう思うと、こいつが憎くて憎くて仕方ない。

 これが、映像じゃなかったら。不意に、そんな衝動に駆られた。


「はは……。吹っ切れたなんて、嘘じゃないか……」


 エルに綺麗事ばっかり言って。結局、俺は吹っ切れてなんかいなかったんだ。実際、今だってこの男を殺したくて仕方ないくせに。


「こんな夢、見るぐらいだもんな……」


 エルは決めたんだ。吹っ切れたんだ。辛い過去は忘れて、軍の兵士としての仕事を果たそうって。

 なのに、なんだよ。あれだけ散々偉そうに言っといて。本人である俺は、結局何も変わっていない。


『やめろよ……!』


 そんな声で、俺は我に返った。


『助けを呼んだって無駄だな。お前の父さんも母さんも、もう死んでる』


『うぅ……』


 男が、ナイフを振りかざす。刃の先端から血が垂れ、床に斑点を作る。


『もう終わりだ』


 その声が、まるで悪魔の囁きのように聞こえた。


『あ……ぅあ……』


 もう終わりだ。逃げ場もない、助けてくれる人もいない。

 でも。――でも、昔、俺は助かった。それは事実。

 だけど、その時の事はすべて忘れてしまっている。もう思い出したくなかったから、記憶に蓋をしたんだろう。


「なんで俺、生きてんだよ……!もうこんなの、詰みゲーじゃねぇか……!」


 奇跡でも起こらないかぎり、俺は殺される。

 でも、その奇跡は実際に起こったのだろう。忘れたけど。

 唾を飲み込んで、画面をガン見する。どうなる。どうなる。


『じゃあな、坊や』


 そんな言葉と共に、ナイフが振り下ろされる。


『わああああああああ!』


 俺は、ただ叫んで。手をかざして。ナイフが突き刺さるのを、待つだけだった。

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