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俺様、神様、創成主!?~いいえ、人間です~  作者: 慧斗
第3章 そして神様を中心に、世界は変わり始める
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第37話 車で崖へと急降下


「で?」


「ナオ、お前が言ってた場所って……」


「はい、ここです」


「でも、ここって……」


「崖、だよな……」


 下を覗き込んでも、底が見えない。ここで行き止まりってことは、ナオが言ってた場所はここなんだろうけど……


「でも、ここだったら軍はたどり着ける……」


 俺もリオラの意見に同感だ。俺たちも車で来れたんだから、軍も来れるんじゃねぇの?


「確かに、ここだったらたどり着かれますよね。でも、僕が言っている場所はこの崖の下です。ね、くぅ?」


「えっ、そっ、そうだっけっ?」


 いきなり話を振られて、くぅがあわてて返事する。


「前に何度か遊びに行きましたよね?」


「え?……う、うん!ここであってるよっ!」


 絶対覚えてないだろ。


「ここ降りんのか?怖ぇー……」


「どうやって降りるのよ!」


「ちょ、ナオを質問攻めしすぎだって。そんなに一気に喋られても、聖徳太子じゃあるまいし答えられるかよ」


「しょうとくたいし、って何……?」


「そうよ!何、その……何ちゃら太子って!」


 あ。

 そういやここ、異世界だった。

 聖徳太子は、知らないんだっけ。

「聖徳太子ってのはな?えーっと……俺の世界にいた、昔の偉~い人だ」

 何時代の人かは覚えてない。


「それと質問攻めになんの関係があるのよ?」


「それはな……。確か、聖徳太子は十人から一斉に質問されてもその内容をすべて聞き取って答えられたから、豊聡耳と呼ばれていたとか……」


「ふーん。そのしょうとくたいしだっけ?は、ずいぶん耳がいいのね」


「とよとみみ…….始めて知った……。勉強になる……」


「リオラ?別に、メモらなくてもいいから」


「?また今度、研究してみようかと思ってるから……」


「なんの研究だよ!」


「鼓膜を、採取する……。そこから、鼓膜をどういう風にすればそんな風に聞き取れるのか実験を……」


「怖い怖い!鼓膜を採取とか、怖すぎるからやめてくれ!」


 鼓膜って、耳の奥にあるあれだろ?破れるとものすごく痛い奴だろ?そんなの採取したら、痛みで死んじゃうんじゃねぇの?つーか、その前に採取方法が分かんねぇ。


「兄さんたち?お喋りは降りてからにしてください」


「え、でも、ナオ?ガチでここ降りんの?冗談とかじゃなくて?」


「はい。僕は本気です」


「えー……」


「では、エルさんからどうぞ」


 ナオは本気らしい。え、この高さとか落ちたら絶対死ぬよ?ガチでやるの?やるの?やるんだ……


「よいしょっと」


 エルが普通に降りていく。

 しばらくして、底の方から「着いたわよー!」と声が響いてきた。


「ほら。はい、次兄さんどうぞ」


「いやいやいや」


 ちょっと待てって。ほら、って言われても。

 あれだよ?人間離れしたエルだから降りれるんだからね?俺は無理だからね?


「兄さん、早く」


「えー……」


「ナオ……。次、私が行く……」


 突然立候補したのは、リオラだった。何、自殺志願?どっからどう見ても運動してなさそうなリオラには無理だと……


「えっさ、ほいさ……」


 ってあれ?普通に降りてる……っていうか、崖を歩いてる!?


「え、それどういう仕組みになって……」


 リオラが履いてるのは、いつもと変わらない靴。あんな絶壁をくっついて歩けるぐらいの粘着性はあるんだろうけど、それだと今までも歩けないよな?


「これは、さっき作ったの……。板状のガムを、靴底にくっつけた……」


「ガム?」


 またお菓子持ち歩いてたのか。でも……ガムぐらいで、あんなにくっつくのか?

 俺の疑問を悟ったのか、リオラが解説し始める。


「ガムの主原料は、暑いところで取れるアカテツ科の樹木のサポジラの樹液を煮た天然樹脂のチクルなの……。チクルから取れたゴムはポリ‐1,4‐イソプレンで、cis型65%とtrans型35%の混合物なの……」


「ちょっと待ってくれ」


 更に説明しようとしたリオラを止める。ちょっと待て、まったく理解出来ねぇんだけど。ポリ‐何とか辺りから特に。


「簡単にまとめてくれ」


 いつもなら『また出た、リオラのウィキペディア!』とか言うけど、今はそんな時間がない。


「分かった……。他にも原料はあるけど、主原料はそれ……。それに、私がモンスターのべっとべとの唾を入れてみたの……。粘着性のあるガムを作ろうと思って……」


「それで、そんな粘着力なわけか」


 こくり、とうなずいて、リオラはまた絶壁を歩いていった。


「モンスターの唾か……」


 それって、普通に食べたら間接キスとかになるんじゃ……。

 またしばらくして、崖の底からエルの驚く声が聞こえてきた。まあ、絶壁をいきなり歩いてきたんだからびっくりもするよな。


「ほら。はい、次兄さんどうぞ」


 ナオが、さっきとまったく同じセリフを口にする。


「いやいやいや」


 俺も、まったく同じ返事をした。


「んもう、兄さん?エルさんだけじゃなく、リオラさんも降りれたでしょ?兄さんも行けますって」


 さっきのセリフ訂正します。あれだよ?人間離れしたエルとか、人間離れした研究バカのリオラだから降りれるんだからね?俺は無理だからね?


「いいから。兄さん、男でしょ?」


 あれ、ナオってくぅと比べると常識人だったはずなんだけど……。そんな無茶振りするキャラだっけ?まさか、とうとうくぅに毒された?

 そんな窮地に陥った俺を助けてくれたのは、アリシアだった。


「あのさ、ナオ?この車に乗って降りればいいんじゃね?」


 ……助かってなかった。あと、アランになってた。何でだ?エルとリオラがいなくなったからか?


「ちょ、アラン?車で降りるなんて無理が……」


「それに、失敗したら爆発しますよ?車。保険入ってるんですか?というか、ローンまだ残ってるんじゃ……」


 うわぁ世知辛い。そういうシステムって、異世界だろうがどこだろうが変わんねぇんだな。


「ローンは、どうせもう払えねぇし、保険入ってないから。ほら、俺女のフリしてたから。仕事忙しくてそんなヒマなかったし、天使系で通ってんのにこんな車乗れねぇって」


「なるほど……」


「それに、証拠隠滅も兼ねてさ!」


「それもいいかもしれませんね。一気に降りれますし」


「ちょっと待てって!」


 何納得しようとしてんだよ!リスクでかすぎじゃねぇか!失敗したら爆発するし、成功しても痛い。それに、こんな深い崖じゃ失敗の方が確率高ぇって!


「ほらほら高良~、乗って~」


「って俺に拒否権無しかよ!」


 アランもナオも、もう車に乗っていた。って、あれ?くぅは?そういえばさっきも会話に全然参加しれなかったし……


「ちょっと、まだ~?」


 崖の底からエルの声が響いてくる。


「もう少しで行くから!」


 底に叫び返して、ナオの方に向き直る。


「なあ、くぅは?」


「くぅなら……」


 ナオが、崖を指差す。見ると……崖の途中にある草などを焼き払っていた。


「何やってんの!?」


「何って、お兄ちゃん。車で降りるのに邪魔なものを焼き払ってるに決まってるじゃんっ!」


「決まってねぇよ!予想つかなかったわ!」


「お兄ちゃん、もっと脳をやわらかくしないとっ!」


「いらんお世話だ!ちゃっちゃと上がってこい!」


 ったく。


「で、結局乗るんだね」


「しっ、仕方ないだろ!こんな無茶しなきゃいけないのも、俺の責任だからさ……ってなんだよ、頭なでんな!」


「いや~、高良ってさ、時々考えすぎだよね。何というか、ネガティブ思考?過去になにかあったの?」


 アランの鋭い質問に、思わず声が出ない。


「まぁ、今はそれどころじゃないからいいけどっ!ほら、行っくよー!」


 ギュルルルルルルル

 エンジン音が響く。

 アランが強くアクセルを踏んで―――気がついたら、俺たちが乗った車は宙に浮いていた。


「ひゃっはーっ!」


「ひゃっほーいっ!」


 同じようなことを叫ぶ元気な二人組。


「無事にたどり着けるといいんですけどね……」


 今になって不安を感じ始めるナオ。

 でも俺は、喋る余裕すらなかった。


「うぎゃああああああああ!!!」


『降りる』という表現より『落ちる』という表現が合う、そんな感じで。

 車は急降下していった。


「ぎゃあああああああああ!!!」


 もう、悲鳴しか出ない。今まで乗ったどんなジェットコースターよりも速くて、もう車の前の座席にしがみつきっぱなしだ。


「うひゃああああああああ!!!」


 ドラゴンに襲われた時よりも、死を覚悟した気がする。


「うひゃあああああああああ……がくっ」

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