第35話 仲間の決意、そして脱獄
そんな時、それは、突然起こった。
「高良!今から逃げるわよ!」
「え?」
時間はよく分からないけど、まだ飯の時間じゃないと思う。実際、俺も寝てたし。
なのに、エルが地下牢に入ってきた。
キィィ……と音がして、鉄格子の扉が開く。
「エル、その鍵、どこから……」
「見張りの兵を、麻酔針で刺したの!」
怖ぇ。
「で、でもなんで?それに今、逃げるって言ったよな?意味分かってんのか?」
「分かってるわよ。ねぇ高良、よく聞いて」
エルが、途端に真剣な顔つきになった。思わず、気を引き締める。
「昨日、あんたの死刑が決まったの。死刑執行の日は、二週間後よ」
やっぱり、死刑に決まったか。
「それでね、私とリオラ、アリシア……じゃ、なかったわね。アランと、一緒に考えたの。あと、あなたと一緒に住んでたっていう狩人の子供とも。高良を死なせない。地下牢から脱獄させよう、ってね」
「てね、じゃねぇ!それがどんだけ危険なことか、分かってんのか?俺は脱獄できても、行く場所がない。それに、俺を助けたって分かったら、お前らも処罰を受けるんだぞ!」
「今の立場とか、金とか、どうでもいいわ。そんなものより、高良の方が大事。みんな、その気持ちは同じなの」
「エル……」
嬉しいこと言うなよ。俺は、生きるのを諦めてたのに。他人のお前らが、俺のことを俺より大事に思ってくれていたなんて。
「分かった、逃げる」
「OK。でも、ちょっと待って。この足かせ、取れないの」
「はぁ?」
決意した矢先にそんなことを言われて、力が抜けた。
「えいっ、このっ、おりゃっ!ダメだわ、抜けない」
「じゃあ、お前だけでもさっさと行け!今なら、まだ間に合うはずだ」
「無理よ。私が襲って眠らせた兵に、顔を見られてるもの。もう、後戻りは出来ないわ」
「諦めんなよ!」
ついさっきまで生きることを諦めてた俺が言うには、あまりにも信憑性がない叫び。
足に力を入れて、ぐっと立って。思い切り叫ぶ。……て、あれ?足の感触が、ない?
「抜けたわ、足かせ!高良の足が細くなってたから、抜けたのね!」
おいおい、そんなミラクルありかよ。
ともかく、こうなった以上。
「逃げろっ!」
エルの手をにぎりしめて、必死に走る。あ、ヤバい。ずっと地下牢にいたからかな、足が動きにくい。走りにくい。
なにもついてないはずなのに、足首に何かがついている感触が離れない。あの足かせに慣れちまったのか、こん畜生。
「出口よっ!」
わずかな光だったそれが、どんどん大きくなっていく。その光の向こうにアリシア、リオラ、くぅ、ナオの姿があるのを、暗闇にすっかり慣れていた俺の目が捕らえた。っつーか、まだ女装してんのかよ。
「もう少しだよっ!早く早くっ!」
「アリシアさん、車の用意をしてください」
「分かってますって!」
「みんなも、早く乗る……。高良が来たら、すぐに出るからね……」
四人とも、顔が明るくて。
「お待たせー!」
エルも、まるで友達と約束してたみたいな気軽さで。
「おいおいお前ら、これ大犯罪だって分かってねぇだろ」
あまりにも場違いなこの空気が、俺の緊張を少し和ませてくれた。




