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絶界の浮遊島リゾート〜巫女さんとゴーレムと一緒に、雲の上で最高のDIY生活を始めました〜  作者: 寝不足魔王


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第10話:【前編】『失われた料理のレシピを求めて』


「贅沢を言うなと言われそうだが、俺の舌が限界を訴えてる! スパイスだ! 出汁だ! 複雑な後味が足りないんだよ!」


 拠点のダイニングテーブルを拳で叩き、レンは朝から熱弁を振るっていた。

 水耕栽培の野菜は瑞々しく、魔法発酵のパンも絶品だ。だが、毎日そればかりでは、飽食の時代から来た現代人の胃袋は満足しない。


「レン、何を言っているのですか。この清潔な食事こそが一族の理想。これ以上の贅沢は、精神の『風化』を招きますよ!」


 シアが呆れたように野菜を口に運ぶが、その横でポッドが「プシュー!」と、レンに同意するように激しく排気音を鳴らした。


「ほら見ろ、ポッドも『もっとパンチのあるもんを食わせろ』って言ってるぞ! シア、お前の一族が管理していた『古代備蓄庫』があるだろ。あそこには数百年分の保存食や調味料が魔法封印されてるはずだ。今日こそあそこを開けるぞ!」


「あそこは聖域中の聖域です! 不浄な者が触れれば、島を吹き飛ばすほどの魔力罠が発動すると伝わっています。絶対に許可できません!」


「爆発? 面白い、その挑戦受けてやるよ! 罠なんてのは、設計図ロジックさえ読み解けばただのバグだ!」


 レンはシアの制止を笑い飛ばし、腰のレンチを鳴らして立ち上がった。

 目的地は、地下機関室のさらに奥。重厚な岩盤に守られた、一族秘蔵の倉庫エリアだ。


「よしポッド、お前の翻訳機能をさらに最適化してやる。微細な魔力の揺らぎを音波に変換して、隠れたトラップの『音』を拾うんだ。感度を最大まで上げろよ!」


 レンがポッドの音声ユニットを弄り、感度を極限までブーストした。

 すると、道中。ポッドのスピーカーから、奇妙な音が漏れ出した。


『――(……レンの作るご飯、本当はもっと色々食べてみたいな……。あ、お腹鳴りそう……)』


「……えっ?」


 シアが顔を真っ赤にして立ち止まった。

 ポッドのスピーカーは、シアが口に出していないはずの微小な独り言や、極限まで高まった彼女の空腹の予兆音(腹鳴の振動)まで、克明に増幅して垂れ流してしまったのだ。


「おっ、シア! お前、本当は俺の新作料理に期待してるんじゃねえか! 正直でよろしい!」


「ち、違います! これはポッドの故障です! 今すぐその不謹慎な機能を停止させなさい!」


 真っ赤になってポッドをポカポカと叩くシア。レンはその光景を笑いながら、目的の『古代備蓄庫』の前に到着した。


 目の前に立つのは、物理的な鍵穴も取っ手もない、巨大な黒い石扉だ。

 表面には複雑怪奇な幾何学模様が刻まれ、触れれば命を吸い取るような冷徹な魔力を放っている。


「……これが一族の封印。レン、これ以上の深追いは……」


「……へぇ。なるほど、面白いな」


 レンはシアの言葉を遮り、扉に顔を近づけた。

 ギフト『修復・最適化』を視覚にフルリンクさせる。レンの目には、石の表面に流れる魔力の奔流が、巨大な『論理回路ロジックボード』として映し出されていた。


「これ、魔法的な呪いでもなんでもねえな。ただの十六進法を使った高度なバイナリパズルだ。特定の周波数で魔力を流し込み、この回路をショートさせずに順序シーケンス通りに並べ替えれば開く。……よし、デバッグ開始だ!」


 レンは指先から細い魔力の糸を伸ばし、扉の幾何学模様に直接干渉を始めた。

 回路に触れるたび、パチパチと青白い火花が散り、空気がオゾンの匂いに満たされる。一歩間違えれば、シアの言う通り魔力の暴走が起きるだろう。だが、レンの指先に迷いは一切ない。


「構造が見える。ここがゲート、ここがレジスタ……。おいおい、数千年前の技師は、こんなアナログな石板で論理演算ロジックを組んでたのかよ! たまらん! この無駄のない命令セット(インストラクション)、設計者の執念を感じるぜ!」


 シアは、神聖な封印をまるで精密機械の基板でも扱うように弄り回すレンの姿に、戦慄すら覚えていた。彼女たちが『神の奇跡』と信じていた守護の力は、この男の前では、ただの『解析対象』に過ぎないのだ。


「……最後の一手。ここを……こうだ! 実行ランタイム!!」


 レンが中心の紋章を力強く押し込んだ。

 瞬間、地下空間全体に重低音が響き渡り、数百年もの間、万物を拒絶し続けてきた巨大な扉が、断末魔のような軋みを上げて左右に分かれた。


 ――ゴォォォォ……!


 扉の向こうから溢れ出したのは、冷たく、そして強烈に芳醇な『香り』の奔流だった。

 数百年もの間、完璧な魔法保存フリーズドライによって閉じ込められていた、古代のスパイス、乾燥した肉、熟成された出汁の素。それらが一気に外気と混ざり合い、レンたちの鼻腔を暴力的なまでに刺激した。


「……この匂い。お祖母様の物語に出てきた、あの『黄金の食卓』の……」


 シアが懐かしさと驚きに、瞳を潤ませて立ち尽くす。

 一方、レンはシアの感動をよそに、倉庫の隅に積まれた「ある物」を見つけて、今日一番の歓声を上げた。


「うおおおっ! 見ろよポッド! これ、『全自動調理器』の初期型じゃねーか! モーターは固着してるが、基板は生きてる! これを直せば、俺たちの食卓は今日から革命だぞ!」


 開かれた古代の宝庫。

 そこには失われた味覚だけでなく、レンの技術欲を刺激する未知のオーバーテクノロジーが、山のように眠っていた。


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