W
ご主人様が帰ってきた時、今まで引き連れていなかったモンスターが後ろに控えている見て、W-03601は自分の運命を悟った。
「もう使わないわ」
案の定だ。
ご主人様が執事に告げているのを聞いた。このご主人様専用の管理施設から一生出られないのでは無いかと絶望した。
これまでも似たようなことはあった。
原因ははっきりしている。
W-03601がそうだろうと予想した通りのことを、お嬢様は言った。
「弱くなったんだもの。どうしようもないくらい」
ご主人様の職業はモンスタートレーナーだ。
モンスターを管理・育成し、興行となっているモンスターバトルで戦わせる。素質を磨きあげる腕は言わずもがな、モンスターごとの知識や戦いにおいて指示を飛ばすことなど、モンスタートレーナーは世間で言われている以上にモンスターバトルにおいて重要なファクターでいる。
ご主人様はその界隈ではトップに君臨するモンスタートレーナーらしい。
W-03601はそんなトレーナーに拾われ育てられ戦いも多く経験した。W-03601という名もご主人様に付けてもらった大切な名前だ。
いくら有能な方でも、自分たちモンスターと比べるとあまりにか弱い。
ご主人様を背に、ご主人様と共に戦っている時が、W-03601にとって最も誇らしく、充実した時間だった。W-03601はご主人様が大好きなのである。
ご主人様の相棒として、数多の戦列にいたW-03601に悲劇が起こったのは、三日前のことだ。
その日は虫干しの日だった。アストリア大陸では年に何度かあることだ。W-03601もご主人様も、誰も彼も何もかもが閉ざされた闇の中意識を手放した。例外はなかった。
目が覚めたとき、W-03601は身体に違和感を覚えた。どことなく身体が重かった。走ってみる。剣を振ってみる。物を持ち上げてみる……愕然とした。
弱くなっている。
虫干しの度にこうだ。
身体が重くなっていたり、逆に軽くて足が速くなったり技術・能力が急成長を遂げることがある。
他のモンスターにもよくあることで、W-03601自身もむしろ強化という形で生まれた時から着々と、本人やモンスタートレーナーたるご主人様の努力でもって強さを獲得してきた。
二回前の虫干しでは特に爆発的な急成長を遂げた。これまでの努力を嘲笑うようなそれにも、W-03601はご主人様の役に立てるかもしれないと喜色満面に胸を躍らせた。ようやく他の追従を許さないほどの強さを得たのに。
「まあ、気にするなよ」
と凹むW-03601の肩を叩く彼は、W-03601と同じように弱体化を受けたものの、再び強化を受けて一軍格に復帰した。W-03601ともわずかな期間ではあるが戦線を共にした仲間である。気さくで、思いやりがあり、皆に慕われていた。
「また返り咲けるさ」
目の前に実例がいて、笑顔を見せている。今日も彼はご主人様の指揮下でモンスターバトルを行ってきたはずだ。汗すら爽やかである。
「そ、そうでござるな」
W-03601は希望を取り戻した。
「お嬢様。今日のモンスターバトルの選抜ですが、あのモンスターたちでよろしいので?」
執事が髪を梳きながら尋ねた。
虫干しのあと最初のモンスターバトルだ。お嬢様が闘志をたぎらせているのて、執事の髪を結う手も自然と丁寧なものになる。
「ええ、あれでお願い」
「W-03601が入っていないようですが」
W-03601というのは通し番号である。
気に入った個体にのみちゃんとした名前を与えるのが彼のご主人様の趣味だった。
「いいのよ、救いようがないくらい弱くなったわ。どこを切り取っても何かの劣化。バトルに出す意味が無いわ。
他の弱くなった子たちはまだ個性が残っている。その子たちにしかできないことがあるわ。でもアレにはそれが無いじゃない」
別に使いたくて使っていたわけじゃないし、と淡々と続ける言葉に感情は薄かった。
勝つことを至上命題に掲げた時、W-03601は選択肢に上がらないのだ。
「それにね……私、アレ嫌いなの。見た目も言動も」
「新規参入も減り、既存のユーザーもどんどんログイン数が減っている」
レジュメに視線を落としながら、彼らは会議していた。ここは、ゲーム開発会社の一室である。
「もちろん、追加のアップデートも……」
「当然無しだ」
「そうしましょう。それでは──」
「ああ。『ファンタジー・オブ・アストリア・オンライン』は半年以内にサービスを終了とする」
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