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君主たる魔導書-マスターグリモワール-  作者: 逸れの二時
第一章 痛みの連鎖
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襲撃

 古風な木材の扉と、同じ材質の木枠の窓がある簡素な家。一瞬空き家かとも思われたこの家屋から、感情のない低い声がかすかに漏れ出てくる。


「魔導書を渡せ」


「な、なんだお主は。わたしの家から出て――」


「遊んでいる暇はない。早くしろ」


 白髪の老人がカイルの手に溢れる魔力を見て息を呑む。黒く燻るそれは、身の毛がよだつほど激しく不穏な空気を放っている。


「な、なんのことかわからんのだが。お主は魔術師……なのか?」


「フッ。とぼける必要はない。貴様もそれなりに魔術の才はあるようだが、あの魔導書は手に余るであろう」


 自身が魔術師であることをいとも簡単に悟られ、その上実力さえも一瞬で看破されたことで、老人は目を見開いて見るからにたじろいだ。彼の深い紺色の瞳に激しい動揺の色が混じる。


 出入り口を長身の体で塞がれ、逃げようにも末恐ろしいほどの魔力の波動が老人にそれを躊躇わせた。老人から見て右奥にある木枠の窓もそれほど大きいものではなく、そこに嵌まっているガラス戸も外の景色が見にくいほど汚れて不透明だった。


 ここで殺害されてもきっと誰にも悟られることはなく、この不審人物も難なく逃げおおせることだろう。老人は怯えながらも、どこか諦めをにおわせた表情で、自身の背後にあった戸棚の二重底から一冊の魔導書を取り出した。


 その表紙の色は厳格な青紫色。そして上位真語で書かれた本の表題は【現界の魔導書】であった。


「こ、これのことか。だが一体これをどうするつもりだ」


「お前の知ったことではない。寄越せ」


 老人が恐る恐る魔導書を渡そうとしたとき、突然カイルの背後にあった木製のドアが豪快に開いた。そして次の瞬間、刺すような鋭い殺気と共に剣が振り下ろされ、魔術師の土色の外套が、そして彼の銀色の長い髪がバサリと宙を舞い踊った。


 老人は同時に襲ってきた衝撃波で壁に押しのけられている。


 開け放たれた扉の前にいたのは鬼の形相のディルク。彼は探していた相手を一点に見据えて、油断なく剣を構えている。悪の魔術師は音と殺気で攻撃を察知し、魔力で老人を押しのけながら身を翻すことで華麗に斬撃を躱したようだ。


 そのまま魔力で老人を壁に磔にした邪悪な魔術師は、その深紅の瞳を妖艶に流してディルクを見やる。


「誰かと思えば、いつぞやの騎士団長殿か。お相手したいところだが、生憎今は忙しい」


 ディルクが止める間もなく、突如カイルの左手に現れた魔導書は、縛られた人の挿絵があるページを勝手に開き、素早く魔術を発動させた。


捕縛(バインディング)


 剣を構えた姿勢のまま、ディルクは金縛りにあったように固まって動かなくなってしまった。彼の表情から何とか体を動かそうともがいているようだが、実際は指一本たりとも動かせてはいない。


 カイルはその様子を確認してからまた振り返り、空いた右手で老人からスッと魔導書を奪い取った。するとカイルの黒い魔導書と、もう一つの老人が持っていた魔導書が同じ青紫色の閃光を放ちながら共鳴し始めた。


 そしてカイルが何事かもわからない言葉を発すると、【現界の魔導書】は青紫の淡い光の粒を散らしながら、最後には空気に溶けるように消えてしまった。


 それを見て老人は驚愕の表情を浮かべているが、未だ黒い魔力によって壁に拘束されている。一方で悪の魔術師は、用は済んだとばかりにディルクのすぐ横を優雅に通り、彼の耳元で小さく囁く。


「我の後を追いたくば、魔導書を追い求めるが良い」


 そしてフッとその身を浮かせると、扉から堂々と外に出て、空高く舞い上がりどこかへ飛んで行ってしまった。数人の街人に空を飛ぶ姿を目撃されるが、そんなことはよもや関係ないのだろう。


 とうとう邪悪な魔術師の姿が見えなくなる頃に、ディルクはようやく金縛りから解放されて老人も磔の状態を脱する。またしても何もできずに邪悪な魔術師に逃げられてディルクはずっしりと肩を落としたが、襲われた老人がいたことを思い出し彼に駆け寄った。


「大丈夫か? ご老人」


「あ、ああ。しかしあやつは一体……」


 老人は受け答えはするものの、未だ恐怖でフラフラとしていた。突然家に押し入られたあげく脅迫まがいに迫られて、大事な物を奪われたのだから無理もない。


 だがそんな老人が息つく暇もなく、街の人間がわらわらと見物に集まりだした。魔術師が出ただの、喧嘩が始まっただのと人の家の前でがやがやと騒ぎ立て始める。


 それを迷惑そうに老人が顔をしかめるので、ディルクは仕方なく老人の家にあがって敢えて乱暴に戸を閉めると、騒ぎが収まるまでお邪魔させてくださいと老人に許可をとった。

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