5-3 嵐の羽音
ガラガラガラガラ……
港町『アール』の活気ある通りを、
私とキースを乗せた荷馬車が進んでいく。
雲一つない青空にはカモメが
気持ち良さそうに空を飛び、
コバルトブルーの海は太陽の光を
反射してキラキラと輝いていた。
「はぁ~。
潮風が気持ちいいわ……。
やっぱりこの町は素敵ね。
新鮮な魚介類を食べたいから、
ここに数日は滞在したいわ!」
荷台で伸びをすると、
御者台に座っているキースが前を向いたまま、
すぐに反論してきた。
「何言ってるんだよ。
さっきも言っただろう?
長居は無用だって。
追手が迫っているんだぞ?
数日滞在なんて冗談じゃない。
数時間以内にはここを旅立ちたいのに、
お前が食料を買いだめしたいなんて言うから……」
「はいはい」
キースの小言はもう聞き飽きて
うんざりだ。
私は半ば話を聞かずに、
適当に相槌を打ち――
そこで、あるものに目を見開いた。
「キース! 止まってちょうだい!」
「うあ! な、何だよっ!?」
キースが慌てたように手綱を
グイッと引っ張る。
「お前なぁ ! 一体何なんだよ!」
ぐるりと振り返り、文句を言うキース。
「小言は結構よ!」
ひらりと荷台から降りると、
私は眼前にある屋台に向かって一直線に
駆けだした。
「お、おい!
勝手に一人で行くなって!」
キースが何やら喚いているけれど、
この際、完全に無視。
だって、美味しそうなシーフードが
網の上でジュウジュウと音を立てて
焼かれているのだから!
「こんにちは、おじさん!」
口髭を蓄えた、
恰幅の良い店主に笑顔で声をかけた。
「よぉ! いらっしゃい。
可愛いお嬢さん」
おじさんもニコニコしながら返事をしてくれる。
「え? 可愛い!?
フフッ、それほどでも……」
頬を押さえて身体をくねらせていると、
背後からキースの声が聞こえてきた。
「お世辞に決まってるだろ。
本当に単純な奴」
カチンときたけれど、
今の私はミジンコほども気にしない。
だって、何より……。
「おじさん!
そこのエビとホタテの串焼きを一本
……ううん、六本ちょうだい!」
ビシッと網の上の物を指さす。
「了解! ちょうど良い焼き加減だ!」
「お、おい!
まさか今食べる気か!?
買い出しと船の手配が最優先だろ!?
そんなの後にしろよ!」
「うるさいわね!
私が飢えたらどうなるか、
あなたもよく知ってるでしょ!」
キースを一喝している間に、
おじさんは大きな貝殻の上に
串焼きを乗せて差し出してくれた。
「ヘイお待ち!
熱いから気を付けて食えよ!」
「ありがとうございます!」
ポケットの中から、
あらかじめ錬金した金の粒……
略して『金粒』をおじさんの前に差し出した。
「お金の代わりに、こちらをどうぞ」
「このバカッ……!
むやみに錬金した物を出すなよ!」
キースが小声で文句を言うが、
今の私の食欲を止めることはできない。
「おおぅ!
こ、これは……!」
おじさんは目を丸くする。
「フッ……お釣りはいりませんよ」
ニヒルに笑うと、
私は早速屋台の前に置かれたベンチに
腰を下ろした。
串焼きを1本手に取ると、
なるべくおしとやかに口に入れる。
パクリ。
おおっ!
ぷりぷりしたエビの
なんてジューシーなこと!
ホタテも良い味を出している。
「う~ん……美味しい~!」
「おい!
いい加減にしろよ、サラ!」
全くもう……キースはうるさいなぁ。
「ねぇキース、美味しいわよ?
ほら、あなたも食べてみなさいよ。
食べさせてあげるから。
はい、あ~ん」
一本の串をキースの前に差し出した。
途端に何故か、
キースの顔が真っ赤になる。
「ばっ!ばっか野郎!
誰がそんな……!」
「あら?
いらないの?
すごく美味しいわよ?」
「……じ、自分で食う。
寄こせよ」
キースが手を伸ばしてきた。
「はい、どうぞ」
「あ、あぁ……」
キースは受け取ると、
早速串焼きを口に入れて咀嚼する。
「どう? 美味しい?」
「そ、そうだな……うまい」
「やっぱり新鮮な魚介は違うわよね~!」
「……うむ」
まんざらでもない様子で頷くキース。
二人で並んで座り、
庶民的な串焼き料理を口にする。
いつしかこれが、
私にとって当たり前の日常になっていた――
****
「あ~、美味しかった!」
串焼きを食べ終わった、その時。
パサパサ……。
不意に羽音が聞こえて見上げると、
ピンク色の鳥がこちらへ向かって
飛んできていた。
「あ! あの鳥は……!」
見ている前で、
なんとピンクの鳥は
私の左肩にチョンととまってきた。
「チチチ……」
首を傾げて、
つぶらな瞳で私を見つめてくる鳥。
なんて可愛いのかしら……。
まるで
その瞳の奥へ吸い込まれそう……。
「おい、サラ!」
キースが突然、
私の身体を激しく揺すぶった。
するとピンクの鳥は驚いて、
パサパサと飛び立つ。
「あ! ちょっと!
逃げちゃったじゃないの!」
私は慌てて、
その小鳥を追いかけて走り出した。
「おい! 待て! サラ!」
キースが後からついてくる。
「待って! どこ行くの!」
何故だろう?
どうしてあの鳥が、
こんなに気になってしまうんだろう。
どうして私は
必死に、あの鳥を追いかけているんだろう?
半ば自問自答しながら
私は一心不乱に鳥を追いかけ――
港の薄暗い倉庫の裏手まで走り、
そこでピタリと足を止めた。
「え……?」
角を曲がった、その先。
ひんやりとした日陰の中。
ララお姉様が、
いつも通り優しく微笑みながら立っていた――




