1-16 青ざめる店主と騎士キース、人生二度目の大ピンチ
「あ、あんたたち……」
オーナーが震えながら私たちを
交互に見る。
「はい?」
「何だ?」
「それを売ろうとしたのか!?
それを……!!」
店主の悲鳴が店内に響いた。
次の瞬間、空気が凍りつく。
オーナーは、おもむろに
カウンターの下から布袋を取り出した。
光り輝くルビーをそこへ放り込み
きっちりと紐で結ぶと、
怯えるような手つきでキースに突き返してきた。
「か、帰ってくれ!
ここでは、か、買い取れない!
他を当たってくれ!」
予想外な言葉に、私はカウンターを
バンバン叩きながら抗議した。
「そんな! 何でですか!?
意地悪しないで買い取ってくださいよ!
キース、言ってやって!」
「ああ、そうだ。客を選り好みするなんて、
ギルドマスターとしてやっていいことだと
思ってるのか?
俺たちは金が要る。
どうしても馬車が必要なんだよ!
四の五の言わずにとっとと買い取れ!」
キースが脅迫まがいに詰め寄ると、
オーナーは声を震わせながら叫んだ。
「俺は別にギルドマスターじゃない!
ただの組合員だ!」
そして声を潜めて周囲を伺い、
低いトーンで言った。
「……あんたたち、その様子じゃ……
この宝石の正体に気付いていないな?」
オーナーの左目が、恐怖で細くなる。
「宝石の正体って……」
まさか……本当は、
ただの石ころだと言うことがバレた!?
キースをチラリとみると、
額に薄っすら汗をかいている。
おまけによく見れば、足元は僅かに震えていた。
「いいか? この石はルビーなんかじゃない。
『ドラゴナイト』だ。
そんな恐ろしい石、買い取れるはずがないだろう!
もし、ドラゴンたちが報復に現れたら
どうしてくれるんだ!」
(え? ドラゴナイトって何?)
初めて聞く名前だ。
それに、なぜドラゴンたちが報復に来るのだろう?
私が首をかしげた隣で、
キースの顔に驚愕の色が浮かぶ。
「何だって!? ドラゴナイトだって?
そんなはずないだろう!
大体その石は……!」
言いかけて、キースが慌てたように自分の口を押さえる。
「と、とにかく帰ってくれ!
も、もう二度とこの店には来ないでくれよ!
か、金が今すぐ欲しいなら渡す! 渡すから!」
オーナーは勢いよく後ろを振り向いた。
背後には大きな金庫が置かれている。
震える手でカチャカチャと回すものの、
余程焦っているのか、
何度もミスを繰り返している。
ようやく金庫が開くと、重そうな布袋を掴み出して
机の上にダンッ!
と叩きつけてきた。
「さ、さぁ! これを渡すから、
に、二度と来るなよ!?」
いくらタダという言葉に弱い私でも、
流石にこれは気が引ける。
「そんな、タダで貰うわけには……」
「い、いいから黙って受け取って
さっさと出て行ってくれ!」
ガチガチ震えるオーナー。
ブツブツと小声で呟いている。
「やばい……あれはまずい……」
余程早く出て行ってもらいたいのかも。
「うーん、分かりましたよ。
でもタダで貰うわけにはいかないので、
これを置いていきますね」
私は髪飾りを外すと、カウンターの上に置いた。
「では失礼いたします。行くわよ、キース」
いまだに青ざめた顔で呆然と立ち尽くす
キースに声をかける。
「……姫、これ国を敵に回すレベルです……」
「はぁ? 何言ってるの?
ほら、早くいきましょう」
キースの背中を押すように、私たちは
店を後にした。
この時、私は気づいていなかった。
あの店で自分が重大なミスを
してしまったということに――




