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ペガサス

 宮殿の中、夫を探し回って歩いていると書斎にたどり着いた。かなり広い部屋だ。四方の壁は天井まで本がしきつめられている。古い紙のいい匂いがした。快適そうなカウチが四つ、部屋の中央をむいて置かれている。


 エドワードは2階の書棚の前で立って本を開いていた。本棚の上にはツヤツヤとした陶器の人形。金髪にブルーの瞳、ピンク色にフリルをあしらわれたドレスだ。


「探してたの。新しい馬がやってきたから」

 本から一向に目を上げようとしない夫に話しかける。


「そうか。すぐ行くよ」

 エドワードはやおら本を閉じて言った。


「ありがとう。ところでキティを見ていない?」

 妹のことを思い出してきく。


「さっきまで書斎にいたよ。でも僕が来ると本を袖の中に隠し持って出ていってしまった。キティに本は自由に借りていっていいって伝えておいて。持ち出したっていいんだから」


「わかったわ」



 エドワードは何やら厳しい顔をして書斎を出ていってしまった。


 それにしてもキティも本なんて読んでどうしたんだろう?最近ずっと姿を見かけなかったが、一日中読書していたのだろうか。


 すぐにキティが戻ってきた。私がいるとは思わなかったらしい。びっくりしたような、はにかんだような顔をしている。


「あらキティ、奇遇ねえ!読書なんてすごいわね。きっと頭いいんだわ。お姉さんなんか活字は全然ダメなのに」

 ペラペラとしゃべった。


 キティは怪訝そうな顔をする。

「でもお姉さまは1日に2冊か3冊か読んでたでしょう?それに頭いいのはお姉さまのほう!私は凡庸なんですもの」


 失敗だった。ついついクリステンが谷田りことは違って才女なのを忘れてしまう。


「あなたがボンヨウなんてことないわ。賢くてかわいいんですもの。

そう言えばエドワードがここの本を自由に持っていっていいって言ってたわ」

 慌てて言う。


「親切ね」

 キティはにっこり笑った。

「当たり前かしら。王太子さまはお姉さまにぞっこんですものね」


 私は何気なくキティの持っている本をのぞいてみた。「予言はまやかしか?—民衆心理と罪深き煽動者」と「ペガサス—疑惑の目撃者たち—」、「夢が語るもの—狂気のお告げ」、「アイザイヤの生涯—神話と史実」、「アイザイヤの予言書を読み解く」だ。5冊も分厚い書物を読破するなんて、やはりキティも凡庸なんかじゃない。



 一瞬夢の中の出来事かと思った。夜だというのに、外のテラスから歌声がするのだ。少女の透き通るような歌声だった。

 ちょっとためらってから、熟睡しているエドワードを揺り起こす。彼は目を擦りこすり、こちらを見てきた。


 私たちはガウンを羽織り、できるだけ音を立てないようにテラスに出た。


 少女はテラスの先に立って歌っている。薄紫のチュール生地の衣服が夜風になびいていた。シルバーブロンドの髪に白く美しい肌。


「キティだわ!」

 私は驚いて言った。


 こんな真夜中に何をやっているのか。キティらしくない。


「キティ!お姉さまよ!」

 わたしはちょっと声を張り上げた。


「シッ!クリステン、無駄だよ。キティは夢遊病なんだ」

 エドワードが私の手をつかんで言う。


 キティはまもなく、美しく、どこか物悲しいメロディーの歌を歌い始めた。


「翼を授けられし者から、翼を折られし者へ

乙女らは歌う

塔の上へ行きて

王子を救え、と

王子は悪からよみがえりて、

正義を行うだろう……」


 やがて、夜空に一点白い星が現れた。白い星はどんどん大きくなる。


「まあ、ペガサスよ!」


 星が白い、きらきらと輝くペガサスとなったのだ!


 天馬はまっすぐキティの前へ降りてきた。キティがゆっくりと近づき、馬首を撫でる。ペガサスがいなないて、旋回し、お尻を向けた。キティに背中に乗るよう言っているのだ。


 少女は軽やかにペガサスの背に乗った。ペガサスが勢いよく、宙を駆けてゆく。


「デズモンドのところへ行くんだ!追わないと。まさか彼女だったなんて」

 エドワードが叫んだ。


 わたしは何をすべきかわかっていた。天馬は馬で追っていては見失ってしまう。


 だからキティと同じ歌を歌った。もう一頭のペガサスが夜空の遠くからやってくるのが見えた。

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