ブレスレットの行方
「なんだい、その辛気くさい顔は」
そう言ってアマンダはアリアをじろっと見た。
「…だって、あのジョージが私に贈り物だなんて…。何か裏があるんじゃないかって思うのが自然よ」
アリアはリビングでゴロゴロしながらジョージから貰った美しいブレスレットを眺めた。光が当たるとキラキラと青く輝いている。アリアは結局あの後、ジョージから貰ったブレスレットをどうすることも出来ず、家に持ち帰っていた。
「本当にどういうつもりなのかしら…」
「どういうつもりって…そのままだろうよ」
「…そのまま?」
「だから、あんたに渡したかったんだろ。あの小僧がそれを使ってあんたを貶めようなんて回りくどいこと、するほどのおつむを持ってると思うかい?」
「…思わない」
「だろ?考え過ぎなんだよ、あんたは。まぁ、確かにあの小僧の日頃の行いは最悪だがね」
そう言うとアマンダは仕事部屋へと行ってしまった。
「…そのまま…かぁ」
アマンダの言う通り、ジョージはただアリアにブレスレットを渡したかっただけかもしれない。
(…ん?でも、なんで私に?いつも意地悪ばっかりしてくるのに…)
「…あー!もう分かんない!頭がグルグルしてきたわ…」
アリアはジョージの不可解な行動にひどく混乱していた。自分をいつも馬鹿にしてくるジョージがこんなに綺麗なプレゼントをくれるはずがない。アリアの頭はジョージ(の奇行)のことでいっぱいだった。
ーーグリグリグリ
「んー?どーしたの?」
アリアがリビングで一人悶々と考えていると、ルーとウィーがアリアの身体に額をぐりぐりと押し付けてきた。アリアがそんな彼らの頭をよしよしと撫で回すと、二匹は気持ち良さそうに目を細めた。
「そういえば、あなたたち、今までどこにいたの?私が家に帰ったら、いつも出迎えてくれるのに」
アリアが拗ねるふりをして頬をふくらますと、ルーフスとウィオラは「ごめんね」と言うようにアリアの手をペロペロと舐めた。 アリアはそんな彼らをどうしようもなくいとおしく思って、二匹をぎゅっと抱き締めた。そうすると彼らは甘えるように「クゥン」と鳴いた。
彼女はこの二匹と一緒にいる時間が今までの中で一番好きだった。
彼らは凶暴なはずの狼なのに、アリアにとても懐き、こうやって甘えてくる。出会ってたった一ヶ月なのに、アリアにとってかけがえのない存在になっている。二匹を抱くだけで、心の奥がじわじわと温かくなっていく。本当に不思議な感覚だった。
「……離れたく…ないよ」
アリアは無意識にそう溢した。
ーーその時、二匹がその呟きを聞いていたことに、アリアが気づくことはなかった。
「…ないわ…」
アリアは非常に焦っていた。ジョージから貰ったブレスレットがなくなったのだ。
「私、どこにやっちゃったのかしら…」
アリアは子狼たちを構いたおした後、ジョージのプレゼントの意図をひとまず考えないことにして、一応お礼のクッキーを焼いた。
ラッピングをして明日、ジョージに渡そうなどとボーッと考えていたら、アマンダがキッチンにやってきた。
「ふーん、クッキーか。渡すのかい?」
アマンダがニヤニヤしながら聞いてくるので、アリアは顔をみるみる赤くした。
「べ、別に彼を見直したとか、そんなんじゃないわ!あ、あんなに綺麗なブレスレットを貰って、何も返さない訳にはいかないじゃない!」
「別にわたしゃ、``ジョージに``なんて一言も言ってないけどねぇ」
そう言ってアマンダはさらに笑みを深めた。アリアは顔をさらに赤くさせて口を結んだ。
「キャンキャンッ」
「わっ!」
祖母とそんなやり取りをやっていたアリアの元に再び黒い二匹がやって来て、彼女に飛びついた。その反動でアリアは若干ふらついたが、なんとか二匹をキャッチした。今日はかまってもらいたい日なのだろうか。
「ふーん、そいつらも随分とあんたに懐いたもんだね」
二つの黒はアリアの胸の中でアマンダをじろりと見た。
「…まぁ、いいさ。きっとあの小僧も喜ぶよ。それにあのブレスレットも、あいつにしては、なかなかのセンスだったしね。大事にしておやり」
「…うん」
アマンダはそんな孫の頭を優しく撫でながら、自分に鋭い視線を送っている二匹をちらっと見た。
「ま、せいぜい無くさないようにちゃんと管理するんだね 」
(無くさないように………っ!)
「あ、…」
「ん?なんだい?」
「わ、私……」
ーーブレスレット、どこにやったっけ…
なんていう話の流れでブレスレットがなくなっていることに気づいたアリアは家中を探し回ったがどこにも見つからず、途方に暮れていた。
「…貰ってすぐなくすとか…私、最悪なヤツだわ…」
アリアは半泣きだった。アマンダも探してやろうと言ってくれたが、彼女は仕事で忙しいので、申し訳なくてアリアから断った。
今日、家に帰ってから入った部屋は全て見ているし、もはやアリアに探す場所はない。
「ジョージになんて言おう…。これじゃ顔向け出来ないわ…」
そんなアリアを慰めるようにルーとウィーは彼女に身体を押し付けたり、舐めたりした。
「…ありがとう……うぅ」
そんな彼らの行動にアリアはとうとう泣き出してしまった。この二匹といると、なんだか感情が抑えきれなくなってしまう。
めそめそと泣くアリアの涙を子狼たちは丁寧に舐めあげると、自分たちがいつもアリアにしてもらっているキスのように、彼女の顔に鼻先をくっつけた。
アリアを見るその瞳はどろどろに蕩けきっていた。
「ちょっと、アリア…!どうしたんだい?そんなに泣いて…」
アマンダがちょうど畑仕事から帰って来たら、自分の孫が泣いていた。そして、その孫にぴっとりとくっつく二つの黒を見た。アマンダは一瞬、この黒がアリアを呑み込んでしまっているかのように見えた。
「…アリア、ほら」
アマンダはそう言うと、アリアにハンカチを渡し、涙を拭かせた。子狼らが自分のことをぎろりと睨んだ気がしたが、気にしないことにした。
アマンダはアリアが泣いているところを見てひどく驚いていた。孫は、どんな時でも気丈に振る舞って、泣くことはほとんどないのだ。
「…なんで泣いてるんだい?」
「…ブ、ブレスレットがぁ…見つからなくて…ぅう…ど、どうして…いいか、分からなくなって…ぅ」
「そうか…結局見つからなかったんだね…」
アリアは小さく頷くと、ずびっと鼻を啜った。
「見つからないもんはしょうがないさ。明日、ジョージのとこに行って、ちゃんと謝ってくんだよ。今日焼いたクッキーも一緒に持っていってさ」
祖母の言葉にアリアは、また頷いた。
「よし。今日の晩飯は特別に私が、あんたの好きなもんを作ってやるよ。だから、飯ができるまでにそのぐずぐずの顔をどうにかしてきな」
「…お、おばあちゃん…ありがとう…ぅ」
そう言ってアリアはアマンダに飛び付いた。
アリアは晩御飯を食べ終わった後、祖母に「今日は早く寝な」と言われたため、自室に居た。
ルーフスとウィオラはもうすでに自分たちの寝床に居り、眠っているようだった。
「…本当にどこにいっちゃったのかしら…」
アリアはそう呟きながら窓の外を見つめた。
昼間、晴れていたためか、空にはたくさんの星がキラキラと輝き、アリアの青い目をいっぱいにした。
「…綺麗」
その言葉はアリアが子狼たちに頻繁に使っている言葉であり、最近の彼女の口癖だった。
ふと、アリアは視界の端にキラリと光る不思議なものを見た気がした。
空ではなく、地面に。
アリアは目を凝らした。そしてもしかして、と思うと弾かれたように自分の部屋を出た。
アリアは外に出て、自分の部屋の前のあたりの庭を地面に目を集中させながら歩いた。
キラッ
何かが光ったのを認めたアリアは光の元まで行き、それを拾い上げた。それは、青く美しく光る石だった。
そして、さらに目を細めて辺りを見回すと、その石はあちこちに転がっていた。
アリアはそれらを全て広い集め、信じられない気持ちでいっぱいになった。
その石は、確かにあのブレスレットの石だったのだ。
「どうして、こんなところに…」
無残になったブレスレットだったものを握りしめながら、あまりの不思議な出来事にアリアは頭を悩ませた。
庭に佇むアリアに、空からの美しく綺麗な星の光が降り注いだ。




