赤と赤紫
ーーチュン、チュン
モゾッ…
(……まぶしい……)
アリアの顔にはカーテンの間から漏れる朝日がかかっていた。
(もう、起きなきゃ…)
「あら、もう起きて大丈夫なのかい?」
アリアがリビングへ行くと祖母が朝食のトーストをかじっていた。
「えぇ、大丈夫よ。薬のおかげで熱もないし」
「そりゃ、よかった」
昨日の晩は、あのまま自分の部屋に行くと、ばったりと眠ってしまった。薬の副作用もあるかもしれないが、多分疲れていたのだろう。
アリアはキッチンに行き、祖母と同じようにトーストを食べるべく、パンをトースターに入れた。昨日、晩ご飯を食べずに寝たためお腹がペコペコだ。そういえば、
(…あの子たちのご飯はどうしようかしら…)
「おばあちゃん。狼って何を食べるのかしら?やっぱりお肉?」
「肉も食べるとは思うが、木の実とか果物も食べれるんじゃないかね。ま、本当にそうかは分からん。なんせ、狼なんぞ飼うやつはどこにもいないからね」
まったくその通りである。
「あんた、それを食べ終わったら、あの子たちをどうにかしな」
「どうにか、って?」
「あんたが言う、食い物もそうだが、寝床とかのことさ。そりゃ、ずっと治療室に置いておくことはできないよ。なんせ、子供といえども狼だ。患者が嫌がるだろう」
確かに祖母の言う通りだ。狼などの肉食の獣は、家畜を食べたりするし、まれに人間を襲ったりするものだから忌み嫌われる。アリア自身も出会った時は正直、少し怖かった。
あれ、でもおばあちゃんは、とアリアは思った。昨日、アリアが血だらけで帰ってきたとき、祖母は確かに驚き戸惑っていたが、あの子たちが狼だという理由だけで嫌がったりはしなかった。子狼の一匹が、暴れて噛みつこうとしたことに対して怒っただけである。
アリアは祖母の優しさを改めて感じた。
「何か困ったことがあったら言いな。今日の手伝いはいいから、あの子たちのことを優先しな」
「分かったわ」
「先ずは、寝るところかしら。治療室には、いつまでもいられないみたいだし」
そういえば、古い枕が何個かあった気がする。来客用だったが、こんな辺鄙な村に来るような人はなかなかいないため、ほとんど使用されていない状態だ。
「…よしっ」
ーーガチャ
「おはよう!起きて!朝よ」
アリアが元気よく治療室の扉を開けると、もうすでに二匹は起きていた。そして、二匹ともアリアをじっと見つめていた。
(…この子の目もすごく綺麗…!)
昨日、怪我をした子狼は苦しそうに目を閉じていたため、その色彩を見ることはできなかった。つまり、今初めてお目にかけることができたのだ。
(この子は赤に少し紫が混じって、なんだか神秘的な感じね)
アリアに美しいものを集める趣味だとかそういうものはないが、美しいものに対して全く興味がないわけじゃない。しかし、彼女はここまでに心動かされるものを見たことがなかった。
(…ってボーっとしてる場合じゃないわ)
「体調はどうかしら。昨日よりは良さそうだけど」
「今日は、ちょっとした引っ越しをして貰うわ。私の部屋にね」
二匹の狼は、アリアの言葉を静かに聞いていた。そして、理解したのか、もぞもぞと動きだした。
「あら、あなたは怪我をしているのだから、動かなくていいわ」
そう言うと、アリアは怪我をした黒をゆっくりと抱き上げた。一方、狼のほうも特に抵抗することなくアリアを受け入れていた。ちなみに、もう片方の黒は、アリアの左腕をちらちらと見ていた。
「行きましょうか」
それから、アリアは二匹を自分の部屋に連れていき、二つの大きめの枕を指さして、それで寝るようにと言った。二匹もふかふかの枕が気に入った様子だ。
二匹のご飯に関しても、祖母の言った通り木の実や果物も食べられるようだった。
そして、狼をタオルで綺麗に拭いてやり、薬を塗って新しい包帯もつけ直してやった。もう片方もひどく汚れていたのでゴシゴシと身体を拭いてやった(初めは、嫌がって逃げようとしたが、時間の無駄だと分かると大人しく拭かれていた)。そうして、狼たちと過ごしているうちに、外は暗くなっていた。
「大丈夫だったかい?」
アマンダは若干、心配げに聞いた。
「えぇ、二匹ともとってもいい子だったわ」
「…そうか、よかったね」
そう言って、アマンダは少しだけ笑った。
(…おばあちゃんがデレた…)
今日はひどく忙しかったし大変だったが、昨日のような疲労感はなかった。むしろあの二匹と触れあえたことがとても嬉しい。そう思って自室のドアを開けた。もう二匹は寝たのだろうか。とても静かだった。
(…もう、寝よう)
そう思ってアリアは二匹の元へ行くと、その小さな頭にチュ、チュ、っと二つキスをおとして優しく「おやすみ」と言うと、自分のベッドに潜り込んだ。
スゥスゥとアリアの寝息が聞こえる暗い部屋の中、二対の赤と赤紫の光がアリアをじっと見つめていた。