1話 プロローグ 私は救世主として創られた
私は『救世主』として創られた。
遥か昔、お伽噺とも言える言い伝えに出てくる3博士。あらゆる知識を持つ賢者であり、世界の理を捻じ曲げる大魔法使いにして、不老の3人。知、技、力とそれぞれ呼ばれる偉大なる存在に。
彼らは混沌たる地球の希望になる救世主を作ろうと画策したのだ。
3博士がこれまで集めた希少な触媒を使い、儀式魔法を駆使して、魔なる力が最高に高まる日食の日、清らかなる男女からもらった遺伝子により体外受精を行い、聖なる力が最高に高まる月食の日に産まれた。アホみたいな大量の魔力を持つ身体になっていたそうな。
そうして名を与えられ、地球の『救世主』へと祀り上げられた。私の格はそうして創られた。魔法において、格というものは存在を昇華させる。『救世主』は私を人を超えた存在へと創り上げたのだ。
0歳。古今東西の英霊を憑依させられて、戦闘や科学、黒魔法、神聖魔法、あらゆる知識を無理やり記憶させられた。ほとんどは古い知識であり役に立つことはなかったけれども。ホモ・サピエンス最初の炎の作り手とかどんだけ適当に英霊を憑依させてるんだ。もっと選り抜いた英霊にしてほしかった。
1歳。善人の魂がほとんどなくなり、維持費だけで大赤字となる地球から撤退した天界の次元の扉を無理やり開けて入り、神聖浴をして肉体を強化した。天使たちは次元の扉を壊してしまい、もう二度と来るなと怒っていた。赤ん坊にとってキラキラ輝く羽根や輪っかは毟りたくなるのだから、許してほしいのに。
そして地球は神に見捨てられた。
2歳。質の悪い悪人の魂が大量に流れ込みデフレを起こすからと、地球を捨てた魔界の次元扉を無理やり開けて、瘴気浴をして、精神を鍛えた。悪魔は扉が開いている間にデフレが大きく進んだと泣いてしまい次元の扉を消滅させた。幼児にとっては、角や鱗はカッコいいから宝物として集めたかっただけなのに。
なぜか悪魔は地球を完全に相手にするのをやめた。
3歳。地球は架空の中でしかファンタジーを信じなくなったため、妖精たちが地球に入れなくなった妖精界は特殊で、次元の扉は開きっぱなしだった。ピクシーと悪戯を楽しみ、エルフに愛でられて、ドワーフに美味しいものをたくさんもらった。様々な貴重な素材ももらえて妖精界は最高だった。
4歳。幻界の住人が妖精界に悪さしていたので、皆へのお礼に幻獣たちに少しお仕置きをしたら、幻界のアンタッチャブルと呼ばれるようになった。戦闘経験を積めて良かった。
5歳。3博士は私に救世主たる活動をする時が来たと偉そうに言ってきた。3博士のお陰で生まれたんだし、お礼をするのもよいだろうと考えて、活動を開始した。
私はその頃から魔法の素晴らしさに目覚め、とても愛していた。地球の皆にも魔法の素晴らしさを知ってほしかった。
科学一辺倒の世界を魔法科学という魔法を融合させた世界にしたくなった。
なので、『魔導スマートフォン』を作成した。電子精霊を宿し、魔力によりネットワークにあるデータならセキュリティ関係なく全てアクセス可能、電子マネーも無料で課金し放題。課金厨が垂涎する画期的なスマートフォンを作り上げたと自負したものだ。
『こんなものを作ったら、電子データでやりとりをしている地球の経済は破綻して世界は滅びてしまう。そもそもこれでは魔法使いしか使えないから、却下』
電子関連の大企業を持つ知の博士が私の渾身の作品をあっさりと壊した。半年間もかけて作ったものを壊すとは酷いと泣いたけど、たしかにやりすぎだったかもと反省して、博士の持つ企業のデータを消去するくらいで終わらせた。
6歳。反省した私は万民が助かるようにと『魔力発電所』を製作した。これも魔力で充電しなければならないが、クリーンであり、地球の魔法使いは千人近くいるから、大規模発電も可能だと思ったのだ。
『石油やガスを無価値にしたらどうする? それらエネルギーの売却利益で成り立っている国は崩壊し、貧困化した国が始める戦争により、世界は戦火に包まれる。却下だ!』
石油会社を持つ技の博士が頑張って作った発電所を爆破して怒っていた。たしかにエネルギー関連は複雑に絡み合って経済が回っているから、これもダメなんだと反省し、技の博士の持つ石油所を石化しておいて、この案も却下した。
7歳。あれも駄目、これも駄目となり、私は単純な世界平和を目指すことした。
即ち、戦争の抑止力となる兵器の開発である。
核兵器よりも使いやすく、小国でも大国に対抗できるようにと、『魔導ドローン』を製作した。これは核兵器すらも反射する物理反射能力と、シェルターに隠れていても貫けるビームを搭載。しかも安価であり、魔法でしか対抗できない。その上、魔法使いしか作れないので、テロリストなどの手に渡ることもない完璧な兵器だった。
これが1台あれば大統領だろうと、司令官だろうと確実に殺せる。これを小国に配布すれば、もはや戦争は起きない。世界平和万歳である。
『とにかく駄目だ!』
世界の政界を支配する闇の内閣を持つ力の博士は理由もろくに言わずに、ドローンを破棄してくれた。よく分からないけど駄目らしいので、闇の内閣の構成員全てのスキャンダルを世界に流して諦めた。
8歳。私はある結論に達した。
地球を奇跡の力で救うのは無理だと。なぜならば地球の魔力持ちは一万人にも満たず、さらには魔法使いとなると千人にも及ばない。
即ち、魔法が常識の中に存在しない地球では、科学を基盤としているため、魔法と相容れない。奇跡の力は大昔なら通用したが、今の現代社会では、AI作成乙、と呼ばれて終わりなのである。
私の夢である魔法科学の世界は決して訪れないことを悟ってしまったのだ。違った、地球を救うのは不可能だと悟ったのだ。
3博士も同じ結論に至って、もうなにも私に命令を出そうとはしなかった。もう二度とこんなことはしないと疲れ切った顔で、救世主計画は諦めたのだ。
私も救世主になるのを諦めて、魔法使いをやめた。『地球の救世主』としての格を捨てたため、代償として、ほとんどの力を失ったが後悔はなかった。
9歳から、3博士の推薦で、ある家族の養子となり、日本でニートをして暮らすこととなったのだった。
そうして12歳になった時、両親は事故で他界しており、ブラック企業に入社した義兄と暮らしていた。
全てを諦めていた。
義兄に巻き込まれるまでは。




