7-⑬ 業界人、拠点はほとんど完成
アメリカ大統領との会談はうまく進んだ。
ジャックはクルマを収納して帰ればいいのにと言っていたが、そんなことしたら公式のお土産として使えなくなるといったら日本に送ってくれることになった。
演習ついでに横須賀まで空母に載せてくるらしい。
やることがいちいち派手である。
私はジョニー、マイケルと祝杯をあげることにした。
「ありがとうふたりとも」
『こっちこそだ』
『うまくいってよかったな』
「そういえばジョニーは最初からオレたちを援助することをジャックに言ってたんだな」
『そりゃそうさ。さすがに独断であれだけのモノは流せないよ』
「心配してたんだよ。言ってくれりゃいいのに」
『万が一があるからな。ジャックのことは信頼してたが国としての判断はわからないしな』
『こいつ、いざとなったら責任を全部被って日本に来るって言ってたぞ。そのときは基地で匿ってくれってな』
『バラすなよ。あのなツバメ、それを言うならマイケルだよ。こいつアメリカから帰国命令が来ても日本に残るって決めてたぞ』
「そうだったのか。やめてくれ、泣きそうだ」
本当に泣きかけた。
最近よく泣くようになったし。
歳かなあ。
『まあ、万が一のことを考えただけだ。ジャックは大丈夫だと思ってたよ』
『結果全部うまくいったからな』
なんて人たちだよ。
そこまで信じてくれて、そこまで腹を括ってくれていたのか。
「ありがとうな。ジョニーもマイケルも。この恩は一生忘れないよ」
『言ったな! カウントダウンが終わったら魔法を教えてくれよ』
『それはいいな! 約束だ』
3人の打ち上げは楽しく続いたのだった。
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日本は今回の会談を歴史的な成果だと評した。
もちろん表の理由に対しての評価だが。
これまでとは異なり、何の見返りを求められることなくこちらの要望が通るなどこれまでにはなかったことだった。
一部野党からは平和を脅かす行為だと批判をされたが、一貫して国防と防災のためだと丁寧に説明をしてどうにか理解を得られた。
自衛隊も変わりつつある。
ややこしかった組織体も緊急時においての命令系統はシンプルにすることができた。
日本には130を超える在日アメリカ軍基地がある。
総司令官であるマイケルとはすでに懇意ではあったが、ハリソン大統領との信頼関係を万全のものにできた今、自衛隊との共同作戦もなんの支障もなく展開できる。
これで国内の備えは盤石なものとなった。
世界の終わりが来ても、アメリカと協力して立ち向かえるはずだ。
そして、アメリカも。
ただでさえ強い国が備えるのだ。
あの国は間違いなく多くの国民を守ることができるだろう。
世界を救う一手が打てたことが嬉しかった。
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そして清山はさらに機能を増やしていた。
衣料メーカーとの提携は済んでいたものの、縫製工場が手に入ってなかったのだが、やっとそれが手に入った。
難航したのは目立たず収納できる田舎であることが条件だったからだ。
技術者はすでに採用済みで来月から入居してくる。
高い壁で囲い、少し離れたところに敷地を用意しているので、工場の開放と設置には問題がないだろう。
農場ファームも全国から人が集まり農地はどんどん拡大している。
隣接していた牧場とも正式な業務提携が決定したので、敷地を拠点とつなぐ工事にも着工した。
清山はこれでほとんどの目処がたった。
東京拠点は完成し、バックアップスタッフはすでに稼働している。
あとは戦闘員や救助要員の人員配置をどうするかだけだったが、自衛隊を掌握した今であれば異動命令を出すだけで回せる。
在日米軍からも人を出してもらえることになっている。
残るは熱山だが、こちらは自衛隊の防衛研究所を使えるようになり花川くんが進捗させた。
壁の数が足りなかったのだが、防衛省が契約している特殊需要向けのフェンスの会社を活用して一気に話が進んだのだ。
といっても話は済んでいないのだが、要は来年以降に使う予定のフェンスや壁がすでにメーカーには大量にあるというのだ。
足りないところにはそこから拝借すればいいという算段だ。
その手の資材や備品などが自衛隊およびその周りの企業にはふんだんにあり、有事には事後精算で対応してもらえるそうだ。
自衛隊を経由してかなりの数を得られるだろうとの試算もできている。
食料も国は有事に備えて大量備蓄をしているし、それも私の収納があれば死蔵させずに活用できる。
これも「知っている者」が防衛省内部に食い込んで機能したから得られた情報だ。
次々と届く「妙案の数々」に落合総理と三上幹事長も大いに喜んでいる。
ふたりが「ツバメにもういくつかが大臣を兼任させよう」と言い出したが本気そうで不安だ。
後日、「外務大臣と農林水産大臣、国土交通大臣、復興大臣の中から4つ選べ」と意味の分からないことを言ってきたので丁重にお断りした。
だが、その選択と意図は理解できるので、「有事の際の国防と防災」をテーマにした各省の垣根を越えた勉強会を防衛省主導で立ち上げた。
そこにウチの天才たちを投入して、新世界のアフタープランに組み込むことにしたのだった。