7-⑪ 業界人、反対されるがそんなことは知ったことではない
「簡潔にいいます。統合司令部の統合作戦司令官を私が兼任します。
また、統合幕僚監部の統合幕僚長に三上幹事長が着任します」
――現場が凍りついた。
「現任の方には別の職についてもらいます。ほかにいくつか人事を出しますがそれは改めて。ほとんどが民間から私が選んだ者が着任する人事となりますが………」
「ちょ、ちょっと私は何も聞いてませんよ!」
その中でひとりの男が立ち上がり発言する。
あちこちからざわめきが起きる。
――彼は確か現任の統合幕僚長だ。名は忘れた。
着任後、挨拶に来たがいい印象を持たなかった。
軽いアラートも鳴った。
外れてもらった後はそれなりな処遇でいい異動ではない。
「……言ってませんから当然です。前もってお知らせするタイミングがありませんでした。急な発令となり申し訳ありません。ですが……」
「こんな話はナシだ。あまりに勝手だ」
私は途端に冷たい目で男を見る。
「最初に伝えたと思いますが、これは内閣総理大臣の了承を得て発令する決定人事ですから……」
「どうであれ、私が外される……」
「それと!!」
私はこれまでにない強めの口調で告げる。
「ひとつ聞いておこう。自衛隊では許可なしで発言が許されるのか? それも上官が話している途中でだ!」
男は目を見開き、言葉を飲み込む。
「それが自衛隊の流儀であるならすぐに正せ。そんなことはどの企業でも当たり前の礼儀だ」
男はガタガタ震えだした。
「キミはもう退席しろ。士気に関わる」
私に付いている「身奇麗な警備」に促され、男は退席させられていった。
あーあ、途中までいい感じだったのに。
すっかり場が緊張してしまった。
「金沢防衛大臣、よろしいか」
ひとりの将校が立ち上がり発言を求めてきた。
彼は前任の統合作戦司令官の仁田さんだ。
「どうぞ、仁田さん」
「……狙いをお聞かせ願えますか?」
「簡単に考えました。有事のための備えです。有事において防衛大臣である私と、最前線で動く現場との距離を詰めたい。ひいてはその際に最高司令官となる落合総理大臣の意志を速やかに現場で発動するためだ」
「なるほど、判りました。ありがとうございます」
「……仁田さんに異論はないのですか? きちんと許可を得ての発言だ。構わないですよ」
「ありません。同じ考えです。私も現職に限界を感じておりました。国民に期待され新設された部門を預かりながらそれを活かす力がありませんでした。責任を果たせず申し訳ありませんでした。お詫びします」
「……統合司令部の発足時に仁田さんが提案したいくつもの改革案を拝見しました。感服しましたよ。それはこの新編成に活かしてあります。そしてあなたには私の直下の副司令に就いてもらうことになっている。――明日着任だ」
仁田さんは目を見開く。
驚きのあとに彼の表情が精悍なものに変わる。
「はっ! 承知いたしました! 粉骨砕身の覚悟で取り組みます!」
―――――――
その後は質疑応答に移った。
これもまず異例だったがあえて行った。
先ほどのような自己保身のような発言は皆無。
さすがは自衛隊である。そうでないとな!
人事は受け入れられた……というより、本気で有事に備えるのだという意識が強まったと思う。
常に有事に備える。
人を守りたいと強く願う。
人を守り国を守り世界を守る。
嘘偽りない私の信念は、自衛隊の信念となり、重なるのだった。
私は受け入れられた。
こうなると梅元くんが防衛大臣のハードルを下げるだけ下げてくれたのもデカいな。
あと失礼な自己保身の塊くん(名前は最後まで思い出せなかった)も役に立った。
うん、ラッキーだ。
―――――――
自衛隊の新体制は多少の混乱も生みながらそれでもその機能を高めている。
平時における利便性になど意味がないと言い切り、反対勢力は黙らせた。
明日大災害が起きるとしてそれでも機能する体制に作り直すと宣言してどんどんシンプルな構造へと作り替えていった。
常にマスコミを使って情報発信をして民意も得たのだ。
このあたりは私ならではの政策といえる。
チームから防衛省の任務についたのは、冨川と山橋さん、花川くん、家森だ。
冨川には防衛大臣政策参与を任せた。
事務方のトップだ。
私の強引な指針を政務官や事務次官などを使いこなし次々と形にしていく。
業界で名を馳せた冨川にとっては、なにかと面倒なこの界隈においての根回しも慣れれば大した障害にはならなかった。
その采配は見事だった。
山橋さんと花川くんは自衛隊の下部組織である防衛研究所に組み込んだ。
新世界を見越した天才の発想は何も知らない者には時に暴走ととられる。
山橋さんはそれをうまく取り持って次々と有効な開発を進めていった。
家森は防衛医科大学への派遣だ。
自衛隊にはほかに中央病院、そしてなりより地区病院がある。
これはとても重要な対策だ。
医療については冨川も積極関与してこれまた有事の際の対応という無敵の印籠を掲げて大胆なメスを入れていった。
ゾンビという言葉は出せないものの、大規模な有害鳥獣駆除の発生というちょっと苦しいテーマを最初の課題に挙げてエリアをまたがる事例に即応できる体制を作り上げた。
国防と防災を表の動機としながら、来る新世界に対して全世界への備えとするこのミッションは私が大臣となり優秀なチームメンバーを加えたことで一気に進んだ。
―――――――
そして自衛隊の本懐である軍備も目指しい成果をあげていた。
そもそも統合作戦司令部の創設にはアメリカの在日軍との連携強化も目的になっていた。
その点において私のホットラインが存分に活きるのがとてつもない成果につながっていった。
過去に在日米軍の総司令とここまでコミュニケーションか取れる人間はいなかったのだ。
防衛大臣としても。統合作戦司令官としても。
すぐに各所でアメリカ軍との合同演習を行うことが決定する。
大がかりなものではないが、実戦経験のない自衛隊が有事に即応できるように、マイケルとタッグを組んで、年内に可能なかぎりの演習を組み込んだ。
自衛隊の中には私のその人脈と実行力に心酔するものが増えていった。
――そして私はいまワシントンを訪れていた。
ついにアメリカ大統領、その人とのブレストが実現することなったのだ。
このことは大きく日本で報道された。
いや、させた。
万が一のことを考えた冨川が意図的に過剰にリークして私の訪問を誰もが知るイベントにしたのだ。
私を安全に戻してほしいというメッセージだった。




