6-1 業界人、押しかけられる
沢木がチームに入った。
伊東司令にアパッチとスタリオンを使っていいか聞こうと思ったが、そもそもなんでそんなものを持っているのか、アメリカから横流ししてもらったなんて言えないことに気づいたので、新世界までは封印することになった。
沢木が雨に濡れた子犬のようにしょんぼりしていたのでゴローに頼んでマスタングをあげたら元気になってた。
―――――――
「トミー、なんでオレが行かなきゃいけないんだよ」
「先方からのご指名だ。こういうのも立派な仕事だよ。しっかり打ってこい」
「ゴルフなんてもう何年もやってねえよ」
「羽山が朝5時に迎えに行くから。寝坊すんなよ」
私は湾テレ主催のゴルフコンペに参加させられた。
なんか優勝した。
ドライバーが曲がってもアイアンがシャンクしても木に当たったりでトラブルのほとんどがカバーされた。
パターも入る入る。
チップインもなんかいっぱいした。
前半後半でそれぞれホールインワンを出してニュースになった。
知らん間にミドルネームがつき一部で「金沢・ミラクル・ツバメ」と呼ばれるようになった。
いろんな意味で疲れ果てて家に帰ると引っ越し業者のトラックが駐車場を出ていくのが見えた。
「ヒカリの引っ越し今日だったのかな。言えば収納してやったのに」
そんなことを思いながら自分の部屋に入ると、ヒカリがいた。
「……なんで部屋にいる」
「きたよー! ツバメ! 今日から同棲だね!」
「なんでやねん。なぜそうなる」
「ツバメが隣の部屋に住めって言ったんだよ。あっちの部屋が空いてたからそこにしたよ」
「いやいや、隣の部屋ってそういう意味じゃないだろ。ここ203、キミ202」
「もう荷物入れちゃったし。よろしくね~♪」
「あんな大きなトラックの荷物がその部屋に入ったのか!?」
「んー? 余計なものはトランクルームに入れた」
「トランクルーム? どこの?」
「202」「帰れ」
とはいいつつも。
隣(202)にいるときは遊びに来るし、来なきゃ来ないでさみしいので呼ぶし、結局ずっと一緒にいるから同棲だった。
うん。とても楽しい。
―――――――
翌週、朝からまた引っ越し業者がきたので慌てて外に出たら沢木が隣(201)に引っ越そうとしていたので断固阻止した。
沢木は301に住むことになりまた泣いていた。
なんていいつつ。
ワンクールくらいしか住まない部屋だけど、仲間が近くにいるのはやっぱり楽しい。
ほかのメンバーにも声をかけてふたりの引っ越し祝いをしておおいに盛り上がった。
世界の終わりと戦うんだ。
たまにはこんな抜けた日(最近多め)があってもいい。
そんなことを思いながら楽しく過ごした。
その後、タクスケと、花川くんも引っ越してきた。
さすがにちょっとウザかった。
―――――――
河東さんから連絡があった。
いよいよ表と裏のツートップとの顔合わせだ。
面会には私と冨川で行くことになっている。
てっきり別々の面会かと思っていたのだが、そうではなかった。
決して相容れないふたりは、親友同士だった。
会合場所は、河東さんがほぼ毎日通う小料理屋だ。
外でご一緒するときは必ずここだ。
先日のユカリさんとの会もここだった。
仲居さんの案内で三階の個室へ。
帰りにお渡しする手土産をお店に預ける。
かなり早めに来たのだがもう河東さんは到着されてるとのこと。
だがこれもいつものことだ。
先についてお迎えせねばと思っても必ず先にいて迎えてくれる。
「ツバメ、冨川くん、よく来たね」
「本日はありがとうございます」
「よろしくお願いいたします」
「まあ、飲んで待ちましょう」
「いえ、私たちは……」
「今日は顔合わせだよ。食事とお酒を楽しもう」
河東さんの仕切りで我々も控えめにお酒をいただく。
しばらくして現れたのはテレビでもよく見た顔、自由推進党の三上幹事長だ。
慌てて立ち上がってお迎えする。
「まあまあ座りながらにしましょう」
そう言って席に着き、河東さんと一言二言言葉を交わす。
挨拶の間をつかみ損ねた我々は先に名刺を差し出されてしまう。
縦書きでシンプル。だが圧倒的。
名刺ジャンケンなら絶対負けないな。
「先に頂戴してしまい失礼しました。本日はどうぞ宜しくお願い申し上げます」
「よろしくお願いいたします」
我々の名刺も受け取っていただく。
「河東さんから後継者とうかがってます。こちらこそこれから末永くお願いします」
凛々しくも柔らかな物腰につい気を緩めそうになる。
河東さんの温かい柔らかさとはまた違う、少し心を透かされているような錯覚を覚える。
だが決して嫌なものではない。
と、挨拶が終わったタイミングで芳田さんが現れた。
醸し出す雰囲気は三上さんとは完全に別モノ。
室温が少し下がったような気さえする。
冷たい空気に我々は一瞬で凍り付く。
だがその表情は一瞬で破顔する。
「おお、河東ー! 三上ー! 元気そうじゃの!!」
ずかずかと座敷に入り空いていた席にどかりと座る。
呆気に取られた我々を尻目にふたりと握手を交わし、おもむろに空いていたグラスにビールを注ぎ呑み干す。
ここまで我々は一ミリも動けなかった。
なにより驚いたのはこのふたりを相手に河東さんが一切空気を変えずいつもの柔らかな笑顔で、それでいて呑まれることなく燦然とそこにたたずんでいることだった。
「おう、お前らが河東の秘蔵っ子か。ほったらかしで失礼したの。芳田じゃ。よろしゅう頼む」
慌てて名刺を出そうとするも手で止められた。
「こんなもんにそれはいかんよ、こっちは正真正銘のヤクザもんじゃけんの。そういうのはちゃんとした人間にだけ渡しちょけ。まぁ、今日は楽しく呑もうや!」
そういってグラスをあげてビールを呑み干すのだった。
少しの間、酒を呑み交わしていると二階から大将がいつもの桶を持って現れた。
「これじゃ、これがええんよ。河東は毎日ここなんじゃろ。羨ましいかぎりじゃのう」
「ほんとだよ。いいよなあ」
「お前たちだって普通じゃないもの食べてるだろ。オレはここの食事で生き長らえてるんだよ」
その言葉に我々は僅かに反応してしまう。
だがふたりは意に介さず笑っている。
もしかして伝えてないのかと思ったがそうではなかった。
「で、ステージはどうなんじゃ。戻ったんか?」
「戻るわけないだろなにいってんだ芳田」
「この歳だ。戻らずとも止まったんじゃないかと思うくらいに変わらないよ」
私もそれなりに強い絆があると思っていた。
いや、それなりにっていうのは謙遜で誰にも負けないとどこかで思っていた。
だがこの人たちは別次元だ。
ともに積み重ねた時間の長さなのか、あるいは別に過ごすしかなかった時間の長さなのか。
あー、負けた。勝負にならんわこれ。
緊張し続けていた私たちは目を合わせて、そして今日初めて笑ったのだった。




