5-3 業界人、森ノ島で親心をみせる
東京拠点の出来に大満足した私だったが、冨川の策略により、ヒカリと二人きりの視察ツアーはまだまだ続くのだった。
「ヒカリ、いまはどんな仕事してるんだ?」
「グループの子たちと一緒に歌とダンスのレッスン三昧だよ」
「JungleとSweetsだっけか」
「ツバメさん一応社長だよ。たまには現場にきてくれてもいいんだよ」
「そこは名義貸しの約束だからな」
「ドラマが撮り終わったからちょっとは楽になったんだけどね」
「え、秋クールだよな。まだスタート前だろ」
「もともと秋からはグループ活動の再開が決まってたから夏ドラマと並行して撮ってたんだけどね。冨川さんがプロデューサーに頼み込んで私の香盤だけさらに巻かせたみたいだよ」
「そりゃ現場も大変だな。でもヒカリがいちばん大変だったろう。がんばったな。おつかれさん」
「来週から新春の特番ドラマ撮るけどね。春の連ドラ降りたから責任果たすんだって」
「冨川らしいな。ヒカリ、倒れるなよ」
「私も納得してるよ。ケジメは大事、でしょ。ツバメさんに教わったんだよ。それに演技はこれが最後のお仕事だしね。たぶん放送は無理だろうけどさ。思い出に残すんだ」
いつも明るいヒカリは少し寂しそうに左手に見える海を眺めた。
「そうか。偉いよヒカリ」
「もっと褒めろー! ツバメさんに褒めてもらいたくて私は頑張ってるんだー!」
おそらくこの3日はとてつもなく貴重なオフで、これはヒカリへのプレゼントだ。
冨川もそうならそうと言えばいいだろうに。
半分、オレの反応を楽しんでるんだろうけどな。
でも私も協力しないとだな。
「ヒカリ、森ノ島ではゆっくりしような」
「部屋も一緒だね! 温泉も一緒に入ろうね!」
「それはない」
「えー、なんでー! 一緒がいいよお!」
ごねるヒカリをおちょくりながら、楽しいドライブは続くのだった。
―――――――
やがて熱山に到着。
手配しておいてもらったスペースにハマーを停めて少し歩いて船乗り場へ。
ここが唯一の渡島ルートだ。
世界の終わりと同時に渡航船は収納管理する。
熱山の避難民すべてを受け入れられないので、聖地化プロジェクトを口実に熱山には別途、防衛拠点をいくつか開放する計画だ。
花川くんは熱山城を使うんだと嬉しそうに話していた。
船は10キロを30分かけて森ノ島港へ。
哨戒艇ならどれくらいで着くのだろう。
ゾンビは海を渡れないといいのだが。
有名な海賊映画では海底を歩いていた気がするな。
難攻不落の島とするには港の防衛が肝になる。
大型船が停泊できる森ノ島港のほか、第二漁港には小さな漁船のほかにトレジャーボートのレンタル船が並んでいたのが見えた。
この二カ所の防壁をどう構えるか、花川くんに期待しよう。
島の外周は約10キロほど。
ほとんどが絶壁なので侵入は無理だ。
ビーチは二カ所ありそこのガードが課題になる。
桟橋に船が接岸し、私たちがタラップを降りるとオーナーたちが出迎えてくれた。
「ツバメ社長、ようこそお越しくださいました」
最初に挨拶をしてきた男性は初岡と名乗った。
この人がもともとのオーナーだな。
まるまるとした体型の穏やかな雰囲気の方だ。
M&Aでこのリゾートはツバメグループのものになったが、従業員はもちろん、オーナーにもそのまま残ってもらった。
彼はそのことにも感謝しており、我々がリニューアルに参加することを喜んでくれていると聞いている。
次に紹介されるのが熱山市長らしい。
こちらは細身で背も高く同年代に見えるがとても若々しく爽やかな印象だ。
「市長の汐田です。……ん?」
「金沢です………ってシオ!?」
「ツバメ? ツバメプロのツバメってツバメ!?」
「いやいやシオこそ市長っていつの間に!?」
なんとこれまたバスケ部同期の友人だった。
「いや名前で気づくだろ」
「昨日まで冨川さんが来るって聞いてたんや。社長に来てもらえるっていうんはさっき聞いたばかりや」
「いやいや、お二人はご友人でしたが。これまたご縁ですなあ。いいコラボになりそうですね」
初岡オーナーはとても嬉しそうだ。
日焼けしたガタイの良い人は漁港の代表で魚崎さんという方だ。
漁師をしているが、リゾート以外の島内の事業を取りまとめているそうだ。
寡黙そうな印象通りに、挨拶トークはあまり弾まなかった。
でも交わした言葉からはとても誠実な印象を受けた。
「みなさん宜しくお願いします。こちら弊社所属のヒカリです」
「はじめましてヒカリです。熱山と森ノ島を元気にしようプロジェクト、全力で盛り上げます!」
一同は拍手で迎えてくれた。
「長旅お疲れでしょう。まずはホテルでおくつろぎください。ご案内します」
送迎車で5分ほどでホテルへ。
左右に広がる扇形で全200室。
すべてがオーシャンビューで、ほかに3階には特別室が5部屋あるそうだ。
「昨年、ホテル棟のほかにグランピング施設を造られたとか。どれくらいの規模なんですか?」
「そちらは6人用のグランピングテントが10室ごさいまして、ほかに10人が泊まれるコテージが4棟ごさいます」
ホテル棟は1部屋4人として800人、グランピングエリアで100人の900人か。グランピングテントを増やせばもう少し生活できる感じか?
「こちらが本日お泊りいただく特別室でございます。3階フロアは本日一般のお客様はお断りしておりますので気兼ねなくお過ごしください」
「とんでもないVIP待遇ですね。お心遣いありがとうございます」
「当然ですよ。では夕方17時少し前にスタッフがお迎えに参ります。ミーティングのあと、19時から会食とさせてください。それまでどうぞごゆっくりお過ごしください」
―――――――
「で、なぜヒカリはここにいるんだ? キミの部屋は隣だよ」
プールで泳いでいるヒカリに声を掛ける。
「こんな広くてプールもあって半露天の温泉もあってサウナまでついてるんだよ。一人じゃつまんないよ」
「倍以上の歳の差があるとはいえホテルで独身男性と部屋に2人きりはあり得ない」
「お仕事だし、なによりもうツバメさん事務所の社長だよ。しかもフロアごと貸し切りですけど」
「……まあ言われてみれば。今日くらいはいいか」
「やったー! 一緒に泳ごうよ」
「水着もってない。なんでヒカリが持ってきてるのかも謎だよ」
「冨川さんがプール付きの部屋だからなるべくセクシーなの持っていけって。ツバメさんに見せつけてこいって言われたよ」
「あいつはバカなのか。なに考えてるんだ。ヒカリも真に受けるなよ。子どもの水着を見てもお父さんなんとも思わないからな」
冷たくそう言い放って遠くの海を眺める……フリをして、サングラス越しにしっかりトップアイドルの水着姿を堪能してしまった。
いかんぞ私。




