4-⑩ 業界人、父に逢う
ダラスから日本に戻ってからしばらくして河東さんとの約束の日になった。
私は赤坂にある事務所を訪ね、面会に臨んだ。
「金沢さん、久しぶりだね」
いつも通りの柔らかな声を聞き、心が落ち着きく。
河東さんはたしか今年で75歳。
見た目は小柄で優しそうなご老人だが、それでも背筋はしゃんとしている。
いつもはスーツだが今日は少しカジュアルなスタイルだ。
「夏のご挨拶には伺ったんですがめずらしくご不在でしたね」
「最近ちょっと夏バテ気味でね」
「お身体は大事になさってくださいよ」
河東さんはいつものように穏やかな笑顔で迎えてくれた。
おりいって話があると伝えていたので人払いもしてくれている。
「で、なにか困ったことでもあるのかな」
「本題ではないのですがその前に……。冨川から話がいったと思うのですが、訳あって出版社らしからぬことに手を貸すことになりました。河東さんには先に私からの筋が通せなかったことをまずお詫びさせてください」
私はヒカリたちの独立騒ぎについての不義理を詫びた。
「冨川さんからしっかり説明を受けたから気にせんでいいよ。金沢さんがしぱらく顔を出せなくなるとも聞いていたからね」
「急なことでしたのに河東さんにまとめていただけたおかげで難を逃れました。改めてありがとうございました」
「うん、わかった。気持ちは受け取ったよ」
自ら煎れてくださったお茶をスイカと一緒にいただく。
そして意を決して、河東さんに告げた。
「実は。ある方から少し先の未来についてお告げを聞きました」
河東さんは目を閉じて話を聞いている。
「この世の方ではありません。ですがそれは夢でもなく、間違いのない形でした。そして私はそれを信じ、その未来に向けた準備を進めています」
「……うん、わかった。なにが起きるんだい?」
「この世界が終わります」
私はすべてを伝えた。
―――――――――
「それは大変なことだ。よく話してくれた」
「信じて……いただけたのでしょうか」
「もちろんだ。ツバメの言うことだ。他がどうでも私は信じるよ」
――いつもの呼び方ではなかった。
父を亡くしてから私は密かにこの人にその姿を重ねていた。
あまりに大きく、あまりに穏やかに私を包んでくれる存在だ。
とてつもない力を持ちながら、その片鱗すら見せない。
男として、人として、私はこの人を永遠に超えることはできないだろう。
神様から授かったこの力をもってしても。
静かに、私はしばらく涙した。
やがて私は顔を上げて話を続けた。
「私は私の大切なものを守ろうと思っています。
ですが同時に手の届かない人たちにも生き残る備えをしてもらいたいと思っています。どうかお力添えいただけないでしょうか」
「いいだろう。私にできることはなんでもしよう。よく打ち明けてくれたね。ならば私もツバメに伝えておくことがある」
河東さんは静かに私の目を見つめてこう言った。
「……私は病にかかっている。おそらく、世界の終わりをみることはない」




