4-9 業界人、韓国へ飛ぶ
私は学祭時代の後輩の成くんと会うために家森と一緒に韓国を訪れていた。
到着ロビーに着くと成くんが嬉しそうに待ち構えていた。
「ツバメ! 家森! おいー、久しぶりやんけー」
今年で50を迎えたはずだが相変わらず若々しい。
身体も鍛え上げられており、どうみても30代にしかみえない。
成くんは実年齢は私より5歳年上だ。
韓国で大学を卒業したあと大きなケガで兵役にはつけず、日本の大学に留学しにきた。
当時から童顔でバスケ部の新歓コンパで初めて顔を合わせた時もてっきり年下だと思い込み、先輩風を吹かせて飲ませようとして逆に潰されたのが最初の出会いだ。
「成くん、元気か。いきなり来て悪いな」
「そんなんかまへんわ。てかツバメのニュース見たぞ。ヒカリちゃん連れてきてくれたらよかったのに。こっちでも大人気やで」
いや、実際一緒に来ようとして大変だったのだがどうにか我慢させたのだ。
「家森はなんやしばらく会わんうちにおっさんになったな!」
「成くんがおかしいんや。これでもオレかて年齢よりは若く見られるんやで」
儒教の国だからなのか、在学中は常に私たちを先輩扱いして頑なに敬語を使っていたが、卒業してようやくタメ語になった。
だが相変わらず私たちが彼に敬語を使うのは許してくれない。
「忙しいふたりが揃って会いにくるとはなにごとや。カムジャタン食べにきたんやないやろ」
「ああ、ちょっと面倒なことを相談しにきた。ゆっくりできるところで話せないか?」
「空港の隣にうちのホテルがあるんや。そこのラウンジで話そか」
―――――――――
場所を変えた私たちはそのままストレートに世界の終わりがくることを伝えた。
神様との出会い、能力のこと、ゾンビやモンスターのこと。
仲間たちとそのための準備をしていること―――。
突拍子もない話だが、何の疑いも持たずに成くんは即決した。
「わかった。手伝うで。大変やったな」
成くんはそういうと私の肩を二、三度叩いてからハグをしてくれた。
学生の時から頼もしかった成くんはキツいときにいつもこうしてくれた。
そのことを思い出し少し胸が熱くなった。
「で、なにからやればいいんや」
「実際、どうなるかわからないから正直手探りなんだ。家森が医療器具メーカで働いてるからそこのツテで家庭で手に入る類のものは集めてるけど、ほかはまだ手をつけられてない。薬はもちろん、そもそも医者がいない」
そして成くんにゾンビのことを話した。
「それは大変なことになるな。感染型によるケガなら隔離でモンスターからなら治療か。現場では対応できひんやろな」
「逆に聞きに来たんだ。なにをしたらいい?」
しばらく考えてから成くんは答えた。
「合法的なやり方ではあかんな。ツバメの能力を最大限に使うしかない。ネットで売ってる薬はアテにならん。ゆうてオレがどうにか横流ししてもその程度の量では半年も持たへんやろ」
そういうと成くんはニヤリと笑った。
「うちの病院から根こそぎ持っていけ」
―――――――
成くんの提案は驚くものだった。
「1カ月くれ。総合病院をもうひとつ作る。そこの開院準備として大量に医療器具や薬や備品を集めて詰め込んでおくからそれをまるごと持っていけ」
「「はい?」」
「あとの説明がつかんから建物だけは最後まで残しといてや。まあ最後の年末んときには建物ごと持っていけ。そん時まで何回でも中身をパンパンに詰めとくわ」
「なにゆうてんねん。そんなんめちゃくちゃや」
「そうだ。さすがにそこまでは頼めない」
「……そんなことゆうてる場合やないやろ。……あのな、医療は人の命を救うためのものや。だとしたらこれも同じや。大勢の命を救うためにやるべき大事なことや」
その言葉は私たちの胸に突き刺さる。
成くんの判断は素早く的確なものだった。
私たちが躊躇していたことをほんの数分で即決して背中を押してくれた。
「すでに患者がいる病院ではできんことや。新しく作るしかない。開院前に一度盗まれる。仕方なく開院を遅らせてまた仕入れる。その繰り返しやな。最後は建物ごと盗まれるってオチやな。大騒ぎになるやろうけどすぐ世界が終わるんや。みんなそれどころや無くなるやろ」
「……わかった。成くんありがとう。それで行こう。でも最後のターンだけは無しだ」
「どういうことや?」
「韓国でもパニックは起きるんだ。医療拠点はあるにこしたことはない。大異変が起きることが今から分かってて事前に準備できる病院なんてないだろう。世界の終わりを踏まえた構造で備えてくれ」
「なるほど。わかった。ありがとうな」
「あと金は払うからな。これは受け取ってくれよ」
「もらってもすぐ使えんようになるからいらんけどな。まあ新病院作るのにもらっとくわ。残りはジム作る金にするか。最後にジムは丸ごともっていってくれや」
そういって成くんは豪快に笑う。
大きな問題を一気に解決してくれた。
その後も些細を詰めていき、ある程度の話はまとまった。
韓国でも医者は足りなくなる。
日本の医者は日本で集めることになった。
年末の最後の強奪のタイミングで、成くんは家族やごく一部のスタッフと一緒に来日することになった。
オーナーでしかない成くんが韓国に残ってできることはそう多くないとのことだった。
成り行きに合わせての判断になるが、いつか院長たちには世界の終わりのことを教えて備えさせてやりたいというのが彼の希望だった。
―――――――
韓国をあとにした私はダラスへ飛んだ。
家森は先に日本へ帰り、すぐに計画の共有とともに準備にかかってくれることになった。
空港からゴローの運転でマイクたちが待つ場所へ移動する。
「みんな、リモートでも聞いたが順調に進んでいるようで助かったよ。ありがとうな」
『ここまではパーフェクトだな。ジョニーがうまく動いてくれてるよ。もうすぐここに来てくれるぞ』
『改めて御礼を言わなきゃな。ここに来る途中でガソリンスタンドの備蓄は全部収納したよ。ゴロー、またストック頼む」
「注文済ですよ。しっかり貯めておきます」
「日本にいろんな会社を作ったしな。大量に集めても目立たなくなるからあっちでも燃料は集めていくよ」
「ワタシの整備道具もたくさん集め直したわ。あとでマジックで持っていって!」
そこへジョニーがやってきた。
『ヘイ、ツバメ! 調子はどうだ?』
『ジョニー! あなたのおかげでとても順調だよ』
力強く握手を交わしながら胸を合わせる。
『ヘリはまずは4台手に入れたぞ。同盟国へ渡す分に新型を紛れ込ませといた。パイロットはそっちでなんとかしてくれよ』
『「それはすごいな。本当にありがたいよ。そうだ、金塊を持ってきんだ。換金は手間だが置いていくよ。そろそろ足りなくなるんじゃないか?」』
『いくら置いていったと思ってるんだ。全然足りてるよ。ジョニーが一切受け取らないからな』
『ジョニー、そろそろ受け取ってくれ。こっちが気後れしちまうよ』
『それが狙いだ。借りはニューワールドで返してくれよな』
『もちろんだ。高くつきそうだけどな』
久しぶりに顔を合わせて私は幸せな時間を過ごしたのだった。
成 鐘太
ツバメの学生時代の後輩であり、人生の先輩。
韓国で病院経営をしている。
筋肉オタクでマッチョ。




