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魔女と呼ばれた令嬢と小さな執事  作者: 翠川稜


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17 「おうちかえりたい」

 



 前世でもそうだったけど、異世界でも校長先生のお話はどうしてあんなに長いんでしょうね……とりあえず、「学校内では身分の上下はなく等しく学び~」的なお話を眠そうな感じで聞き流したわたしは教室に入る。

 なんだろう、この空気感。

 前世の学校の記憶とか朧気なんだけど、こんなんだっけ?

 学校の入学、さあ新しいお友達、でっきるかなー? そういう空気じゃないんだわ。

 さっき講堂で話してた校長先生のお話は、思いっきり建前というやつでは? さっそく名家のマウント合戦場になってるじゃんよ!

 自己紹介だって、どこそこの伯爵家とか侯爵家とか名乗ってるよ? 子爵家と男爵家の子も結構あれよ? 自信満々ですよ?

 なんでだろ?

 仕方ない、貰った教科書パラパラ見ておくか。

 しかし、この学校、教科書はなかった。

 タブレットがでてくるとは思わんかった。

 魔導工学式教材ボードっていわれてるやつを貸与されるんですよ。

 造りはあれよ、前世のタブレットまんま、教材が全部インストールされてる。

 前世じゃ学校の教科書ってさ、入学すると一気にドカーンと購入して、自宅に持って帰っていた気がするのよ。それこそ旅行トランク必須とかなるぐらいに。

 わたしはトランクがなかったから、修学旅行の特大バッグに教科書ぶち込んで肩にバッグのショルダー部をめり込ませてバスで自宅まで運んだ記憶、今思い出したわ。

 そこは宅配サービス業者と提携しろと思っていたよ。

 そんで仕様書を見て驚いたのは、これ、動力魔力じゃん! バッテリーなしで動力魔力……。

 科学ファンタジーすごくない?

 こういうの誰が作るんだろ? タブレットもどきの魔導教材ボードで時間割とか確認すると、魔導工学とかもあるのか、これか~きっとこれだわ。

 冷蔵庫とか給湯器とかないけど魔石が燃料で、それっぽいの作る――そういう領地あるんだ。へ~楽しそう~。どこの大貴族かと思ったら子爵家だよ!

 は~子爵家でもこうやって生活に浸透してる魔導具開発してればそりゃマウント合戦に参加もするか。

 あとはなんだ、薬学? 薬学とかね。

 治癒魔法が使えないもしくは来てくれない荒れた領地だけど、魔法植物の植生が凄くてそういう領地があって? そこで薬開発とかしてる領地とかもあるのか。

 あと、領地持ってない貴族で流通系を一手に担うお家もあるだ。

 ノイマン王国流通網掌握してるの男爵家かよ! ふぁ~。

 だいたいが農業、穀物畜産漁業で生計をたててる領地の中でもこういったおうちって特異なんだろうな。

 でもさ……こういったことを全部領内で統括できている貴族家がね、一つあるんだわ。


 そう、ハイドファルトじゃん。


『黒き聖域の森』から生じてくる魔獣の防衛線ラインだけじゃないんかーい!?

 これは学校の地理の教科書に載ってたんだけど、うちの家やっぱすごーい。治外法権独立国家の様相が強い。

 だから、あの大叔父様が欲しがるのかね。

 転生者で孤児院出身だから、ハイドファルト貴族家としてSUGEE今更ながらびびりちらかしてるんですけど。

 けど魔力の多さわたし歴代上位だから、わたしが次代なのは確定なんだけど。

 ぐるぐる考えてああもうダメだ。


「おうちかえりたい」


 教材ボードに顔をつっぷしてそう呟く。

「「わかる、おうち帰りたい」」

 わたしの両隣から呟くのは男子生徒と女子生徒の声だった。

 がばっと顔を上げて両隣をふるふると首を振って見比べる。

「よかった~。隣にいる子が気さくな子で安心した~なんか想像してたより雰囲気が~良家の子女とか多そうで~」

「まじそれな、もう、オレだけ場違い感凄くて~」

 よかった! 仲間がいたぞ! わたしもうんうんと首を縦に振る。

「一年間よろしくね~ミリア・フォン・アーベントロードっていうの」

「オレはリックス・フォン・バルツアー」


「わたし、ヴァルトレード・ローザ・フォン・ハイドファルトです!」


 そう名乗った瞬間、シンっと教室が静まり返った。

 どういうこと?

 両隣にいて、これから一緒によろしくね、自己紹介もしたし仲良くしてくれたら嬉しいなって思ってたのに、なんで沈黙なのさ。


「……」

「……」


 なんで?


「「よ、よろしくお願いします」」


 おい! わたしの両隣の人二名! なんで敬語なのさ!!

 なんで震えてんの⁉ ねえ、なんで!?

 たった今、この学校の爵位マウント合戦に辟易している同じ感覚の人だと思ってたよ? 仲良くなれそうな雰囲気だったよね?

 わたしがそう詰め寄ると、二人は異口同音で呟く。


「「だって……あなた……ハイドファルト……」」


 ははは~そうなのよ~田舎出身なのよ~だから王都の雰囲気は大都会って感じで~……って誤魔化してもダメそうな感じ? 

 ハイドファルト辺境領なんて治外法権の独立国家の様相で、城下町はここ王都と変わらんし、なんならでかい専門機関付属の学校だってあるやろ! とか思われてる?

 いや、それはわたしも思うから王都のこの学校にはきたくなかったんだよ。

 両隣の生徒の態度で、一気に虚無顔でスンってなった。


「……おうちかえりたい……」


 とまあ、こんな入学当日のこともありましたが、両隣の席にいるミリアとリックスは、一週間もすると、わりと普通に接してくれるようになった。

 あと、ハイドファルト領からも王都の試験を受けて入学してくる子達も何人か同じクラスにいて、声をかけてくれた。

 うちの可愛い執事が調べてくれていたように、この子達は別に貴族でもなんでもないんだけど、ハイドファルトでも、一定数の魔力を持って、この王都の学園入学試験にパスをしている子達なわけ。

 王都のこの学園のさらに上の魔法研究院の院生との交換留学~みたいな取り決めで、ここに入学しているんだそうだ。

 ハイドファルトの魔法研究機関はかなりしっかりしてるけど、この年齢の子達には、能力があるからノイマン王国の見識を広める為に選出されてるんだって。

 だから入学早々マウント合戦し派閥を作る他所の領地の子達に「あら、あなたどこのおうちの子?」なんて上から言われないように、常に一定数固まった結束ある派閥を形成している。

 毎年そうらしい。

 おまけに、今年は次代様わたしも一緒に入学したもんだから、同じ学年だけでなく上級生になったハイドファルト臣下一門の子達が、団体になって挨拶にきたんだわ。

 ちょっと迫力だよね。

 一個人として、爵位マウントとられそうな彼等(ハイドファルト出身の平民子弟)だけど、ことあるごとに団体行動をすみやかにする、その情報伝達力とか、規律とか、ある意味ちょっとした軍隊っぽいっしょ。

 入学式の校長先生のいうこと聞かないで、「うちのお家は~」をやりだす一定数の子達に対してすごい牽制になるんだそうな。

 でもこれは『黒き聖域の森』を有するハイドファルト領出身者ならばと、もう、学校内でも納得されてるんだよね。

 だからマウント合戦繰り広げてる貴族の子女も、平民でもハイドファルト領出身者に対しては下手を打つなと、そこらへんは親から言い含められてるんだろう。

 スクールカーストにおいても治外法権なハイドファルト領ってやばない?

 他所の領地の爵位はないけど魔力はあって、そこの領主が支援者として送り出す子供とは全然扱いが違うんだわ。

 ちょっと他所の領地の魔力持ちの子不憫……。

 となるけど、そこはね、やっぱ能力なりコミュ力なりではじき出されないように立ちまわるんだって。

 え~見習いたい。


「でも、ハイドファルトが支援なんてできませんよ、要は、そういう子は出身地の領主から支援されてますからね」


 同じクラスになったハイドファルト出身の女の子、リンダちゃんが説明してくれた。


「いや、別に支援とかじゃなくて、お友達になりたいだけだよ」

「ヴァルトレード様のお友達になりたい人なんて、たくさんいますよ」


 でもリンダちゃんよ。

 それってやっぱ、ハイドファルト直系っていうバックグラウンドがあるからよね。


「おうちかえりたい」


 ほんとまじで。


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