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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
砂漠と極寒城の青の書

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62/90

龍人と死神はなにを話すのか

 死神さんと私の関係はあまり多くないです。と言うか、ほぼ初対面といっても過言ではないくらいです。

 全身を黒いローブで包んでいてどんな顔なのか、どんな姿なのかが分からないと言うのもありますが……会った時も姿をチラッと拝見しただけで、本当に、どういう人なのかは分かっていません。

 あの時の私はガタガタと震えながら、身体を丸めていましたし……。今は別の意味で震えが止まりませんけれども。

 

 私がジェラルドさん……馬車から助け出されたあの時に一緒に居たところなのは覚えていますけれども、もう次の日には消えていましたし……。

 それにジェラルドさんはあまり多くを語るタイプではないですし……私も、あまり話しかけるタイプではないですし……。


 ――――ともかく、この死神さんに関してはどういう人なのか分かっていないです。


(……と言うか、なんでここに居るんでしょう?)


 し、しかも……なんで首筋にいきなり鎌の刃先を押し付けられているんですか!?

 ど、どういう状況!? これ、どういう状況?!


「――――話は、言葉は聞こえていますか? あの騎士は、どこに居るのかを、聞いているんです」


「え、えっと……あ、あのあの! 騎士さんは……」


 "私も探している途中であって、知る訳無いじゃないですか!"――――と、答えるのは簡単です。

 けれどもそれを言った後の、私の首がどうなっているかを確認しちゃうとこ、ここ、怖いです!


(そ、そうだ! さっ、ささ、さっきのチラシを見せよう! ジェラルドさんの手がかりは、これです! こ、これだけです!)


 私はそう言って、先程貰った闘技場のチラシを見せます。


「これは……闘技場のチラシ? ……この騎士みたいな戦い方をすると書かれているのは、もしやジェラルドさんの事だろうか?」


「恐らくそうだと……思い……ます……。な、なので、で、できれば……それで……」


 私が闘技場のチラシを差し出すと、彼女はそれを受け取ります。――――鎌の刃先をこちらの首筋に向けたままで。


(え、えっとあの……。も、もしかしてこのまま!?)


「ふむふむ……なるほど……」


 後ろで納得するように頷く死神さん。 


(な、なっとくしてくれたのならば……)


 けれども、鎌はそのまま……なんですね。


「確かに……このような戦い方をする錆人形は他には……でも、まさかこの国に……?」


 あ、あのぉ~。


(で、できれば……首筋の鎌をど、どけてもらえませんか?)


 人の首筋に鎌を当てたまま、考え込まないでください!

 ……そう言い切れれば楽、何でしょうが……。


 結局、彼女が考え込んでいる30分間ほど。

 私は生きた心地がしなかったです。……後ろに死神が居るから当然、といえば当然ですけど。



 死の恐怖、首筋の鋭利な鎌から解放された私はすぐさま死神さんと距離を取る。


「そんなに過度に怯えないで大丈夫よ。あなたの死は、まだまだ先だから」


 ……いや、そんな風に言われても怖いんです。

 例えるならば弓を構えた兵士が「放たないから武器を下ろせ」と物凄く睨み付けながら言って来たりだとか、殺人鬼や暗殺者が「殺しはしないよ」と笑顔で近寄って来た時のような感じです。

 首筋に鎌を押し当てていた人に何といわれても怖いものは怖いんです。

 どんなに言葉で言ったって、信用なんかできる訳がないじゃないですか!


「しかし……この国の闘技場ですか。それは厄介よね、急がないといけないわ。それも奪い返すように、闘技場を破壊するくらいの気持ちでいかないといけないわ」


「は、破壊!? え、えっとどうしてですか? 確かに急がないといけないとは思いますが……そんな大げさな……」


 場所はもう分かっているんです。後は連れ帰ってはい、おしまい。

 私はこんな危ない場所から、平穏、無事な場所に戻りたいんですけれども! それも危ない事などせず、平和的に!

 こんな危ないことはさっさと、そして的確に終わらせるのに限ります!


「――――良い? この国は砂漠しかないような、人間が住めない場所でどうにかして住めるレベルまで改善した土地。

 そして闘技場はこの砂漠しかないような国の住人が、毎日溜めこんでいる暑さや人生の不満。それを戦いと言う熱気の興奮によって晴らす場所よ」


 た、たしかにこの国は今までの世界(ヴォルテックシア)に比べたら暑い……方ではありますが……。

 暑さに(多少……かな?)強い私でもちょっと暑いと感じるようなこの国です。常に暮らしている人にとってはもっと暑さに参っているのかもしれません。


「……そしてジェラルドは強い、本来ならば弱い錆人形という魔物。

 人間が戦いで一番興奮する時って、どういう試合か分かる?」


「い、いえ……わ、分かりません……ひっ!? す、すいませんすいませんすいませんすいません! 知ってなくてごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!」


 謝りますから! だからその鎌をこちらに向けないでください! さっきの恐怖がまた襲ってきます……。


「番狂わせや巨人殺し(ジャイアントキリング)……弱い者が強者に勝つ試合……本来ならば強いのが勝つのに、弱い者と判断していた方が勝つような試合よ。そう言う時、人々は特に興奮するの」


「た、確かに……そ、そういう試合は面白そう……でありますね……」


 結果が分かっている試合より、どうなるか分からない試合の方が面白い。

 ……勿論、「見ている方で」という部分も付け加えてだけど……。


「そしてジェラルドは最初の方はこれで良かったのよ。

 "錆人形が強い魔物や人間を倒す"、それを見て面白がる人間は大勢居る。そして少なくとも……ジェラルドの戦い方は見苦しい戦いではなく、人を惹きつける戦い方。闘技場(うんえい)側からしても、人々の熱気を高める魔物を簡単には始末しない。彼の安全は少なくともその面では保障されている」


「え、えっと今の話……どこが問題だったりするのでしょうか……。私にはちょっと分からないんですけれども……」


 その話で、どうして闘技場を破壊するレベルでいかないといけないんでしょうか。私には分かりません……。


「――――けれども彼は有名に、スターになってしまった。その証拠がこのチラシよ。

 大々的に名前が載るくらいにまで、彼は自身の強さをこの国の、闘技場の人達に見せつけてしまった」


「ジェラルドさんが強いと……なんか……悪いんですか?」


「言ったでしょ、人間が一番好むのは"番狂わせと巨人殺し、人々が想定しないような結末だ"って?」


 「忘れたの?」とあきれるような顔でこちらを見る死神さんに、何度も頭を下げる私。

 ごめんなさいごめんなさい、と何度も、何度も、頭を下げて、私の、心からの謝罪を行う。


「……謝らなくても良いわ。とりあえず、言ったでしょ? 人間は予想外が好きなの、安定して絶対に勝利する者など、闘技場には無用の存在よ。それが魔物ならなおさらね。

 もしこれで、勇者とかそう言う感じの、強い人を倒してたら決定的ね。

 闘技場は……ジェラルドを排除しようとするでしょう。人々が盛り上がるために、娯楽のために」


 ただ戦うだけではいけない。

 そこに娯楽が、人々が楽しめるものがないといけない。


 しかし人間は贅沢な生き物なのだ。

 最初こそは興奮する。しかしそれが3回、4回と段々数を増す事で慣れていき、さらに同じような状況でも、最初は興奮したような状況でも、つまらないと駄々をこねる。


 この国の闘技場には、長く勝ち続けるチャンピオンは要らない。

 ――――人々が最も興奮するように、いつでも新鮮な気持ちで見て貰うために、邪魔なものを排除しようとするだろう。


「――――だから早々に向かわないといけないわ。

 闘技場に住まう人の皮を被った、娯楽に飢えた怪物達から、人形の中に入った気高き1人の人間を」


 そう語る死神さんは、本当に心配しているような眼で遠くを見ていました。


「――――私は行くわ、彼を救い出さないと」


「死神さん……どうしてそこまで……」


 なにか特別な、なにかがあるのでしょうか?


 ――――怯えてばかりいるだけの私には分からない、2人の間にあるなにかが……。

よろしければご意見、ご感想をくれると嬉しいです。

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