騎士はどう攻めかねているのか
『さぁぁぁぁ、始まりましたぁぁぁぁ! 水の国シュトルーデルカで一番熱い、熱気に包まれたこのコロッセオぉぉぉぉ!
この世界で最も過激で、刺激的な、この場所で、最高の2枚のジョーカーが今、生まれましたぁぁぁぁ! 彼らの名はミスター・サビ! もう1人の名前はノット・メギツ!
果たして、どちらが勝つのか! 歴史に名を刻むのはどちらか! 果たしてぇぇぇぇ、どうなるのかぁぁぁぁ!』
甲高く響き渡る司会者の声。それに反比例するかのように、闘技場――――2人の戦士の間は静寂に包まれていた。
戦いにおいて、最初の一撃と言うのは重要だ。
例えば相手が縦に斬ろうとしているのを確認すればそれを把握して防いで反撃すれば良いし、後ろに下がるのならば追撃すれば良い。全ては相手が最初の一撃をどうするかによって、勝敗の8割が決まると言っても過言ではない。
――――だから2人は動かない。相手がどうするかをきちんと把握するために。
これが本当の実戦ならば相手がどうするかを頭の中で吟味し、じりじりと戦い合うのも待つ。それも1つの戦法の1つである。
――――これが本当の実戦ならば、である。
『おやおやぁ~? 全然戦いが始まりませんねぇぇぇぇ? これは一体どうした事だぁぁぁぁ?』
司会の人の煽るような声、そして煽られた観客の人達の動揺する声。
ざわめきはどんどん大きさを増して行き、動揺はどんどんと広がっていき、会場を支配していった。
「……ふっ、せっかちなお客様ばかりだな」
黒い鎧で全身を包んだノット・メギツは長い槍をこちらに向けると、そのまま姿勢を低く身構える。
「戦いに身を置く者としては、この瞬間瞬間を楽しみたいところだがな。この良い緊張感は、後数時間は味わっていたい。だが、これは戦いではない。娯楽なのだ。だから――――」
メギツが言いきる前に彼の身体がブレる。消えたと言っても良い。
「――――一瞬で終わるなよ?」
(なにっ!?)
気付いたその瞬間には、メギツは俺の目の前に座り込み、槍を構えていた。
「せいっ!」
下から攻撃するように陣取ったメギツの狙いは、顎。
人間の身体の中で、戦いにおいて相手の死角を突く場所の1つに、メギツは一瞬で最高速度に達する槍を持って、こちらに向かって来た。
「……ほぅ、この攻撃を防ぐとはやるね。騎士人形――――いや騎士様と呼ぶべきか」
槍を防ぐのに、剣では時間が足りなかった。だから俺は首を曲げて、刃を防いでいた。
真剣白羽取りの首版、とでも言うべきだろうか。勿論、人間の柔らかい肌では出来ない、人形の鋼の身体だからこそ出来るのだが。
(しかし驚いた。もしこれが実戦の、この身体でなければ負けていたな)
てっきりあんなに重そうな鎧を着込んでいるから重たい一撃を得意とする、重量系の戦いをする者だと思っていた。
けれども、それは違った。
あの鎧を着込んであれだけのスピード、きっと恐ろしく力が強いのだろう。
目にも止まらない、一瞬で相手を戦闘に追い込むパワーとスピードの両方を兼ね揃えた者。
――――それがこの、ノット・メギツの戦い方なのだろう。
(……厄介だな。どう言う戦闘手段か知れても戦い方が、対処方法が見えてこない)
炎や水など強力な魔法攻撃を放って来たり、相手の攻撃を意外な形で対処して来たりと、そのような戦い方で来るのであれば観客に見つからないように、戦いに有利になるような魔物の身体を取り付ければ良いと思っていた。
けれども、今回のようなノット・メギツに対してはその方法は得策とは言えないみたいである。
一瞬で相手を死角から、急所目掛けて一気に来る攻撃。
重厚感の強そうな黒い鎧を全身に着込み、目にも止まらぬスピード。
これには明確な対処方法がない。スピードを上げようにも限度があるし、その上あの硬い鎧を破るほどの攻撃力も出さなくてはならない。
(流石はドラゴンの首を斬り落した、と紹介にあっただけの事はある。それだけの力はきちんと持ち合わせているようだ)
これだけの力を持つ者と戦えるとは、武の道を歩んでいる者としては嬉しい限りだ。
――――ならば、こちらもそれに応えよう。
トンッ、と俺は右足で地面を蹴るとそのまま左足で地面を強く蹴り上げる。
あの猛スピードで移動するメギツにスピードで追いつけるとは思えない。ならば、一瞬だけで良い。あのスピードに追い付ければ良い。
(ただ、高速で移動しても驚きはしないだろうな)
高速で移動する生物は、多くの場合において眼が高速で移動する事に慣れている。
折角、高速で動けるのにも関わらず止まっている相手がちゃんと見えなければ意味はない。スピードを武器にする戦士ならなおの事だ。
だからスピードを自分の物としている者は、高速で移動しても物事をちゃんと見える眼を持っている。
『おおっと、これはどうした事だァァァァ! 2人の姿が消えたぁぁぁぁ!? いや、見えないほどの高速で移動しているのか! これは、凄まじい戦いだぁぁぁぁ!』
「「「「わぁぁー!」」」」
盛り上げる観客、煽る司会。彼らはこのまま超スピード同士の戦いになると思っているのだろう。
――――しかし、そうはならない。
『おおっと、飛んだぁぁぁぁ!』
「…………!?」
速度対決――――平面上での戦いに関して言えば、メギツに分があるだろう。
しかし跳び上がって高さも含めれば、また戦い方も変わって来るだろう。
「しかし跳び上がったら、そう易々と避けられないだろう! 奥儀、槍連撃!」
そう言ってメギツは槍を構え、先程の猛スピードと同じ、いやそれ以上の速さで槍を振るう。
槍を突き、戻し、再び突く。ただそれだけだが、このスピードならばそれも物凄い勢いで1つの奥義となる。1本の槍が、勢いによって複数の槍で突いているように見える。
ただ、槍の数は増えない。
どれだけ槍を高速で振るおうと、何本もあるように見えても、結局は槍は1本のままだ。
俺はその激しい勢いで振るわれる槍、その上に脚を載せる。
1本の槍で複数の幻影を作り上げるように見せる、だがそれでも槍の数は増えない。
そして、武器の上と言うのは絶好の位置取りである。
「シャアッ!」
人間である事がバレると色々と面倒な事になるかも知れない。だから出来る限りモンスターである事を意識するような声をあげて、剣を振るう。
しかし全身を黒い鎧で包んでいるのであまり効果はない。
「その位置取りは見事。だが、それではダメージにならないし、我は倒せぬぞ!」
(だろうな、その鎧では多少のダメージしか与えられないな……。だけれども、これならどうだ!)
俺は片足を槍に強く載せて、そのままもう片方の足でメギツの兜を全力で蹴る。
金属の脚は全力で蹴ったとしても左程痛みはせず、蹴られたメギツはと言うとフラフラとその場で頭を振っていた。
『おおっと!? 兜を蹴られてしまってぇぇぇぇ、メギツはフラフラになってしまったようだぁぁぁぁ!? ミスター・サビのチャンス、到来かぁぁぁぁ?』
確かにチャンスではある。今が攻め時と言えるべきかもしれない。
けれども、今は攻撃する時期ではない。攻撃よりも大事なことがある。
――――どうやって、このメギツと戦うかを考える事が大切である。追撃するよりも、そちらの方が大事だ。
(さて、どうするべきか……)
兜を蹴って頭を混乱する戦法と、槍の上に陣取る戦法――――この2つは奇策みたいなものであり、二度目や三度目は通じないだろう。
それに鎧の隙間に剣を挿し込むのも、あの凄まじい速度だと狭い隙間に入れるのは難しい。強い衝撃を与えても、完全に気絶させるにはいたらなかったみたいである。これも改良を加えないと戦法としてはまだ弱いだろう。
(どうすれば良い……? どれが有効だ?)
それを決めない事には、この戦いに勝利はない。
果たして、どうするべきか……。悩ましいところである。
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(どうでも良い駄文書き)
この間、パラリンピックの走り幅跳びの選手の特集を見ました。
走るのに向いていないスポーツ用の義足で、健常者と変わらないほどのトップスピードを出して、7,8mという大記録を出していたのですが、その人は背中の筋肉を健常者以上に発達させていたんですよ。特集を見ていて、本当に凄いと思った。
義肢を使って健常者と同じ、いやそれ以上の成果を上げるには凄まじい努力が必要。
ジェラルド君も、身体の部品を変えるという所では日常用の義肢とスポーツなどの特殊作業用の義肢を使い分ける人々と似ている部分はあると思うんです。
けれども、まだそこまでは書ききれてないと思うし、読者に伝えきれてないから、そこも今後は出して行きたいです。
2016年7月29日 アッキより。




