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サビ付き英雄譚【打ち切り】  作者: アッキ@瓶の蓋。
王都と《蒼炎》の銀の書

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彼はどのように王都に入り込んだのか

明日から忙しいので、早めに更新。

 インヴィディアから"アレ"という秘密兵器を受け取った俺は、その3日後の午後に王城への侵入を開始した。

 この日の午後に作戦を決行した理由としては、この日の午前に大量の騎士が火の国フランメシアへと遠征に行く日であったからだ。騎士団の人間が精鋭、新米問わずにフランメシアとの合同訓練を行う今日この日は最もこの国の王都の警備が無防備になる時期であり、《蒼炎》が国家滅亡を企むとしたら一番可能性が高いと判断したからだ。

 大量の騎士がこの王都から離れる代わりにフランメシアからイアルーンという他国の優秀な騎士が自分の隊を率いてこの国を守るために来てくれるとは聞いているので、行動を起こすのは今回ではないのかもしれない。

 もしかしたらまだ行動を起こさないのかもしれないが、この合同演習に当初参加を希望していたジェラルド・カレッジ――――つまり、俺がこの合同演習から急遽外れたというから安心は出来ない。


 もしかすると《蒼炎》は、イアルーンという他国の騎士達が居るにも関わらず、この風の国を火の海に変えてしまうかもしれないからだ。



 俺達は城の周りを覆う、高い塀の陰で作戦の最終確認を行っていた。


「と言う訳で、早速行動するぞ。ラースとインヴィディア、お前らは当初の予定通り頼むな」


 ラースとインヴィディア、彼女らの目的は警備兵を惹きつけるための囮だ。

 昨日の話を聞いてみた所によると妖精族は天候さえ良ければ数時間は連続して浮遊が出来るらしく、ラースは森の狩りで薬草の知識に精通しているために眠り薬を作れる。

 インヴィディアには妖精としての飛行能力を用いて浮遊して貰い、それに驚いている兵士達をラースに弓矢にて眠らせて貰おうと思っている。新米騎士に対しては多少利くだろうが、それでも精鋭にこの作戦が効くとは思えない。だが、少なくとも俺達が城の中に入る時の、時間稼ぎにはなるはずだ。


「その時間を稼いでくれている間に俺とアケディアが2人で姫様の元に向かう」


 アケディアを連れて行くのは保険だ。

 攻撃が来た場合の壁代わりに成れば良いなと思っているのと、彼女の自主的な成長を促すために戦乱の中へと彼女を城の中への潜入任務のために配置した。


「ふむ、要するに私とインヴィディアは2人で足止めをしているのが仕事なの?」


「それも立派な仕事だ。ただし減らし過ぎるな。

 逃げても構わんが、最低でも眠らせる人間は一桁以内で頼みたい」


「……《蒼炎》ちゃんが魔物を呼んだ時のため、かしら?」


 インヴィディアの言葉にコクリと首を縦に振って肯く。


 《蒼炎》が魔物をどうやってこの国に入れるのかはまだ分からないが、もし魔物が攻め込んで来た時に必要となるのはなによりも人だ。数だ。

 言い方は悪いかも知れないが無能でも、未熟者でも構わないから、この国を守るためには出来るだけ多くの人間が必要となってくる。

 戦闘においては役立たずだとしても、人の価値と言うのは、騎士の価値と言うのは戦う事ではない。


 騎士の価値とは守る事。

 人を救護するのも、人を避難誘導する事も、そういった行為もなにかを守るという騎士のすべきことである。


 そんな中で、アケディアは居心地が悪そうな表情でこちらを見ながら意見を申す。


「あ、あの~……私は宿屋で待っているという役目で……」


「そんな役目は存在しない。と言うよりも、お前にはもう少し自信という物を持って貰うために、ここに配置したのだ」


 彼女が戦闘に対して否定的なのは、要するに自信がないからだ。

 奴隷経験が長い彼女は自分の価値が非常に低い、そうなるように奴隷商人や今までの主に育てられてきたからだ。

 だからそんな彼女には少しでも自信があれば、恐らく戦えるようになる。


 アケディアには高い防御力がある。

 それの有用性に自身が気付いた時、彼女の才能は開花するだろう。


「……どうしても、ですか?」


「あぁ、どうしてもだ」


「……ううっ、分かりました」


「そうだ、アケディア。これがお前のためになるだろう」


 嫌がりはしつつも、二度三度と否定しなくなったのは良い傾向だと言えよう。

 前までだったら何度も、何度でも、こちらが強く言わない限り首を横に振り続けていた彼女の以前の状況を考えれば、これは進歩だと言えよう。


「分かりましたわ~。では、計画を始めましょうか~?」


 そう言ってインヴィディアはふわふわと背中の羽を使いながら空を飛ぶ。

 しばらくすると門を守る兵士達が騒ぎ始めた。

 恐らくはインヴィディアの姿を見て、この辺りでは見ないような空を舞う妖精の姿を見て「侵入者ではないか」と騒いでしまっているのだろう。


「……インヴィディアが心配なので、そろそろ行きますなの」


「あぁ、頼んだ」


 ラースにそう言うと、彼女はじっとこちらを見つめる。


「あなたがなにか勘違いしているようだから初めに言っておきますなの。

 ――――私は、別に義理堅い種族性からあなたの援護を行っている訳ではありませんなの」


 そう言いながら彼女は俺の胸をポンとその小さな手で叩く。

 金属の俺の腕は彼女を柔らかく受け止める事は出来なかったが、彼女はそれでも何度も叩き続ける。


「あなたの、"心"というものに期待していますなの。親友と私を、あの研究者から救ってくれた……その事に対して多少好意を持っていますなの」


「…………」


「インヴィディアへの友情よりかは下になるなのが、それでも私は貴方の事を――――心からず、好きにはなっているなの。

 だから私は自分の、あなたを助けたいと言う"心"に従ってあなたを手伝う」


 「その事だけは忘れないで欲しいなの」と、彼女はそれだけ言うとインヴィディアを助けに森の木々の中へと入って行った。

 そのすぐ後に、インヴィディアという闖入者に騒いでいた兵士達の一部の声が聞こえなくなった。


「……どうやら、ラースも上手くやっているみたいだ」


 俺はラースに弓矢を向けられた印象が強かったため、暴走するのかと心配して接していたが、彼女自身は俺に協力する意思は固いようである。

 あんなにビクつきながら、ラースが協力しない可能性を考えていた自分がバカみたいである。


「心に従って、か……」


 そうだな、ラース。

 その言葉は確かにその通りだ。


 今、俺がやるべき事としては姫様の安全を確認する事。

 そして俺の身体を奪った《蒼炎》に対して落とし前を付けさせる事。


「よし、行くぞ。アケディア!」


「あぅ~……わ、わかりました……」


 こうして俺は意気揚々と、そしてアケディアは少し怯えている足取りではあったが、俺達は王都の城の中へと侵入した。


 さぁ、《蒼炎》よ。

 来るならいつでも来い!


 俺はお前に殺されたが、死神の力を借りてこの魔物の身体で蘇った。

 お前は魔法を使って赤い狼の化け物を作ったり、この城でもお前さんお得意の国家転覆を図っているのかもしれない。

 だが、それはこの俺が許さない。


 俺の身体を使って、これ以上悪い事は出来ないようにしてやる。

 そのためならばインヴィディアから貰った"アレ"を用いてでも――――《蒼炎》を殺してでも、俺は姫様から危機を排除しきって見せようじゃないか。


 それが俺の、自身の"心に従う"と言う事なのだから。


「居たぞ! あそこに魔物と奇形児だ!」


 ちいっ……! 早々に騎士に見つかってしまったか。

 それだけきちんと見回りを行っているんだと騎士団の隊長を行っていた者として褒めるべきか、それともここで早々と見つかってしまったのが《蒼炎》に伝わると状況的に拙いと見るべきか……。


「とりあえず考えるのは後だ! いくぞ、アケディア!」


「は、はぃ~!」


 そうして俺達は《蒼炎》を探して、城の中を進むのであった。

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