龍人はどこに飛ばされたのか
「居たぞ! 侵入者だ、捕らえろ!」
「「おぉっ!」」
そう言って現れたのは3人の男騎士。
1人は槍を持った白い騎士装束を着た若い騎士、そしてもう2人は赤い騎士姿の剣を持った騎士。
その3人の騎士は異形の人形騎士である俺と龍人の奇形児である2人を見て、すぐさま自身の持つ得物を抜いてこちらに刃先を向けていた。
そして持っている刃先がぶれているのを見て、俺は溜め息を吐きながら剣を抜いていた。
「剣も、そして槍も、刃先がぶれすぎていて攻撃にも、防御にも向いていないぞ……」
刃先とは剣術において狙いを定める部分であり、刃先がぶれればその力は分散してしまって、狙いが定まらず、その効力が完全には発揮出来なくなってしまう。
攻撃において刃先がぶれれば狙いが上手くいかずに思うような力が使えず、防御においても刃先がぶれれば相手の技を完全に受け止める事が出来ない。
刃先がぶれる事で良い事などまるでない。
「そんなのでは――――もう一度、新米からやり直しだ」
そう言って俺は持っている剣の峰を使って相手の手を叩く。
すると3人の騎士達はと言うと、その痛さ故に手を離して自身の得物を手放していた。その状態になったのを確認すると俺はそいつらの喉に向かって剣の持ち手を叩き込んでいた。
「「「うっ……」」」
そして息が出来なくなって倒れて気絶したのを見届けた俺は、そのまま剣を鞘へと収めていた。
人間と言うのは口で息をする物であるからその口を塞げば、いや口に近い喉を封じ込めれば後は呼吸せずに倒れる。
(……これは誰に教えて貰ったんだっけか? まっ、良いとするか)
「――――さっ、行くぞ」
俺はその場で倒れている騎士達3人を見ながら、怯えているアケディアに対して声を出していた。
アケディアはと言うと騎士達が武器を取り出した時点でガタガタと震えながら、その場で伏せていたのだが、危機は去ったのだからな。
「ううっ……怖かったです……」
「おいおい、あいつらは刺して強くはないぞ……。簡単に言ってしまえば、あいつらの力ではお前の硬い身体を貫けるほどの力はない」
そもそもウルフヘズナルとの戦いやユーリ・フェンリーとの戦いにおいて、こいつは余波でかなりのダメージを受けているのが普通のはずなのだ。
実際、俺やラースはそれに対して戦士として、狩人として避ける事を行ってダメージを減らしていたが、そう言った知識を持たないこいつの身体が異常なほどに頑丈なのである。
「ほ、ほんとう……?」
「あぁ、頑丈さだけ言えばな」
「よ、よかった……」
安心したのか、「驚かせてくれちゃって……メッ!」と気絶した3人に対して文句を言うアケディア。
余程の奴ではない限り、彼女に傷を付けるほどの実力者は居ないだろう。
「さて、このまま次へ向かうぞ。まだ《蒼炎》を見つける事は出来ていないのだからな」
「は、はひぃ……」
俺が手を伸ばすと、アケディアはそんな俺の手を取って立ち上がっていた。
そしてそのまま俺達は再び場内を、《蒼炎》を求めて探索する。
「良いか、アケディア。お前に足りないのは根性だ」
「こ、こんじょうですか?」
「そうだな。お前は普通に肉体的に恵まれているのにも関わらず、その恵まれた身体を活かしきれていない。いや、信じ切れていない。それは恐らくお前が、奴隷であったためだ」
普通、こいつくらいの防御力があれば戦闘に秀でていても、あるいはここまで弱気にならないはずである。その理由としてこいつが以前は奴隷であった事が鍵になってくる。
奴隷と言うのは基本的に相手の意見に追従する事を前提として作られる、人権を無視した負の産物である。そこに反抗心や敵対心と言った、従順とは程遠い意識は奴隷によって改善される。
故に奴隷であった彼女はそう言った精神的に乱暴な感情が出ないように調教、躾けされたのであろう。
「けれども何度も言っているだろう。お前にはそれだけの、俺にそう言わせるだけの力があるのだ。だから焦らずに、戦えば良いのだ。
最初のうちは負ける事があるかもしれないが、それでも戦い続ければいつかお前に確かな物として蓄積されるのだから」
「は、はひぃ……」
そうだ、それを分かって貰うために俺はこうして彼女をこの城の中へと連れて来たのだから。
「分かったのならば、さっさと――――」
俺はそう言いながら《蒼炎》を探すために、中へと入って行く。
「ま、待っ――――」
――――ヒュン!
そうやって入って行く中で、俺はマルティナ姫や王族に気を取られて気付かなかった。
――――アケディアがいつの間にか消えている事に。
☆
「あ、あれ? こ、ここは?」
私は確か……錆人形ながら騎士のような精神を持つジェラルドさんと一緒に、王城の中に入ると言う事をしていたはずだ。
だから周りの風景は王城らしい石造りのような景色だったはず――――それがなんで、こんな……
「真っ白な、なんにもない空間に……」
『ソれは違うナ、"ナんにもなイ"と言うのハここの住人たるおレに失礼じゃないカ?』
と、そんな誰にも居ない、真っ白な空虚な空間に1人――――私以外に一人の人物が居た。
その人物は頭に壊れた銀の王冠を被った、粘着質な赤い液状の身体を持つ丸い物体。
「……ス、スライム?」
そう、スライム。
魔力溜まりから生まれる下級モンスターで、相手に体当たりするか、増えて分裂するくらいしか、数だけが取り柄と言っても良いようなモンスター。そんなモンスターがどうしてここに?
『おヤ? スライムが喋る事に関シて驚かないとはナ。スライムが喋るなんテのは、創作上のおとぎ話くらいしカないはずなンだがネ?』
「……生憎と、仲間に喋る人形が居るので」
『はハっ! こレはいっぱイ食わされタ!
――――マっ、見てタけどナ。そしテお前ハ格下と思ってイる物には怯えナい事も分かっタ』
見てた? どう言う意味かと、私は考える。
けれどもあのスライムはさっきこう言った、「ここの住人たる俺に」と。
「住人? この真っ白な空間は、あなたが作り出したのですか?」
『あァ、そレは違ウ。ここを作っタのは俺ではナいが、俺はその人物かラここを預カってルんダ。ここ――――アスネビサルをナ!』
「アス……ネビサル?」
キョロキョロと辺りを見渡す私に、赤いスライムは『そう!』と力強く答える。
『ここはアスネビサル、毒を制スる者のミが使用を許されタ空間! 中に入った物を毒へと変える異空間! 灰も、塵も、宝石も、水も! その全テが入っタ瞬間、猛毒となッて蓄積さレる場所なのダ! 生命は分解でキないのガ欠点だガ!』
「毒の空間……でも、そんな空間にどうして私を……」
そう、それが一番の謎。
どうしてそんな場所に私が入ったのかが一番分からない。
『あァ、それはネ。こウ言う事サ!』
そう言って赤いスライムはピョンと跳んで一回転したかと思うと、その場にスタンと2本の足で着地する。
「えっ……」
『いやー、どうだ? なかなかイケてるだろ?』
赤いごつごつとした大人の腕くらいの大きさの両腕、小柄な身体、目の下のクマ。
――――それはまるで……
「わ、わたし?」
そう、目の前に居たのは水に映ったりしたりして見た事がある、赤い色であると言う事を除けば全てが私そっくりの少女。
『俺の能力の一つ、擬態だ。相手そっくりに化ける能力でな、これを自由自在に行える事もあって俺はあのお方にここを任されてんだ。
――――お前らが、《蒼炎》と呼んでいるあのお方にな!』
「――――ッ!」
その言葉を聞いた瞬間、私の身体に怯えが走る。
全身がぶるぶると震え出し、今にも足を揃えて逃げ出したくなるような、頭を抱えて塞ぎ込んでしまいたくなるようないつもの感触。
『俺は言われてんだ、怪しい奴をこの空間に落とせってな。
残念ながらここはある条件を満たさないと出られねぇ。その条件を満たすために、お前をここへ落としたんだよ。まっ、それが侵入者限定と、あの方に言われてるんだけどよ』
「そ、それは……私じゃなくて、あの人が……!」
『あぁ……あの変な人形か。あれならこの先で俺と同じく空間に囚われているだろうぜ。
――――あぁ、最初に言っておく。ここから出る方法は簡単だ。『出ろ』って命じれば良い』
ただし、と赤い私はそう付け加える。
『誰か1人、この空間で倒せなければここになにも命令できないんだけどよ。
誰かを倒す、それがこの蠱毒で、孤独な空間の脱出方法』
赤い姿をした私は、私に似合わない晴れやかで自信に満ち溢れた声で、高らかに宣言する。
『俺は擬態魔物のドン・ジュール!
さぁ、俺と戦って、俺にこの空間を支配させろ!』
そう言うドン・ジュール、赤い肌の龍人の背中には大きな、偉大さを見せつけるような赤い翼が大きく羽ばたいていた。
【アスネビサル】
…毒を生成する異空間。入った物を自動的に分解、吸収して猛毒を作り続ける空間であり、入った物が生きている場合は毒にはしない。
また毒を生成したり、この空間から出るためにはここの主とならねばならず、主となるためには敵をこの中に入れて1対1で戦って勝利しなけねばならない。
ちなみに《蒼炎》は作っただけで中に入ってはいない。
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